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世界で話題の汎用型AIエージェント「Manus」を開発した中国のAIスタートアップ「Butterfly Effect(蝴蝶効応)」が、突如として中国国内のチームを解散した。また、中国本土から自社ウェブサイトへのアクセスを遮断し、微博(Weibo)や小紅書(RED)といった国内のSNSアカウントもすべて削除されている。この動きからは、同社が「中国発」というイメージの払拭を図り、中国市場から手を引く方針であることがうかがえる。
Manusは今年3月6日にローンチされるやいなや、世界のテック業界やメディアの関心を集め、「次なるDeepSeek」とも称された。招待制のクローズドベータという形式だったため、一時は招待コード1つに10万元(約200万円)もの値がつくなど、一種の狂騒状態を見せた。
製品発表から5日後、Manusはアリババの大規模言語モデル「通義千問(Tongyi Qianwen)」との提携も発表し、「QwQ-32B」を導入することで推論コストの削減を図った。
3月28日に有料サブスクリプションプランを開始。5月初旬には、米老舗ベンチャーキャピタル(VC)のBenchmarkが主導するシリーズBで7500万ドル(約110億円)を調達したことが報じられた。
5月12日には一般ユーザー向けにサービスを全面開放し、初日だけで登録者数が100万人を突破するなど、大きな話題を呼んだ。
6月18日にシンガポールで開催されたAIイベント「Super AI」では、同社のプロダクトパートナーの張涛氏が、本社はすでにシンガポールに移転し、米カリフォルニア州や東京にもオフィスを構えていることを明かした。
そして7月8日、中国のSNS上で「Manusが国内の社員約80人(全体の7割超)を解雇し、残る中核メンバーはシンガポールへ移籍する」との情報が流れた。かつて公開されていたアリババとの提携に関する公式発表も、現在は閲覧できなくなっている。
この突然の「撤退劇」に対し、業界関係者はそれほど意外に感じてはいないようだ。ManusのAIエージェントは、標準化されたツールを統合する有効性を示した点で評価されているが、こうしたMCP(マルチコンポーネントプラットフォーム)的なアプローチは、海外のほうがエコシステムとして成熟しており、中国特有の規制にも縛られない。また、中国では個人ユーザー向けソフトウェアに対する課金文化がまだ根付いておらず、ビジネスとして成立させる難しさもある。
一方で、「今回の撤退は地政学的な要因による、やむを得ない妥協」と見る声もある。テック分野で米中の覇権争いが激しさを増す中、本社と開発チームを中国に置くAI企業が、海外市場や投資家、各国当局から信頼を得ることは一層困難になっている。Benchmarkによる出資に対しても、米政府が国家安全保障を目的とした対外投資審査制度に違反していないか調査に乗り出しているという。
このような背景から、「脱・中国化」を進めるAIスタートアップは他にも存在する。たとえば、2023年に米国へ拠点を移した動画生成AI「HeyGen」や、IT大手バイドゥ(百度)出身者が立ち上げたAI検索エンジン「Genspark」などがその一例だ。
今や中国のAI企業が真にグローバル市場に進出するには、「中国企業」というアイデンティティを脱ぎ捨てることが避けられないフェーズを迎えているのかもしれない。
*1元=約21円、1ドル=約149円で計算しています。
(36Kr Japan編集部)
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