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中国人をはじめ外国人が自国で取得した免許を日本の免許に切り替えるには『外免切替』という方法がある。運転免許試験場に早朝から長蛇の列ができている様子がフジテレビの情報番組で放送され、日本で大きな反響を巻き起こした。
外国人観光客によるレンタカーの事故や中国籍ドライバーによる事故で話題になった中、こんなに簡単な方法で日本の免許が取れることに心配や疑問の声も上がっている。外国人が殺到する「外免切替」はどういうものなのか、なんで長蛇の列になってしまうか、なんで日本の免許が人気なのか?その理由を探ってみた。
外国人レンタカー利用者は年間300万人に迫る!ほとんどが、国際免許を利用
コロナが明けて約1年半。いまや日本を訪れる外国人観光客は1か月300万人規模となった。観光庁の調べによると、その7〜8%が移動や観光にレンタカーを利用している。外国人のほとんどは、国際免許証でレンタカーやカーシェアを利用し、その数は2019年頃の年間100万人前後から最近では年間250万人~300万人近くまで急増している。
日本はジュネーブ条約(1949年)の締約国であるがために、有効な国際免許証は表紙に「CONVENTION ON ROAD TRAFFIC OF 19 SEPTEMBER 1949」と記されているジュネーブ条約様式で発給されたものに限られる。パリ条約(1926)、ワシントン条約(1943)、ウィーン条約(1968)に基づく様式の国際免許は無効で無免許運転と同じ扱いになる。しかし、大手レンタカー店でも窓口のスタッフが国際免許について熟知していないことも多く、レンタカー店のカウンターでトラブルも頻発している。
なお、ロシアのようにジュネーブ締約国であっても発給する国際免許がジュネーブ様式ではない場合は無効となるので注意が必要だ。締約国以外でもフランス・ベルギー・モナコなど2か国間での取り決めによって運転できる国もある。
では、中国はどうだろうか?ジュネーブをはじめ、交通に関するいずれの国際条約も締結していないため、中国で発給された免許は日本国内では無効。観光で来日してレンタカーを借りて運転することはほぼ不可能だった。
ところが、昨年夏頃から中国のSNSで「日本の免許をゲット!」「たった5日で取れた!」など中国人による投稿が目立ち始めた。これらを可能にしたのが「外免切替」という、外国の免許を日本の免許に切り替える制度である。驚くことに在留カードがなくても住民登録がなくても観光ビザとホテルの住所で申請が可能となる。
そして一度、外国免許から日本の免許に切り替えると、日本人と全く同じ手順で免許の更新や講習の手続きを進めていくことになる。自国の免許の扱いは各国様々で返納がマストのところもあるようだが、ほとんどはそのまま自国の免許も一緒に保有しているようだ。
さらに日本の免許を取得すれば日本で発給されるジュネーブ様式の国際免許も発給できる。中国政府のサイトによると、中国の免許で運転できる外国の数は10数か国とされるが、ジュネーブの国際免許を取得すれば約100か国での運転が可能となる。免許証の国際的価値もぐっと上がる。
府中も鮫洲も前の晩から外免切替のための行列が!
昨年の8月頃から一部の中国人の間で大人気となっている外免切替だが、今年春頃から東京の運転免許試験場では外免切替の手続きを希望する外国人が前の晩から列を作るようになった。とくに「先着順」で学科試験を受けられる府中と鮫洲の試験場の前には暗いうちから長い列ができる。
全国の試験場はほとんどが「予約制」を導入しているが、先着順の良いところは1日に学科試験(知識確認)を受けられる人数が40~60名と制限はあるものの、早めに並んでおけば確実に受験ができてその日のうちに学科試験の合否がわかることだ。なお、横浜や門真(大阪)の試験場では学科試験を受けるまで3~4か月も待たなくてはならない。そこから技能試験までさらに1〜2か月待つことになるので、外免切替を思い立ってから少なくとも半年間が必要になる。
10月中旬、朝5時頃に府中試験場を訪れてみたところ、すでに30名程度が行列を作っていた。試験場を囲むフェンスには「行列禁止」の張り紙が何か所にもあった。列の1番前に並んでいたスリランカ人の学生に話を聞いてみると、前夜22時から並んでいるとのこと。彼は日本で自動車関係の専門学校で学び、将来は国に帰って自動車整備などの仕事に就きたいと語っていた。
いっぽう、鮫洲はどうか?やはり10月半ばから数回、未明に行ってみたが一番多い時で20名ほど。鮫洲は始発のバスや電車で来る人が多いようで朝6時過ぎると一気に人が増える。
「外免切替ができなくなる」と中国でデマ拡散!
11月1日から府中はついに完全予約制になった。鮫洲はそのままの先着順だ。府中が予約制になることは10月21日に警視庁のホームページでも発表されている。そして、この情報が公開された頃から中国のSNS「小紅書」などでは、外免切替に関するデマが多数拡散され始めた。
「11月1日から府中では外免切替ができなくなる」
「11月1日から観光ビザでの外免切替申請は認められない」
わざわざ動画を作ってデマを拡散する中国人もいた。デマだとわかって拡散し再生回数を稼いでいるのか?それとも純粋に日本語の意味を理解していないのか?
念のため鮫洲試験場の外免切替担当の職員に確認したところ、「11月1日から府中で予約制となるだけで、あとは何も変わりません。観光ビザでは申請できなくなるということもありません。必要な書類もすべて従来のままです。鮫洲はずっと先着順で外免切替の手続きを受け付けています。デマに惑わされないようにしてください。不安なことがあれば試験場に問い合わせてください」という回答だった。
また、今後もホテルの住所で外免切替の申請ができるのか?こちらについても聞いてみた。
「ホテルの住所で申請するということは免許証の住所欄にホテルの住所と名前が掲載されるということになります。それについてホテル側が了承していれば問題ありませんが、ほとんどのホテルは了承しないと聞いていますので現実的には難しいのでは?一時滞在の証明書を受け取るときに必ずホテル側に確認してください」
府中で予約がスタートしたが、すでに予約した人達の投稿では「予約が始まった10月28日に府中にいって予約をした。11月の午前中は取れなかったが12月の午前中に予約することができた」などがあった。予約受付開始の初日でもうすでに1か月待ちとなっている。
運送業の人手不足に対応したい日本の思惑も
外免切替を希望する外国人が増えたのは、「世界100か国で運転可能な日本ブランドの免許証を入手したい!」という理由もあるだろうが、人手不足がとくに深刻な運送業界において外国人材を増やしたいという日本政府の思惑もある。外国人の2種免許取得を緩和する数々の試みは昨年秋から始まっており、今年6月には学科試験を受験できる外国語が5~6言語から最高24言語(地域によって異なる)まで大幅に増えている。
外国籍ドライバーによる事故も急増している昨今、母国で免許を持っているとはいえ試験の内容や交通環境、交通マナー、歩行者への対応などは日本と大きく異なる国も少なくない。わずか2択問題で10問中7問正解すれば合格という「知識確認」(学科試験)ではあまりにも心もとない。すべての外国人が危なっかしい運転をしているわけではないと思うが、せめて「外国人の運転」がわかるよう初心者マークのようなものをつけることはできないか?善良な日本人ドライバーに「避ける権利」を与えて欲しいと切に思う。
(文:自動車生活ジャーナリスト・加藤久美子)
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