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中国では近い距離で推し活ができるアイドルの形態がいくつかある。ひとつは地下アイドル。中国語では「地下偶像」、略して「地偶」だ。日本から輸入されたカルチャーであることから、日本の歌がよく歌われる。もうひとつは近年盛り上がってきている「団播(ダンボー)」というライブ配信のアイドルだ。団の字の通りグループで活動する。地下アイドルについては「中国の若者に広がる『日本式地下アイドル』の実態」という記事で書いているのでそちらをご覧いただきたい。
素人からプロ集団への変貌する「グループ配信」
団体で踊る様子を見せる配信は、中国版TikTokの抖音(ドウイン)や快手(Kuaishou)といったショート動画プラットフォーム上で以前から存在していた。ただクオリティは当時と現在で全く異なる。
以前は素人の数人が元気いっぱいに踊るだけで成立していた。現在では、芸能人や歌舞団に所属する中国芸能のプロや、芸能界入りを目指す素質ある若者が参加し、アイドル育成に特化していたMCN(インフルエンサーを束ねる組織)も参入している。ライブ配信ルームにはテレビ局のスタジオ並みに機材が多数投入され、衣装やメイクも本格化した。

こうした環境の大きな変化から、スマホの向こう側にいる人々は「元気いっぱいの青年」から「美男美女」へと変化した。そうなると美的感覚に対する要求も高まり、スマホでの単一視点からの撮影では視聴者のニーズを満たせなくなっている。
また配信内容も大きく変わった。かつては、投げ銭をした視聴者のリクエスト順にメンバーがダンスを披露するものから、ラップバトル、アクロバット、マジックなど、様々なパフォーマンスが交代で披露されるようになり、飽きのこない構成となった。こうしたコンテンツは、MCNが配信の2週間ほど前から綿密に計画し、データ分析も活用しながら、練りに練ったものだという。
さらに、中国人の感性に刺さる伝統文化を正しく継承して演じるグループや、2.5次元的なアニメやゲームとリアルを混在させるグループなども登場している。団播はグループダンスを見るものという固定観念を打ち破り、より大衆が楽しめるエンターテイメントコンテンツに進化している。
随分と凝ってきたので参入ハードルは高く、やもすれば配信者は以前より少ないように思うかもしれない。ところが団播は実に多く、抖音や小紅書(RED)で何回かスワイプするだけでそうした動画が表示されるほど普及し、「団播といえばこういうライブ動画」というのは中国ネットユーザーの間で広く認識されている。
その人気ぶりや業界への投資の勢いは、データからも明らかだ。抖音によれば、2024年以降、プロ仕様のスタジオ設備を備えた団体放送ルームの数は前年比230%増となり、これらのルームの平均視聴時間は一般的なライブ配信ルームの2.8倍に達している。「2025年中国オンライン公演産業団体ライブストリーミング事業現状及び発展分析報告」によると、2025年に動画サービス上で団播が配信される1日平均のライブ配信ルーム数は約8000にもなる。前年比20%以上増加と増え続け、2025年の団播市場規模は150億元(約3300億円)を超えると予想されている。
中国式「ライブ配信×EC」の新形態
市場規模が拡大ということは、つまり消費者が団播を通してお金を使っていることになる。収入源は、視聴者の投げ銭に加え、商品販売や企業からの広告収入だ。人気グループともなればオフラインでのコンサートに発展し、チケット収入やグッズ販売による売上も加わる。

今や中国の抖音、快手や小紅書などのプラットフォームにはEC機能が搭載されており、アリババの淘宝や天猫などのプラットフォームを経由せずに直接商品を販売できる。配信ルームから商品ページへと誘導し、広告商品やグッズを販売するのも大きな収入源となる。

中国のECといえば「ダブルイレブン(独身の日)」セールが象徴的だ。この期間では毎年プラットフォームが補助金を投下し安売りをするとともに、新しいテックトレンドを広めるのが通例で、2025年のダブルイレブンでは団播にもフォーカスがあたった。ライブ配信時に視聴者の投げ銭を通じて、リアルタイムで「センターステージ」の出演者を決めるというコンテンツを配信し、団播を認知させ、視聴者を惹きつけた上で、さらに補助金で安くなった商品を買ってもらうキャンペーンを行ったのである。

芸術系大学生の「キャリアの受け皿」に?
昨今、中国の景気は内外で悪化が指摘されているが、団播は「踊れるアイドル」という素材をもつ人々や、大学のメディア系芸術系学部の卒業生の受け皿となっている。MCNは所属インフルエンサーをマネージメントする組織だが、団播のMCNはスタジオと撮影スタッフを揃えた芸能プロダクションに近い存在だ。素材のある人材を雇い、厳しいトレーニング育成をして配信を行い、さらにCM出演やショートドラマ出演など次の仕事への橋渡しを行う。たとえば、あるMCNの新人育成の研修キャンプでは約15日間、午前10時から午後10時まで、姿勢、リズム、基本的なスキルなどのテーマを網羅したコースでトレーニングを行う。

そのため、団播は芸術やメディアを専攻する大学生の卒業後の受け皿のひとつとなり、大学生の将来の不安軽減に役立っている。
団播は新しいアイドルと視聴者をつなぐ中国ならではの形態で、スマホを使った中国式の推し活を実現するプラットフォームだ。アイドル候補生にとってもは団播はより広いキャリアの可能性を見出せる夢の舞台となっている。
とはいえ中国のネットサービスは概して競合相手が急増し、過度の競争の末にはほぼ共倒れとなりがちなのも事実だ。団播ブームが何年先まで続くかわからないので、どんなものか気になるならば早めに一度覗いてみるのがいい。団播ビジネスは、日本のエンタメやビジネスにも参考になるかもしれない。
(文:山谷剛史)
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