コネクテッド・カーへのサイバー攻撃、AIが監視・検知。中国新興、複数の自動車大手にサービス提供

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2023年初めに突如登場した米OpenAIの対話型AIサービス「ChatGPT」は、瞬く間に世界を席巻し、新たなAI開発競争を引き起こした。実際には、超高性能のAIでもあらゆる産業の問題全てに対処できるわけではない。このため、AIの性能向上を追い求めると同時に、各産業ではアプリや基盤技術のかたちでAI活用が進んでいる。

例えば、コネクテッド・カーを開発する自動車産業では、AIを導入し膨大なデータでトレーニングを施した結果、米テスラの自動運転ソフトウエア「フルセルフドライビング(FSD)」が、北米地域で過去最高レベルの運転支援機能を実現した。

AIは自動車産業において、スマートコックピットやセキュリティなどのさまざまな分野で活用されており、業界を再編しつつある。例えば、AIが搭載されたスマートコックピットでは、人と話すような親しみを感じる音声対話が可能になる。

サイバーセキュリティの分野でも、AIは大きな可能性を秘めている。特にコネクテッド・カーのネットワーク機能が増える中、セキュリティの抜け穴やハッキングの攻撃手段は多様化している。中国のスタートアップ「木衛四科技(Callisto Technology)」はこの問題に対処するため、AIが自動アップグレードと改良を進める自動車サイバーセキュリティシステムを構築した。

2022年に設立された木衛四科技は今年8月、自動車サイバーセキュリティ向けの基盤モデル「蝴蝶(Butterfly) AI」をバージョン1.0から2.0へとアップグレードした。このモデルは数百万台に上る自動車のログから、ハッカーの攻撃や車両の異常を自動的に検知し、リアルタイムで自動車のセキュリティリスクを特定するのに役立っている。

自動車サイバーセキュリティの同業他社にはイスラエルのUpstream(アップストリーム)があり、スウェーデンのVOLVO(ボルボ)や韓国のHyundai(ヒョンデ)といった自動車メーカーから出資を受けている。

木衛四科技の創業者・雲朋氏は、2014年に中国IT大手の百度(バイドゥ)に入社後、自動運転プラットフォーム・Apolloの開発でセイバーセキュリティ部門の責任者を務め、豊富な経験と技術を蓄積してきた。自動車の電動化、スマート化、ネットワーク化が急速に進む中、自動車産業でサイバーセキュリティが重要な役割を担うようになると考え、コロナ禍の中で百度の同僚と共に木衛四科技を設立した。

同社が発表した2024年上半期の自動車サーバーセキュリティ調査リポートによると、今年前半に世界で確認されたサイバー攻撃の70%は遠隔攻撃で、特にスマートコックピット、EV充電サービス、車両のリモート操作、自動運転などが標的とされ、物理的な攻撃はわずか5%にとどまった。

雲氏は、自動車サイバーセキュリティが、積極的な防御と自動アップグレードの段階に向かうとの見方を示した。同社はAI技術を活用して、高いレベルのサーバーセキュリティシステムを迅速に構築する手助けができるという。

同社の車両セキュリティ・オペレーション・プラットフォーム「VSOC」は、AIアルゴリズムを使って数千件に上る自動車データを詳細に分析し、ユーザーの行動と悪意のある活動を区別できる。例えば、T-BOX(テレマティクス・ボックス)、IVI(車載インフォテインメント)、CGW(セントラルゲートウェイ)、BCM(ボディコントロールモジュール)、TSP(テレマティクスサービスプロバイダ―)、OTA(Over The Air)、アプリケーション、データ暗号化などの装置やサービスを継続的に監視するほか、数十種類のスマートサービスに対応している。雲氏によると、AIはもともと膨大なデータからパターンをとらえることを得意とするため、ユーザーの習慣をもとに行動の意図を理解し、より正確な警告を発せられるという。

また基盤モデルの「蝴蝶 AI」は対話型のAIアシスタントとして機能し、運転ルールやセキュリティ、データ分析などを担う複数のAIエージェントとして、自動車の全ライフサイクルにわたるセキュリティシステムの構築をサポートする。

例えば、自動車メーカーのオペレーターが、VSOC上に表示された数十万件のセキュリティ警告メッセージを目にした際、AIアシスタントの分析が無ければ、膨大な警告の中から本当にリスクのある脆弱性を見落としやすくなる。VSOCのAIアシスタントを使えば、オペレーターは、ドアの状態に関する数多くの警告のうち、本当に脅威となるケースはどれかを質問することができる。同社のAIは自動車サイバーセキュリティに関して、ChatGPTよりも法規の理解と質疑応答のレベルが高いという。

これは、同社が基盤モデルを数多くのデータでトレーニングしているためだ。「蝴蝶 AI」は、十数カ国・地域の自動車に関する法規のほか、ディーラーが持つ販売や品質などのプライベートデータも使った1年間のトレーニングを通じて大きく進歩したという。

またサイバー攻撃は、車両と道路のV2X(Vehicle to X、車両とモノの通信・連携)といったシーンでも発生する可能性があるため、同社のソリューションは、運転支援機能や充電ステーションなどの分野もカバーしている。さらに自動車メーカー、ティア1~2サプライヤー、コネクテッド・カー向けプロバイダーなどさまざまな分野で、オーダーメードのセキュリティ情報サービスを提供できる。

雲氏によると、「蝴蝶 AI」はすでに実用化の段階に入っている。同社は欧洲でグローバル運営センターを設立し、中国から海外進出した大手自動車メーカーに加え、中国市場に参入した海外企業にもセキュリティサービスを提供している。現在はBMWやフォードの中国法人のほか、賽力斯(Seres)、奇瑞(Chery)、上海汽車(SAIC)、広州汽車(GAC)、蔚来汽車(NIO)などの自動車メーカーと提携している。

AIサービスの改良や実用化、エコシステムの拡大を進める木衛四科技は、多くの投資機関から注目されており、今年5月にはプレシリーズAで数千万元(数億~十数億円)を調達した。

*1元=約21円で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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