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世界有数のものづくりの拠点として知られる愛知県が、近年、スタートアップ支援にも注力している。自動車や航空宇宙産業など製造業の集積地として発展してきた同県では、次世代の成長産業を担うスタートアップ育成を政策の柱に据え、国内外のイノベーション拠点との連携を強化している。
その一環として始動したのが「Aichi-China Innovation Program(ACIP)」だ。本プログラムは、愛知県発のスタートアップが中国市場に進出するための足掛かりを提供するもので、2024年も選抜企業に対して現地でのピッチ大会やイノベーション施設の視察、ネットワーキング支援など、実践的なサポートが数多く行われた。
なぜ今、中国市場なのか。言うまでもなく、中国は巨大な内需と急速な技術革新を併せ持つ世界屈指の成長市場である。特にAI、ロボティクス、スマート製造といった分野では、グローバル市場を牽引する動きも見られる。こうした背景を踏まえ、愛知県は日本のスタートアップに対して“アジアの現場”に直接触れる機会を創出し、その挑戦を後押ししている。

中国でピッチイベント・エコシステムツアーを実施
2025年2月、ACIPの一環として、愛知県選抜スタートアップ3社が中国・北京および深圳を訪問。現地スタートアップエコシステムの中核拠点を巡りながら、自社のプロダクトや技術を中国の投資家らに向けて発信するピッチイベント、3社それぞれの事業と関わりの深い専門家や協業パートナー候補との個別面談などを実施した。
今回参加したスタートアップは以下の3社である。
株式会社ViewBE(CEO 鈴木 葉留奈氏)
「髪から自分らしさを可視化する」ヘアテックプロダクト「Faview」を展開。毛髪センシングとデータ分析により、パーソナライズされた美容体験を提供するスタートアップ。
株式会社Quastella(CEO 竹本 悠人氏)
生成AIを活用し、社内ナレッジやFAQを統合・活用するナレッジマネジメントツールを開発。情報共有と業務効率化を支援するプロダクトを提供する。
Industry Alpha株式会社(CEO 渡辺 琢実氏)
製造業向けに、センサーとAIを活用したスマートファクトリー・デジタルツインソリューションを提供。生産現場の見える化・最適化を支援する。
一行は、北京市では、愛知県と提携関係にある清華大学サイエンスパーク(TUSパーク)や、レノボ本社(レジェンドホールディングス)を視察。深圳では、ファーウェイ(華為技術)、ネコ型配膳ロボットで知られるPudu Robotics(普渡科技)、ITCC(政府系インキュベーション施設)などを訪れた。これらの訪問を通じて、各社は中国の最前線にある技術開発や市場ニーズ、そして現地スタートアップ支援制度について理解を深めた。
ハイライト①:ピッチイベント&個別面談で、事業展開スピードをさらに加速
本プログラムでの注目ポイントのひとつに、現地の有力な投資機関やパートナー候補企業が一同に集まるピッチイベントが挙げられる。各社は、自社の技術・サービスを発表するだけでなく、現地のエコシステムプレイヤーと直接対話し、生のフィードバックを得る貴重な機会となった。
例えば、株式会社ViewBEが手がけるヘアテック事業「Faview」に対しては、中国側の強い関心が見て取れた。業務用途(B2B)、個人用途(B2C)ともに市場性の高さが評価され、「すぐに導入を検討したい」との声も複数寄せられた。
代表の鈴木葉留奈氏は、こう語る。
「半年前から市場調査を進めてきましたが、北京での反応は予想以上に熱量がありました。もちろん文化や制度面のハードルもありますが、それ以上にパートナー候補との出会いが多く、グローバル展開の道筋が具体化した実感があります」
こうしたリアルな現地体験こそ、本プログラムが提供する最大の価値と言える。なお、同氏は今後、上海や香港への展開も視野に入れており、もちろん愛知県の支援も最大限に受けながら既に具体的なアクションを検討中とのことである。
愛知県は、各スタートアップの事業ニーズに応じた個別面談も現地で調整している。現地パートナー企業や投資家との1対1の対話を通じて、より具体的な協業・市場展開の可能性を探る機会を提供した。短期間ながら実務的な議論に踏み込むことで、現地との関係構築が一層加速した点は、参加者にとって大きな成果となったようだ。
ハイライト②:世界をリードするデジタル・AIの最前線を体感
他にも印象的な体験となったのがレノボ本社への訪問だ。同社は1984年に創業、当時からIT企業を目指しており、現在ではグループで10万人を超える世界を代表する企業となった。その技術開発戦略は「オープンイノベーションプロセス」に基づき、次世代技術の産業化を行っている。5年後、10年後の技術にフォーカスするため産学連携を強化し、自社技術と人的リソースも活用しながらR&Dと事業化を並行して推進する。投資領域も幅広く、AI、バイオ、材料、宇宙関連にまで及ぶ。日本企業との連携事例も多く、現地でのIP共創を通じた技術連携モデルは、今後のスタートアップにとっても学ぶべき点が多い。
また、深圳におけるファーウェイやPUDUでは、ハードウェアとソフトウェアを融合したプロダクト開発、ロボティクスの高速な事業化スキームに触れた。PUDUではヒューマノイドロボットの商業化が数年以内に見込まれているといった話もあり、参加者からは「日本では想像しにくいスピード感」「試作から量産までのプロセス設計が非常に参考になる」といった声が聞かれた。
通常であれば接点を持つことも簡単ではない海外の巨大テック企業との交流は、日本人起業家にとって大きな刺激となっただけでなく、今後の海外展開を見据える上で不可欠なノウハウや実践的なネットワークの獲得に繋がったようだ。
アジア市場に挑む第一歩としての中国
今回の訪中プログラムを通じて、参加したスタートアップはいずれも中国市場の「リアル」に触れ、具体的なビジネスの可能性を感じ取った。文化や商習慣の違いという壁は確かに存在するが、それ以上に、テクノロジーに対する投資の大きさ、そしてスピード感は、日本の起業家にとって刺激的であり、視野を広げる契機となった。
愛知県が本プログラムを通じて示したのは、「世界に通じるスタートアップを愛知から生み出す」という強い意志である。今後も、アジアに軸足を置いた挑戦の場を広げることで、愛知発のスタートアップがよりダイナミックに世界と交わる時代が来ることを期待したい。
(36Kr Japan 編集部)
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