中国で20年以上走り続けてきたイトーヨーカドー、「日本式小売り」が成功した秘密

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イトーヨーカ堂の中国事業に創設時から加わり、2017年にイトーヨーカ堂代表取締役社長に就任するまで中国小売業界の一線に立ってきた三枝富博氏が、小売業に対する理念や中国小売業界の現状などについて語った。以下は昨年11月、中国の青島市で開催された中国連鎖経営協会(CCFA)主催の「中国全零售大会(CHINA NATIONAL RETAIL CONGRESS)」登壇時の講演内容などをもとにした抄訳。

イトーヨーカドーは典型的な日本式のGMS(ゼネラルマーチャンダイズストア)だ。地下階は生鮮食品を扱うスーパーマーケット、地上階は百貨店という構成で、実際の生活シーンを想起させる商品陳列も特徴だ。

三枝氏が日本本社に帰任した後の2017年、中国では高度で総合的かつ豊富な供給チャネルが確立されたこともあり、既存型の百貨店は苦境に立たされた。オンライン通販や越境ECの勢いに明らかに押されるようになったのだ。

しかし、三枝氏はいかなる場合においても一貫して、イトーヨードーの経営問題をECと結びつけたことはなかった。経営不振の理由を外的要因に求めることはなく、つねに社内問題としてとらえてきたからだ。

社会の変化と小売りの関係性

その一方で三枝氏は、国や社会、人口構成など環境の変化は小売業界、ひいては自社に影響を及ぼすものとして常に注意を払ってきた。同氏が中国に着任した1996年から離任する2017年までの間、自然災害や日中関係悪化など、イトーヨーカドーの中国事業を取り巻く環境は目まぐるしく変化した。

同氏はまた中国の人口が将来的に減少に転じるものの、1人当たりGDPの増加や都市化の進み具合に着目すれば、中国における企業経営には依然として成長の可能性があることを指摘している。

中国で進行する高齢化や人口減少は、労働力にとって最大の変動要因になる。2050年には65歳以上の人口が全人口の34%以上を占めるようになるとの予測もある。三枝氏は、中国では今後世帯あたりの構成人数が減少していき、消費の構造が変化するとみている。生活消耗品では大口商品への需要が減る一方で、食品や飲料などの消費は増えると考えているのだ。

日本の小売業界では生鮮食品の工業化、標準化が高度に進み、一種の外食産業ともいえるまでに進化し、業界最大の強みにまで成長した。従来は各家庭の主婦が担ってきた料理を商業化し、価格やコスト、品質を改良し、家庭でつくる以上のレベルにまで引き上げたのだ。中国南部で朝食を家庭でつくる習慣がなく、完全に外食に頼っている現状とある意味で似ている。

イトーヨーカドーの中国店でも最も人気があるのは生鮮食品だ。日本式百貨店が最も得意とするカテゴリであり、オンライン通販の影響を受けにくいカテゴリともいえるだろう。

サービスにとことんこだわる理由

三枝氏の講演では幾度となく触れられることだが、イトーヨーカ堂はまるで経営陣から店員に至るまでが人としてのあり方やふるまいを学び続ける生涯学習講座のようだ。

三枝氏が経営において最も大切にする理念はいずれも顧客第一の考えに基づく。そしてサービスは小売りにおける究極の価値であり、顧客体験の完成形を形作る要素だ。

小売業界で知られるこんなたとえ話がある。お客がハンマーを買いに来た。自宅の壁に釘を打つためだ。つまり、お客の最終目的は釘を打つことであり、そのためにハンマーを必要としているのだ。優れた売り手はその時、お客が帰宅して釘を打つシーンまでを思い浮かべる。浅はかな売り手は、お客が再びすぐに、あるいは何度もハンマーを買いに来るにはどうすればいいかを考える。

売り手はハンマーを売ることはできても、お客の家まで出向いて釘を打ってあげることはできない。そこで三枝氏が強調するのが「サービス」の持つ価値だ。お客の家まで出向くかわりに、店内でできる限りのサービスを尽くすことが価値となる。こうした理念はすべて顧客第一から出発している。顧客を最大限に満足させる方法を考えよということだ。

三枝氏が考える経営の本質的な価値は、顧客に対し、株主に対し、提携業者に対し、あるいは国に対し、地域に対し、従業員に対し、誠実であることだ。また経営の最終目標は企業が生き残ることであり、成長を求めることではないという。前者は企業の自然な成長を促し、後者はむやみに規模を拡大した結果、経営の質を落とす可能性がある。

業務全体を通して品質を維持し、つねに顧客を喜ばせることを考えるために、従業員は「親しみ、清潔、新鮮、豊富」の四原則を心に刻むべきだ。経営力を強化し、活気ある職場をつくり、自立した人材を育てるために、経営陣は「問題意識、当事者意識、危機意識」の三つを忘れてはいけない。

いつ来店してもお客に感動を味わってもらうために、お客が駐車場から売場へ入り、商品を探し、従業員と会話を交わし、レジの列に並んで支払いを済ませ、あるいは後日クレームを入れるかもしれない場面に至るまで、全過程においてベストが提供できるサービスを従業員は考えなければならない。

現在、中国の小売業界はこぞってデジタル化、IT化、OMO化にいそしんでいる。三枝氏がうたうサービス、笑顔、暖かさ、感動、規律などとは真逆の世界にみえるが、従来のこうした考えはもはや時代遅れなのだろうか?いや、決してそのようなことはない。小売業界にとっては不変の理念だ。小売とは現場で日々、臨機応変の対応が求められる業界だ。そのほとんどの業務は従業員一人ひとり、顧客一人ひとりが完結させるものだ。

日本的な小売業の理念と、中国の小売業で急速に進むデジタル化の動きは、まるで永遠に交わることのない平行線をたどっているように見える。しかし、一部の専門家の指摘にある通り、中国の小売業界は経営の標準化が完成する前にデジタル化という名の近道を走っている状態ともいわれる。もし両者が交わることがあれば、中国の小売業界全体がさらに底上げされるのかもしれない。

(作者:「零售老板参考」、万徳乾)
(翻訳・愛玉)

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