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9月20日はチェリーにとって「幸運な日」だった。彼女は中国の女性向けファッションに特化したソーシャルEC「蘑菇街(MOGU)」のライブ配信者(ライバー)だ。中国では近年、ライブストリーミングを活用したECが特に女性の間で普及している。
チェリーはこの日、毛皮製品の産地である浙江省嘉興市桐郷市崇福鎮を訪れ、現地から毛皮製品のライブコマースを実施した。売上高は一晩で100万元(約1500万円)を突破し、彼女のこれまでの最高額を2倍以上上回った。
この幸運は決して偶然の産物ではない。チェリーらはライブ配信の3日前、蘑菇街が杭州市で開催した秋冬物受注会で、崇福鎮最大の毛皮メーカーと商品提供に関する契約を交わしていた。商品の安定供給が彼女の記録的な販売を支えたのだ。
この受注会は、ECサイトがライブ配信者のために開催した初の受注会だった。蘑菇街で活動するライバー200人と、全国的に有名なサプライヤー(商品を直接提供できるメーカー)300社が参加し、会場には化粧品、下着、アパレル、食品などライブコマースで取り扱われるほぼ全ての商品が勢ぞろいした。
会場ではファッションショーも行われた。新商品を着用したモデルに即席のランウェイを歩かせることで、ライバーが発注を素早く決断できるようにした。
この受注会の目的はサプライヤーとライバーをマッチングさせることにある。ライブコマースにおいて商品供給は最も基本的であり、最も重要だ。だが大部分のライブ配信者はこれまで、サプライヤーや商品選定の際、オンライン上の展示会で商品を確認するか、「タオバオ(淘宝)」などのECサイトの力を借りるか、もしくはオフラインで実施される化粧品など単一の商品を扱う展示会などに参加するかという選択肢しかなかった。
中堅ライバーに恩恵
今年26歳になるチェリーは蘑菇街では少し名の知れたライバーだ。デビューして3年、26万人のフォロワーを抱えているが、全面的かつ安定した商品供給が常に悩みの種だった。これまで受注会に3度参加した経験があるものの、いずれも商品供給という厄介な問題の解決にはつながらなかった。
蘑菇街が今回開催した秋冬物受注会は、チェリーのようなフォロワー数がそれほど多くなく、経験が浅いライバーに、大手業者や信頼できるサプライヤーと直接対面できる機会を提供した。中堅や下っ端のライバーはこれまで、こうした機会を到底得られなかった。会場には、タオバオの人気ナンバーワンライバー、薇婭(viyaaa)に大量のアパレル製品とサプライチェーンサービスを提供する「海寧慕名服飾」、スペインのファッションブランド「ZARA(ザラ)」などのOEMを手掛けるメーカーなどが出展していた。
ライバーが最も恐れるのは商品供給の不安定さだ。例えば実力がないサプライヤーだと、同じ型番の商品でも、製造ロットごとに違う生地が使われる場合があり、出荷も追いつかない。商品供給が安定しているのは実力のある優良メーカーやサプライヤーだ。プラットフォームがこうした優れた業者を集めることができれば、ライバーに対する信頼も高まる。cherryは今回の受注会には蘑菇街が厳選した業者が集められているとし、「ライバーが落とし穴にはまったり、たくさん回り道をしたりせずに済む」と評価した。
業者の願い
蘑菇街にとって意外だったのは、今回の受注会に対して業者からの反響が最も大きかったことだ。オンライン、オフラインを問わず、ECサイトが主催する展示会ではライバーに主眼が置かれ、ライバーが業者を選定するが、業者の意向には応えられてこなかった。ある大手業者は「ライバー本人と会って商品の話をし、市場の流行を理解したいと思っているのに、通常はライブ配信中にちょっと会うぐらいしかできない」と語る。
ライブコマース向けの受注会は従来型の受注会とは異なる。国内の優良業者やサプライチェーンとともに、プラットフォーム上の優良ライバーを一堂に集め、より精度の高いマッチングを行う。両者が交渉するのは売買ではなく、発注の意思だ。会場では直接発注することは求められず、ライバーと業者は商品供給に関して意見を交わす。また、発注量や商品のライフサイクルも「少量、短期間」に変わり、大半のライバーが10~50社と協賛できれば十分という状況になっている。
今回の受注会では新しい動きもみられた。ECサイト「天猫(Tmall)」などで大きな売り上げを誇るファッションブランド「UNIFREE」、SNSで人気が爆発したコスメブランド「完美日記(Perfect Diary)」など、ブランドを展開するメーカーも参加したのだ。
あるブランドの関係者によると、ライブコマースが始まった頃は、ライバーがメーカーに対してライバーの価格設定権を求めたり、返品にかかる費用を負担するよう求めたりするケースがあった。だがブランド品はブランドという付加価値が求められる商品であり、既存の販売チャネルや価格帯が機能していたことから、ライバーが値下げを要求するような場合は、さっさとライブコマースから手を引いていたという。
とはいえ、ライブコマースによる販売のてこ入れには大きな魅力がある。レベニューシェア方式(業者が価格を設定し、ライバーは収益に応じて報酬を得る)が広がっていることもブランドを展開するメーカーに安心感を与えた。今回の受注会に参加した業者の多くが、ブランドも最終的にはライブコマースを販売チャネルの一つとして選ぶことになるとみている。
ライブコマースにとって、安定したサプライヤーを確保できるかどうかが、ライバーの成長を左右する大きな問題だった。そして安定したサプライヤーを求める動きがライブコマースという新たな販売形式に適応する成熟したサプライチェーンを生み出し、ライバーと業者間の精度の高いマッチングという需要が今回のような受注会につながったと言えるだろう。
(翻訳・池田晃子)
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