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中国の新興電気自動車(EV)メーカーからまた1人、シリコンバレー出身のキーパーソンが去っていった。
「小鵬汽車(Xpeng Motors)」の自動運転R&D部門の副総裁を2年余り務めた谷俊麗氏が既に辞職していたことが3月5日、明らかになった。シリコンバレーでも有名な機械学習の中国人専門家で、米EV大手テスラのイーロン・マスクCEOの懐刀とも呼ばれた谷氏は就任当時、大きな期待を集めていた。
中国新興EVメーカーを去ったシリコンバレー出身の経営幹部は、谷氏だけではない。これに先立ち「蔚来汽車(NIO)」の米国支社CEOを務めたPadmasree Warrior氏と「BYTON(拜騰)」の共同創業者でCEOを務めたCarsten Breitfeld氏が相次いで職を辞していた。
2015年に始まった「シリコンバレー・ブーム」は、ひっそり幕を閉じたとみられる。米国で研究開発を行い、中国で試験運転を行う形での自動運転車の開発モデルは、失敗を宣告されたのかもしれない。
シリコンバレー・ブーム
テスラがスマートEVを旗印に自動車業界に参入した当時、シリコンバレーはEV業界の中心に接近しつつあった。著名な未来学者でスタンフォード大学教授のPaul Saffo氏も「シリコンバレーは現在、自動車の概念を再定義しているところだ」と述べていた。それから間もなく、EV関連の技術と人材がシリコンバレーに集中するようになった。
テスラの共同創業者で元CEOのMartin Eberhard氏は、ブルームバーグの取材に応じた際「中国市場で売り出す自動車に『西洋』の輝きを分厚く塗装すれば、価格を30%上乗せできる」との考えを示し、具体的な方法としてシリコンバレーでの会社設立と欧米諸国からの技術者招聘を挙げた。
シリコンバレーの大手企業出身の科学技術人材が、中国新興EVメーカーの産業資源と評価を急速に蓄積させたことは否定できない。ビジネス向けSNS「LinkedIn」の情報を大まかにまとめると、19年年初の時点で蔚来汽車にはテスラの元従業員100人以上が在籍していた。
中国新興EVメーカーは人材を大量誘致する一方で、18年にはベンチャーキャピタル(VC)から総額64億ドル(約7000億円)を調達していたことを、米調査会社「PitchBook」が明らかにしている。
隠れたリスク
中国新興EVメーカー各社は、人材と資金の両方を獲得したが、快進撃の背後にはリスクが潜んでいた。最初に問題になったのは、生産効率に見合わないほど高騰した人件費だった。メーカー各社はシリコンバレー出身の人材を誘致するため、最低でも相場の倍額の報酬を提示した。
中国新興EVメーカーは、VCの支持を得ていた時には高額な報酬を支払うこともできたが、会社の存続や資金調達が難しくなった時、必然的に高額な人件費の必要性を再考し始めた。
「威馬汽車(WM Motor)」は18年、シリコンバレーにオフィスを設立した。同社CEOの沈暉氏は、米国で先端技術を開発することに間違いはないが、米国の道路や運転習慣は中国とは大きく異なるため、量産化は中国でしか実現できないとの考えを示していた。
米国で研究開発を行い、中国で応用面の開発を完了する形は、それぞれの長所を生かしながら融合させることを想定していた。威馬汽車では、当初は北米チームが自動運転車と車載システムのハード・ソフトウエアの開発を手掛け、ハードウエアの大部分は欧州基準に基づいたモデルを米国で制作していた。だが量産車の発売後、車載システムが中国の風土に合わないことが発覚した。
その上、中国と米国の間には距離と時差の問題もあり、技術の総合テストや不具合の修正は非常に困難だった。さらに、米国では仕事と私生活のバランスが重視されるため、北米チームの仕事のペースが中国チームに比べ緩やかだったことも、中国のスタートアップ企業には合わなかった。
高い報酬で招いたシリコンバレー出身の人材によって技術面の弱点を急速に補完したことは、確実に製品製造の早道となった。しかし、シリコンバレーに進出した多くの新興EVメーカーは当初、自動車製造と自動運転技術の開発に必要な資金量と時間的サイクルを小さく見積もっていた。資金調達の厳しさに新型肺炎の流行が加わるという想定外に不利な環境に置かれた現在、海外での研究開発費を大幅に削減し、研究開発の重点を徐々に中国国内に移すことが、経費節減のための重要な措置となっている。また、長期にわたり効果と利益が得られていない企業は、高報酬のシリコンバレーの人材を引き留めることが難しくなっている。
自動運転技術は、新興EVメーカーの魂ともいえるコア技術であり続ける。技術はなくてはならないが、ブームに乗って大金で獲得した人材がもたらしたものは、ただの「バブル」だったのかもしれない。
(翻訳・田村広子)
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