中国半導体メーカー、NVIDIAの独占市場に切り込む AI向けチップの開発着々

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米半導体大手のNVIDIA(エヌビディア)が、人工知能(AI)向け半導体で「一人勝ち」を続けている。その独占状態を打破するため、中国の半導体メーカーが立ち上がった。

SNSの微信(Wechat) 上で、上海市のハイテクパーク・張江科技城に入居する中国半導体メーカーのスタッフらが、非公開のチャットグループを作り活動を始めた。彼らは共通のライバルNVIDIAに対抗するため、グループチャットで情報交換とリソース共有を進めている。

NVIDIAの画像処理用半導体(GPU)「NVIDIA A100」は卓越した性能を誇り、大規模言語モデル(LLM)の訓練(トレーニング)用で筆頭候補に挙げられてきたが、中国の顧客はその高価さやローカライズ不足に不満を抱えていた。中国半導体メーカーの複数のスタッフによると、中国市場でNVIDIAの手厚いサポートを十分に受けられるのは、百度(バイドゥ)、アリババグループ、テンセントのIT御三家(通称「BAT」)やバイトダンスのような数十億元(数百億円超)規模の大口取引先だけで、数千万元(数億円超)規模の取引にとどまる大部分の企業は満足にアフターサービスを受けられないという。

2022年、米政府は中国への半導体輸出規制に踏み切った。これが中国の半導体メーカーにまたとないチャンスをもたらした。中国でNVIDIAの市場シェアが縮小すれば、中国メーカーにとっては市場参入の好機となる。

米NVIDIA、次世代AI半導体で中国向けモデルを準備中 米対中輸出規制を回避

2023年、NVIDIAは中国のデータセンター向けGPU市場で98%のシェアを占めた。しかし、中国の半導体メーカーは諦めなかった。中国の顧客に寄り添ったきめ細やかなサービスを提供し、数十万元(数百万円超)の取引しかない顧客にも24時間体制で相談に応じ、徐々にシェアを伸ばしていった。ファーウェイがNVIDIA A100に代わる半導体として開発した「Ascend 910B」は、成功例の筆頭に挙げられる。

一部の中国半導体メーカーは原価割れの低価格で市場に食い込もうと試みたが、チップそのものの問題が数多く露呈した。業界関係者によると、NVIDIA A100ならば1組のデータセットを処理するのに10日しかかからないところ、一部の国産品では数カ月が必要だという。国産半導体は、ハードウエア技術の蓄積や先進的な製造プロセスに欠けており、それが使用効率の低さにつながっている。ソフトウエアの安定性についても向上が待たれる。

中国半導体メーカーは、NVIDIAに対抗できる現実的な路線を探り始めた。摩爾線程(Moore Threads)やファーウェイのようにNVIDIAに真っ向勝負を挑む企業もあるが、燧原科技(Enflame Technology)や天数智芯(Iluvatar CoreX)など多くの企業は、大規模言語モデルや小規模言語モデルの推論に特化した半導体に目を向け始めている。

AIユニコーンの智譜AI(Zhipu AI)やMiniMax、階躍星辰(StepFun)などは、いずれも1兆パラメーター規模の大規模言語モデルを訓練している。NVIDIAの高性能半導体が入手しにくくなったことで、これらの企業はNVIDIA製と国産半導体の併用を選択するようになった。例えば、智譜AIのトレーニングクラスターの半分近くは、ファーウェイの半導体Ascendが占めている。

摩爾線程のトレーニングクラスター「誇娥(KUAE)」(2024世界人工知能大会にて)

一部の新興半導体メーカーは、GPU以外のAI向け半導体アーキテクチャを模索している。米グーグルの独自の「テンソル・プロセシング・ユニット(TPU)」やAI処理専用チップ(ASIC)といった新たなアーキテクチャは、汎用性に欠けるきらいはあるものの、トランジスタ利用率や性能で強みを発揮する。2024年に入ってから、中国では新たなアーキテクチャを手がける半導体企業の創業が相次いでいる。最近では、上海市政府がこうした新興企業2社を秘密裏に支援したとの情報もある。

TPUを手がける中昊芯英(Zhonghao Xinying)の楊龔軼凡CEOは、GPUのトランジスタ利用率が20%にとどまるのに対し、TPUやASICでは60〜100%に上ると説明。今後3〜5年でGPU以外のAI向け半導体がたくさん登場するはずだと語った。

半導体世界大手の米インテルと米AMDも、NVIDIAの地位を狙っている。AMDのAIアクセラレータ「Instinc MI」の開発スタッフは、NVIDIAを超える製品の開発を目指しているという。とはいえ、両社ともハードウエアでは一定の優位性があるものの、ソフトウエアのエコシステムには課題が残されている。NVIDIAのソフト開発ツール「CUDA」はすでに多くの開発者を抱えており、競合他社が短期間で追いつくのは難しい。

さまざまな課題に直面しながらも、中国の半導体メーカーや海外の大手メーカーはNVIDIAに対する包囲網を狭めつつある。そして、その影響はすでに現れ始めている。米アップルは2024年7月30日、AIモデルの訓練にグーグルのTPUを用いると発表した。翌31日、NVIDIAの株価は7%下落した。

IT世界大手の米グーグルや米マイクロソフトなどは半導体の内製化を進め、NVIDIAへの依存を減らしている。IT中国大手のアリババグループやバイトダンス、百度なども、水面下で大規模言語モデルの訓練に特化した半導体の研究を進めているという。半導体をめぐる市場競争は、今後ますます激しさを増すだろう。

(翻訳・田村広子)

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