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米アップルが6月に開催される開発者会議「Apple WWDC23」で、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を組み合わせたMR(複合現実)ヘッドセットを発表する可能性があるという。英経済紙フィナンシャル・タイムズが伝えた。デザインチームとオペレーションチームとで発表時期について意見が分かれたが、CEOであるティム・クック(Tim Cook)氏はオペレーションチームを支持しているという。
デザインチームは製品をさらに軽量化して発売できるよう、もう何年かを費やしてもいいと考えていた。一方、COOのジェフ・ウィリアムズ(Jef Williams)氏を中心とするオペレーションチームは、発表に向け機は熟したと考え、クックCEOもこれ以上先延ばしにしたくないとの意向を示したという。
かつてアップルではプロダクトデザインチームが絶対的な発言権を持っていた。しかし時代は変わり、世界的に経済が衰退するなか、iPhoneがユーザーの心を動かせなくなるとマーケット優先という意見が優位を占めるようになった。
株価もまた投資家の姿勢を表している。アップルがMRヘッドセットを発表するという情報に呼応するように同社の株価は3%上昇した。
新製品のMRヘッドセットは腰に装着するベルト状のバッテリーを搭載し、見た目はスキー用ゴーグルのような形で、装着するユーザーの表情が周囲の人から見えるディスプレイを備えているとみられる。アップルのオペレーションチームはこの製品を「バージョン1」と位置づけている。機能はかなり限定されるが、没入型3D動画の視聴やインタラクティブなワークアウト、リアルなビデオ通話が可能だ。
定価は3000ドル(約40万円)で、初年度出荷台数は100万台を予定しているという。業界では極めて高価格と言え、米メタ(Meta)のハイエンドVRヘッドセット「Quest Pro」の3倍にもなる。
アップルは2016年に開発に着手以降、再三再四発表を延期してきた。この分野には失敗例があふれているが、その最たるものは、ベンチマークとされていたメタがVRヘッドセットに全てをつぎ込むと1年で株価が半値近くまで落ち込んだことだ。メタのメタバース事業は赤字が続き、リストラを実施、出荷量は伸びなかった。中国ではVRに取り組む大手企業の業績が振るわず、多くのスタートアップがひっそりと姿を消した。
アップルの開発も順調というわけではなく、大量の資金とマンパワーをつぎ込んだ。2013年に関連企業の買収を始めてからは、ほぼ毎年のように買収を行っている。直近では20年にVR配信プラットフォームの「Next VR」やVRスタートアップ「Spaces」を買収している。しかしMRヘッドセットの発売時期は幾度も延期された。19年に開発チームの中心だったAvi Bar-Zeev氏が退社すると、MRヘッドセットの開発を一時的に中止するとの情報が流れた。
アップルが発表した23年第1四半期(22年10〜12月)決算によると、iPhoneの売り上げは前年同期比で8%減少、純利益も同13%の減少となった。そのため、開発期間が7年にも及んだ次世代プラットフォームにもしびれを切らしたのだろう。同社の元エンジニアによると、開発チームは出荷に関して極めて大きなプレッシャーを感じていたという。
今回の製品が完成されたものではないにせよ、アップルはこれ以上待つことはできない。高価で手の届かない実験的な製品であったとしても、XR(クロスリアリティ)分野におけるアップルの存在感を示さなければならないのだ。
(翻訳・36Kr Japan編集部)
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