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中国浙江省杭州市で9月に開幕する第19回アジア競技大会では、eスポーツが正式競技として登場する。eスポーツは新興のスポーツ産業として中国で注目度が高まっており、広く受け入れられつつある。アジア大会を追い風に、中国のeスポーツは「スポーツ化」がさらに進むとみられる。
eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、選手権やリーグ戦などの形式で対戦する競技ゲームを指す。競技に参加する選手やチームは、ソフトウエアとハードウエア、情報技術(IT)によって構築されたバーチャル(仮想)空間で、各種電子デバイスを「運動器具」として知力と体力を駆使して戦う。中国では2008年に78番目の正式なスポーツ競技として定義された。
16年からはeスポーツ産業の振興政策が次々と打ち出され、eスポーツは中国で広く社会に受け入れられるようになった。eスポーツ産業は新たな高みへと押し上げられ、プロ化、規範化、体系化の段階へと徐々に移行していった。
アジアeスポーツ連盟(AESF)、中国のIT大手、騰訊控股(テンセント)のeスポーツ部門「騰訊電競」、テンセント傘下の調査機関「企鵝有調」が合同で発表した「2022年アジアeスポーツ産業発展報告」によると、中国ではeスポーツのアジア大会での採用を支持するネットユーザーが79.9%に上った。eスポーツは従来の電子ゲームの範囲にとどまらず、脳力・体力・技術の真剣勝負であると、多くの人が認識しつつある。
中国のeスポーツ国家強化チームがアジア大会の出場選手を選抜する際は、従来のスポーツ競技と同様に強化合宿中のパフォーマンスに加え、選手の価値観や個人の素養、規律性などを重要な選考要素にしているという。中国で比較的早い時期に設立されたeスポーツクラブの一つ「杭州LGDゲーミング」の潘婕(はん・しょう)最高経営責任者(CEO)によると、選手は毎日少なくとも9時間のトレーニングをこなす必要があるため、身体的な素質も試される。潘氏は「eスポーツは単なるゲームではない。トップレベルのプロ選手になるためのハードルは高く、才能だけでなく屈強な精神力と粘り強さも必要だ」と語った。
競技内容の面でも、eスポーツは従来のスポーツ競技にどんどん近づいている。杭州アジア大会に採用された7タイトルのうち「王者栄耀(オナー・オブ・キングス)」と「和平精英(ゲーム・フォー・ピース)」の2タイトルは大会専用バージョンが作られた。「王者栄耀」ではオリジナルバージョンと「伝説対決-Arena of Valor-」をある程度融合させ、「和平精英」ではリアル(現実)のスポーツ競技を参考にしてスカイダイビングやクロスカントリーラリー、射撃などのシーンを盛り込んだ。各国・地域の選手のプレー体験を考慮しつつ、試合の公平性と競技性の高さという特徴を持たせた。eスポーツが公平、団結、技を競うというスポーツ精神を体現し、従来のスポーツ競技との融合を加速させつつあることが見て取れる。
アジア大会に採用されたことで、eスポーツに対する社会の偏見がなくなり、競技の規範化に向けた基礎が築かれた。例えばドーピングの問題。世界各地で開催される各種eスポーツ大会では大勢のプレーヤーが参加するものの、今のところ「世界アンチ・ドーピング規程」の制約を受ける大会はほとんどない。だが、正式競技として採用されたアジア大会ではおのずとアンチ・ドーピングの管理対象に入ることになる。競技タイトルの一つである「FIFAオンライン4」の許沢西(きょ・たくせい)中国代表監督は「アンチ・ドーピングがeスポーツと従来のスポーツとの融合を象徴している。eスポーツは規範化、スポーツ化に向かっている」と語った。
今年発表された「中国eスポーツ産業報告」によると、22年の産業全体の収入は1445億300万元(1元=約19円)、競技人口は約4億8800万人で、業界内では産業の発展に楽観的な見方が広がっている。潘氏はeスポーツの今後について、若年層の人気が高く市場規模も大きいことから軽視できない産業になっていくと指摘。また、従来のスポーツはデジタル化が必要でeスポーツもさらなるスポーツ化が必要なことからeスポーツとアジア大会のタッグは双方にとってメリットが大きいとの見方を示し、アジア大会をきっかけにeスポーツの大衆化が進むことを望むと語った。(新華社北京)
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