「ニッチ」は諸刃の剣 再生数10億回の古典美人ユーチューバー、中国の田園生活を世界へ発信

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中国の素朴な田園生活や伝統に根差し季節とともに生きるスローライフを伝える人気ビデオブロガーの「李子柒(Liziqi)」さんは、海外にも人気が飛び火した成功者の1人だ。主に料理を中心とした動画コンテンツは古式ゆかしい風情が特徴的で、料理のプロセスから調理道具、また登場人物の装いに至るまで濃厚な中国らしさに溢れている。

その後、取り上げる題材は料理だけでなく伝統的な文具(筆や墨など)や化粧品などのハンドメイドにも広がり、彼女が住む四川省の農村部から発信を続けている。心を洗われるような田園風景がファンの心を掴み、さらには海外にまで人気が波及したのだ。

李子柒さんが伝統的な手法で醤油を醸造した動画に寄せられたコメント

今年12月時点で、中国版ツイッター「微博(Weibo)」に開設した李さんのアカウントには2100万人以上のフォロワーがついている。同じく中国の動画共有サイト「ビリビリ動画(bilibili)」ではフォロワー280万人超、2017年8月にスタートしたYouTubeではチャンネル登録者が770万人以上に達している。YouTubeでの総再生回数は9億7000万回に上り、動画1本あたり1000万回を超えている。

画像提供:YouTube分析ツール「Nox Influencer」

李さんに並ぶ中国人人気ユーチューバーの「弁公室小野(Ms Yeah、オフィスの小野さん)」はチャンネル登録者数が約800万人で李さんを上回っている。しかし広告収入や動画1本あたりの推定収益でみると、ブランド力は遠く李さんに及ばない。

画像提供:YouTube分析ツール「Nox Influencer」

YouTubeの中国地区における人気ユーチューバー上位3人は小野さん、李さん、そして李さんと同じくカントリーライフ系の動画を配信する「滇西小哥(Dianxi Xiaoge)」さんだ。小野さん以外の2人は国内の別プラットフォームで人気となってからYouTubeに進出してきた。李さんはYouTubeでの動画投稿本数が20本を超えたあたりからタイトルやサマリーを中国語・英語の2カ国語表記としている。つまり、YouTubeは李さんにとって新たな発信チャネルの一つに過ぎなかったのだ。はなから大きな反響を期待したわけではないが、海外では思いのほか注目されたということだ。

強みでもあり弱点にもなり得る「グルメ+中国風」路線

李さんのコンテンツの最大の強みは食関連のものだろう。

グルメ系コンテンツは大まかにわけて3種類ある。一つ目はいわゆる「レシピ動画」。視聴者が実際に活用する目的で作られている。二つ目は、映像を楽しみ、知識を得るための「ご当地グルメ動画」。食材や道具の調達が難しいことから、視聴者が家庭で再現することはできないが、興味を惹く美食を紹介するものだ。三つ目は「食レポ動画」。大食いなど「食べるプロセス」を見せるものだ。

李さんの動画は二つ目のカテゴリに当たり、いわゆるブルーオーシャンと言える。他者による模倣が難しく、鑑賞に堪えるクオリティがあり、なおかつ気軽に視聴できる内容構成となっており、単なる食を紹介するにとどまらず、地域特有の風物までも描写している。しかし、こうした「グルメ」と「カントリーテイスト」をかけ合わせたコンテンツは必ず成功するのかと言えば、そうとは限らない。李さんは外国人が求める「中国らしさ」や「中国式伝統」を存分に演出したことで頭一つ抜けた存在になれたのだ。

同じ東アジア圏に視点を移してみよう。日本や韓国にも独特の伝統や文化が存在するが、こうした分野で飛びぬけた人気インフルエンサーは現れていない。両国の人気ユーチューバーランキングをみてみると、ほとんどがエンターテイメントや音楽を取り扱っている。

日本の人気ユーチューバー上位8人(画像提供: Nox Influencer)
韓国の人気ユーチューバー上位8人(画像提供: Nox Influencer)

音楽やエンターテイメントと比較して、李さんが発信するコンテンツはニッチだ。つまり、中国の人気インフルエンサーは最も人気の高いジャンルで勝負していない。フォロワー数の差も歴然だ。ユーチューバーの世界ランキングで250位のメキシコのアカウント「ExtraPolinesios」は主にチャレンジ動画などを配信しているが、チャンネル登録者数は1400万人超。李さんの倍に近い。

「グルメ+中国風」という切り口は個性があり新鮮味もあるが、「ニッチである」ということは強みであると同時に成長のボトルネックにもなり得るということだろう。

成長に欠かせないMCN

YouTubeのコンテンツレコメンデーションは、コンテンツの質を優先的に評価する。つまり、再生時間が中心的指標になるということだ。ユーザーの視聴を促す魅力的なタイトルやサムネイルは再生回数の向上には役立つが、再生回数はさほど重要な要素ではなく、動画を最後まで再生してもらうことが求められる。

同一内容の動画に付されたサマリーの違い。左はビリビリ動画、右はYouTube

動画コンテンツが言語の壁を乗り越えることはローカル化に欠かせない最初の難関だが、それ以外にも、使用楽曲の版権問題やポータルサイトとのリンク、フォロワーとのコミュニケーション、広報など、制作活動の足を引っ張るようなルーティンは山積みだ。さらに、動画プラットフォームごとにレコメンデーションシステムやマネタイズモデルが異なり、これらにも対応しなければならない。

ビデオブロガーの仲間入りをするなら、コンテンツ運営以外の部分にも多くの労力を割かなければいけないということだ。そこで、マネジメントなどを請け負ってくれるMCN(マルチチャンネルネットワーク)が不可欠な存在となってくる。

中国のYouTuberの多くが実際にこうしたMCNと提携している。前出の小野さんは「洋葱集団(ONION GROUP)」と、滇西小哥さんは、中国の動画クリエイターの先駆者Papi醤が率いる「papitube」と提携してから飛躍的に伸びた。

「WebTVAsia(葡萄子伝媒)」もこうしたMCNの一つだ。マレーシア企業「葡萄子媒体娯楽製作(Prodigee Media)」の子会社で、ユーチューバーに特化したYouTube公認MCNとして、SNH48を含め数多くの中国人気タレントのチャンネルを運営している。。

WebTVAsia傘下のユーチューバー(画像提供:WebTVAsia公式サイト)
画像提供:中国のセルフメディア「文娯商業観察」

「快手大数據研究院(Kuaishou Big Data Research Institute)」の調査によると、今年6月末時点で中国国内には6500社以上のMCNが存在する。彼らは将来の有望株を見出して育成するほか、一定の知名度を獲得している所属タレントをYouTube、Facebook、Instagram、Twitterといった世界の舞台に送り出している。

海外進出の困難

しかし「第二の李子柒」を生み出すには、差別化や収益化において困難が伴う。

差別化を実現するのに必要な要素は二つ。その一つはオリジナリティだが、これを維持するには相当のコストがかかかる。李子柒さんは醤油を手作りするわずか11分の動画を制作するのに2年かけてロケーション撮影を行い、筆や紙の制作に挑む動画を撮影するために、長期間にわたって技巧の取得に励んでいる。差別化に必要なもう一つの要素は、同じジャンルを手がけるクリエイターが増える前に先行者になるということだ。そもそもがニッチ分野なので伸びしろは限られており、後発者には参入の障壁が高くなる。

ユーチューバーにとっての収益源は主に三つある。一つは広告だが、YouTube Adsに加入すると収益の45%はYouTube側に収めなければならない。個人で広告を受ける場合も、YouTubeからチャネルは提供してもらえる。二つ目の収益源は視聴者からの投げ銭や定額視聴料だが、投げ銭は30%、視聴料は50%をプラットフォーム側に収めることになる。三つ目の収益源はEコマースだ。

中国ではEコマースが広く普及しており、ビデオブロガーにとっては「モノを売る」ことが大きな収益源となる。しかし、現段階ではYouTubeとの親和性は高くない。プラットフォーム上でプロモーションできる商品と紹介可能な内容の範囲、提携できる企業などに関してはYouTubeが強い決定権を握っているからだ。李子柒さんが運営するオンラインショップも国内向けに限られており、海外発送は行っていない。280万人のショップユーザーはすべて中国人だ。

李さんは間違いなく、海外進出して最も成功した中国人ユーチューバーだ。しかし、世界を見渡せば、グローバル規模でトップクラスとなったユーチューバーたちのチャンネル登録者数は数千万単位。700万台の李さんは遠く及ばない。

世界の人気ユーチューバー上位10人。チャンネル登録者数の規模が違う(画像提供:Nox Influencer)

それでも中国のクリエイターが海外で活躍する余地は大いにある。海外のプラットフォームは収益方法が画一的で、利益の上げられるジャンルもエンターテイメントや音楽に限られているため、中国のクリエイターが単なる偶然に頼らずとも成功できる土壌はあるのではないか。

※アイキャッチ画像は 李子柒YouTube公式チャンネルより
(翻訳・愛玉)

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