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ガチ中華の店が増えた。日本在住の中国人は75万人弱(令和4年6月末)と在住する外国人の中でも圧倒的に多く、それもあって中国人向けの飲食店や商店も多くみかける。その場で食事を提供したり食材を販売するだけでなくデリバリーも行っていて、家までガチ中華料理や中華食材を運んでくれる。何のアプリかといえば地域で違いはあるので、店のガラスのドアやレジを見てみるといい。「Hungry Panda」をはじめとしたフードデリバリープラットフォームのシールが貼られているだろう。
この事象は日本に限った話ではない。世界各地のガチ中華や中国食材の店で、中国人向けの各国各都市に展開するフードデリバリーサービスのシールが貼られている。数百万人の会員を抱える北米の「Weee!」「亜米(Yamibuy)」や欧州の「亜超在線」を筆頭に、オーストラリア、ドバイや東南アジアの大都市にも有力なフードデリバリーがあり、さらには中国人が多く住むカンボジアの首都プノンペンはもちろん、中国人が多く住むカンボジアの地方都市シアヌークビルですら確認できた。
アプリをダウンロードして注文をすれば、食事や食材を届けてくれたり、店で商品を用意してくれるのはUber Eatsなどと同じだ。より正確にいえば、これらは中国のデザインや使い勝手をそのまま持ってきた「Copy from China」のサービスである。フードデリバリーサービスのSaaSが販売されていて、プログラムを一から組む必要はなく簡単にフードデリバリーサービスを開始できるためだ。始めやすいビジネスということもあり、日本も含め世界中で同じデザインのフードデリバリーサービスが立ち上がっている。
海外でのガチ中華のECサイトの始まりは2013年頃からアメリカではじまり、2015年頃から世界中で立ち上がったと言われている。このころから中国のインスタント麺や火鍋セットなどが買えるようになった。タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアでは在住する中国人向けにだけでなく、中国料理を求める中国人観光客をも見込んで、プラットフォームを運営しその狙いは当たった。また中国人の多いカナダでは本国さながらに20〜30ものフードデリバリープラットフォームが乱立。大都市で展開し競合他社を買収するプラットフォームや、競争を避けるために中小都市に展開するプラットフォームが残った。世界規模まで拡大したフードデリバリープラットフォームがHungryPandaで、2023年までに2億2000万ドルの融資を受けた同社は、日本でも展開していたオーストラリアのEASIを買収し統合を進め、今では日本、アメリカ、イギリス、シンガポールなど10カ国60数都市に展開するまでになった。この生き残り方も中国でのビジネスでよく見るストーリーだ。
Copy from Chinaと書いたが、より具体的に言えば、黄色いスタジャンで知られる「美団(Meituan)」からの模倣だ。美団はフードデリバリーにとどまらず、あらゆる店やサービスとつなぐO2Oプラットフォームだ。前述の世界に拡大するHungryPandaは、華人向けの生鮮ECやグループ購入サービスを一部地域でリリースし、かつニュージーランドでは同国での華人サービス取引プラットフォームの「掌上新西蘭」を買収。ドバイの「WeMart」もフードデリバリーに加え華人向けのグループ購入、宅配や家事代行サービスを行う予定だという。タイの「飛象外売」は2019年にはホテルやチケットの予約といった旅行代理業を開始した。
海外に在住する中国人の多くは、海外在住の日本人が日本で人気のネットサービスを日々利用するのと同じように「微信(WeChat)」や「小紅書(RED)」といったネットサービスを活用し、中国と同じ習慣で生活している。ただ海外在住の日本人と中国人の違いもあり、中国人の中には本国での流行に追随して消費する層がある。例えばエアフライヤーが中国で流行となると、各国での中国語検索でエアフライヤーが目立って検索されるようになるという具合だ。こうした事例は2010年台前半からあり、まだECサイトの海外配送対応がされていないころ、コンテナに入れてまとめて送る業者が存在した。
中国人の中国料理を食べたいという食のニーズに応えるため、北米では中国でも普及する豆乳メーカー、ミキサー、電気鍋やノンフライヤーを販売する「華人生活館」というECサイトがある。販売する商品は中国で人気の九陽や小熊といった中国の定番ブランドという徹底ぶりだ。また北米で展開する「小紅Mall」は、華人向けに日本や韓国の化粧品、日用品や健康食品を販売。2万点を超える商品を販売し、ユーザーは100万人を超えるほどの人気となっている。
HungryPandaもWeMartも創始者は現地にいる華人にあらゆるサービスを提供するプラットフォームを目指していると語る。それは言い換えれば現地在住の華人の消費を独占するサービスを目指すともいえる。日本のHungryPandaでも既に美容院、ネイルサロンや(日本の指定の店での)代理購入サービスを行う店が見られるが、プラットフォーム自体が日本の中国企業を吸収し業務拡大を経て、さらには中国の流行の商品や調理器具を販売するような総合プラットフォームになっていくかもしれない。
(作者:山谷剛史)
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