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エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)を手がける中国のスタートアップ企業「它石智航(TARS)」が2025年12月19日にオンライン発表会を開催し、手刺繍が可能な人型ロボット(ヒューマノイド)を披露した。ライブ配信では、ロボットが針を精密にコントロールして刺繍を進め、同社のロゴを完成させた。

最高経営責任者(CEO)の陳亦倫氏は「私たちが開発したロボットは、単に刺繍ができるだけではない。真の意味で物理世界を理解し、精密操作を安定的に実行する能力を備えている」と説明した。
刺繍は、布という柔軟物を相手にミリ単位の位置精度と繊細な力制御を同時に求められるため、人型ロボットにとって最難関のタスクの一つとされてきた。
世界初とされる今回の実演で、ロボットは誤差1ミリメートル未満の精度、両手を協調させた動作、柔らかな物体への正確な対応、繊細な力覚制御能力に加え、複雑で長い工程でも高い成功率を維持できる実行能力を示した。
これらの能力は、産業の現場でワイヤーハーネスの組み立て作業などへの応用が期待される。ワイヤーハーネスの組み立ては、大量の高密度コネクタを識別して正確に挿抜する必要があるため、自動化が難しい。実演では、ロボットが刺繍作業に続いてワイヤーハーネスの組み立てを連続的かつ滑らかな動作で遂行。追加の補正はほぼ不要で、力・姿勢・周囲の環境の変化に柔軟に対応できる安定した制御性能が示された。
目指すのは「本当に役に立つロボット」
TARSは2025年2月、優れた人材が結集した「ドリームチーム」によって設立された。陳CEOは以前、華為技術(ファーウェイ)の自動車部門で自動運転システムの最高技術責任者(CTO)を務めていた。チーフサイエンティストの丁文超氏は、ファーウェイの「天才少年(優秀な若手研究者)」募集プロジェクトで採用された経験がある。会長の李震宇氏は、百度(バイドゥ)の自動運転事業グループの総裁を務めた人物だ。同社は設立わずか約1カ月後に、エンジェルラウンドで1億2000万ドル(約190億円)を調達している。
目下、業界では任意の物体をつかみ取ったり、衣服をたたんだり、コーヒーを注いだりさせることで人型ロボットの性能を示すケースが多い。刺繍をさせるケースが少ないのは、布などの柔らかい物体に対する操作が課題となっているからだ。柔軟性のある物体は動作に応じて形を変えていくため、視覚情報だけで「次になにが起こるか」を判断するのは難しい。
現在主流のVLA(Vision-Language-Action)モデルは視覚情報を中心としており、力覚や触覚などの検知では課題を抱えている。より現実的な問題として、業界では力覚や触覚を体系的に処理する統一的な枠組みをまだ構築できておらず、データの収集やモデリングを標準化するプロセスも不足している。
TARSが導き出した答えが「世界モデル(World Model)」だ。エンボディドAI向け基盤モデル「TARS AWE(AI World Engine)2.0」は、エンド・ツー・エンド(E2E)学習によって、現実世界で収集したデータを直接ロボット本体に移行する。
柔軟な物体を処理する際の難点は、どのように動くべきかだけでなく、動いた結果として「世界」がどう変化するかを理解し、その変化に合わせて動き方を変える必要が生じることにある。世界モデルは場面に応じた動作を選択し、動作後の世界の変化をシミュレーションすることができる。
世界モデルの主な課題は、データ不足や空間認識能力の面にあるとされる。陳CEOは、エンボディドAIの進化は自動運転が進化してきた道のりと極めてよく似ているとしたうえで、「自動運転とロボットは技術的な根幹が同じで、自動運転の初期の技術基盤はロボット研究から発展したものだ」と述べた。
陳CEOの見方では、エンボディドAIの現在の段階は、おおよそ2019年の自動運転に相当するという。当時の自動運転業界はデータ不足というボトルネックに直面しており、約10万時間分の高品質なデータを必要としていた。エンボディドAIはより複雑なタスクが求められるため、現実世界で収集した100万時間分のデータが必要になる。
TARSは遠隔操作によるデータ収集ではなく、人間中心(Human-Centric)の技術的枠組みを選択。エンボディドAI用データ収集システム「SenseHub」を自社開発し、グローブやパノラマカメラなどのウェアラブルデバイスを通じて、人間の実際の動作や言葉、触覚などのマルチモーダルデータを収集できるようにした。今後はエンボディドAI向け基盤モデルTARS AWE 2.0の訓練や改良を進め、現実世界の物理法則や相互作用のロジックに近づけていく方針だという。
陳CEOは発表会で、「あらゆる技術の最終的な検証基準は、信頼性と効率性の高い『本当に役に立つロボット』を大規模に配備できるかどうかにある」と強調した。
*1ドル=約157円で計算しています。
(翻訳・田村広子)
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