「ここをアジア文化のハブに」、中国独立系書店「単向街書店」が東京・銀座に海外1号店

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中国の有名独立系書店「単向街書店」が8月26日、東京・銀座1丁目に海外初の店舗「One Way Street Tokyo」を正式に開業した。専門チームが丁寧にセレクトした中国語の書籍のほかに、日本語や英語の作品も取りそろえている。

単向街書店は、北京大学出身の知識人で作家やドキュメンタリー番組の司会者としても知られる許知遠氏が、志を同じくする十数人の友人とポケットマネーを出し合って設立し、2006年に北京市内に1号店をオープンした。当時の中国では、教育関連の本が並ぶ昔ながらの書店が依然として主流だった。そんな中、単向街書店は独自のセンスでセレクトした文化・美術・建築・都市関連の書籍を取りそろえて異彩を放っていた。当然、先進的なアイディアを追い求める若者たちから大きな支持を集めた。

2023年現在の単向街書店は、出版、オリジナルグッズの販売、ギャラリー、文化サロンなど複数の機能を備え、単なる書店を超えて総合的な文化空間に成長した。中国国内ではすでに、北京市のほか、浙江省杭州市、河北省秦皇島市、広東省佛山市に計8店舗を展開している。

一見順調に事業を拡大してきた単向街書店だが、インターネットの普及により紙媒体が衰退を続ける中で、安定的な収益を支えるビジネスモデルの確立に苦しみ、財政難に直面する日々もあった。とくに、新型コロナウイルスの流行中はさならなる苦境に立たされたが、クラウドファンディングに救われたという。

こうした環境で、日本の、しかも銀座のような一等地に実店舗を開設するというのは、時代の流れに逆らう決断のようにも思える。筆者はOne Way Street Tokyoのオープニングイベントに足を運び、創業者の許氏にその意図を単刀直入に聞いてみようと考えた。

「One Way Street Tokyo」の2階につながる螺旋階段

許氏は中国の「文化的アイコン」として知られる存在で、消費とエンタメに支配される時代に独立思考で反旗をひるがえす理想主義者と呼ばれている。その一方で、「知識人特有の傲慢さと偏見の持ち主」や「現実離れしたロマンチスト」と揶揄する声も聞かれる。そんな彼が、すぐにはお金にならない書店ビジネスを日本で展開するのは、分からなくもない。それでも、その本当の理由を彼の口から聞きたかった。

許氏は、日本との関わりが深い近代中国の啓蒙的思想家・梁啓超についての著書をまとめるため、しばしば日本で調査を行ってきた。2020年に日本を訪れた際には、新型コロナによる渡航制限のため、東京に約5カ月間滞在せざるをえなくなった。この時、東京に単向街書店をオープンしたいとの強い思いが芽生えたのだという。ちょうど同じころ、東京で宿泊施設などを運営する中国人企業家らと出会い、彼らの支援を受けて東京で単向街書店を開業する運びとなった。

許氏は「当初はよく散歩する隅田川付近で開業する予定だったが、新型コロナの影響で思い通りにならなかった。まさか3年後に銀座でオープンすることができるとは思いもしなかった。本当に運が良かった」と笑顔で話してくれた。

ちなみに、梁啓超は1898年の「戊戌の変法」に失敗して日本に亡命。明治期の日本で西洋文化を吸収し、自身の近代国民思想を形成する上で大きな影響を受けた。失敗を繰り返しながらも強い信念を失わず、新たな試みに挑み続けた波乱万丈の人生に、許氏は深い共感を覚えたのではないだろうか。

オープニングイベントで楽しそうに話す許知遠氏

One Way Street Tokyoは、初期投資に約8000万〜1億円をかけたという。業界全体に「本を売るだけではビジネスが成り立たない」という共通認識が広がる中、どのように経営を維持するのか、という現実的な質問を投げかけてみた。許氏は「書籍販売だけで収益を上げることは考えていない」「書店ビジネスは短期的なリターンを求めるものではなく、長期的な忍耐が必要なビジネスだと考えていている」と述べた。

日本には、業界の手本となる新たな形の書店があり、蔦屋書店や台湾発の誠品書店などが成功を収めている。内山書店など中国書籍専門の老舗もある。その中で、単向街書店は差別化を図るため、One Way Street Tokyoをアジア文化の「ハブ」とし、アジア文化でつながるコミュニティの構築を目指すという。

在日中国人は東京だけで25万人もいるにもかかわらず、本当に質の高い中国の書籍が提供される場所は非常に限られている。One Way Street Tokyoは、彼らの基本的なニーズを満たした上で、中国語のほか日本語や英語、韓国語などで書かれたアジアの歴史と文化に関連する書籍を販売するとともに、知的ライフスタイルを提供することに焦点を当てる。

「何かを求めてここに集まる人々に交流の場を提供したい。中国をはじめ、アジアのパワフルな作家やアーティスト、クリエーターを集め、自由に楽しく意見交換ができるコミュニティを形成し、アジア文化の多様性と相互のつながりをより豊かにしていきたい」。許氏は目を輝かせながら「ここがアジア文化のハブになったらいいね」と微笑んだ。

2階の会場で開かれたトークイベント

One Way Street Tokyoでは毎週末、さまざまな分野の専門家を招いてトークイベントを開催している。プレオープン期間にも複数回のトークイベントを開いたが、毎回立ち見が出るほどの大盛況だった。今後は、中国生まれの著名詩人・北島(ベイダオ)と日本の著名写真家・森山大道とのコラボ展示も行う予定となっている。

One Way Street Tokyoは決して広くはない。にもかかわらず、その1階の隅にこじんまりしたカフェスペースを併設し、2階にイベントスペースを設けた意味は大きい。そのことが、オープニングイベントに参加して理解できたような気がした。夜のパーティーに集まった数十人のゲストたちは、音楽が流れる中でグラスを手にし、熱い会話を繰り広げていた。許氏は2階の小さなベランダでひとりタバコをくゆらせながら一言、「これが単向街書店が日本に存在する意味」とつぶやいた。

(記者:WANG、編集:田村広子、写真:MilkShakeYoung)

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