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ショートコンテンツの隆盛を受け、中国のスーパーアプリ「WeChat(微信)」は動画に特化したアカウント「視頻号」を創設し、コンテンツエコシステムを補完するとともにその布陣を再構成した。
WeChatを運営するテンセントは2018年にもショートコンテンツ戦略の一環としてUGC(ユーザー生成コンテンツ)による動画アプリ「微視(WeShow)」を復活させており、年内にデイリーアクティブユーザー(DAU)5000万達成という目標を掲げている。一方、短編動画アプリの覇者「抖音(Douyin、海外版はTikTok)」は今年1月にすでにDAU4億となっている。
WeChatの視頻号はアプリ内に設けられた短編動画プラットフォームに相当する。WeChatのコンテンツエコシステムでいえば、これまで空席となっていたショートコンテンツ分野を補うものであり、もし成功すれば抖音を運営するバイトダンス(字節跳動)からユーザーを奪還し、劣勢の挽回にいくらか貢献するかもしれない。
ライブ配信機能がアルファテスト段階に入り、ビジネス用WeChat「企業微信(WeChat Work)」が個人用WeChatとの間でチャットグループやモーメンツ(タイムライン)を共有できるようになり、WeChatミニプログラム(アプリ内アプリ)を介したEC取引のインフラが整い始めるなど、WeChatを取り巻く商取引のエコシステムが徐々に輪郭を現してきた。昨年の取引額が8000億元(約12兆5000億円)にまで成長したミニプログラムが、その中心的役割を担うことになる。
さらにWeChatは検索機能が全面的にオープンになった。コンテンツのエコシステムと商取引のエコシステムが連動して、ユーザーが欲しい情報やサービスに最短距離でリーチできるようになった。
ここからWweChatの商業化は一気に進んでいく。
エコシステムを補完する動画コンテンツ
コンテンツエコシステムはWeChatにとって重要な城壁といえる。今年に入ってさまざまな変革が行われているが、「人と情報を繋げる」との主旨は不変だ。
WeChatは公式アカウントが設けられてからすでに7年が経ち、今年に入って課金機能のアルファテストに入った。コンテンツのクリエイターにとっては好ましいニュースであり、従来の広告や投げ銭以外にもう一つ収入源が増えたことになる。同時に、オリジナル性やフォロワーの定着率についてはさらに高いハードルが設けられたことも意味している。
動画専門アカウントの視頻号は設置されたばかりだ。短編動画アプリの抖音や「快手(Kuaishou、海外版はKwai)」の爆発的なヒットに対抗するなら、本来は3~4年前にアクションを起こしていなければならなかったはずだ。WeChatの公式アカウントは利用目的によって複数の種類が設けられており、一つのエコシステムを形成しているが、視頻号は単にその中で補完的な役割を果たすにとどまらず、既存のエコシステムに大きな衝撃をもたらす可能性がある。WeChat公式アカウントの創設者は、すでに他のプラットフォームで短編動画を視聴する習慣が根付いているユーザーを視頻号に乗り換えさせることは短期的には難しく、またこれまでWeChat内で画像やテキストのコンテンツを主に閲覧してきたユーザーを視頻号が「食ってしまう」可能性も否定できないとしている。
実際、これまでもモーメンツでショートコンテンツを発信することは可能だった。ただ、モーメンツは発信者の友人に閲覧範囲が限られ、WeChatアプリの生みの親であるアレン・チャン(張小龍)氏も昨年の講演で述べているように、1人のユーザーがモーメンツを閲覧するする時間は基本的に固定されており、おおよそ1日30分程度にとどまる。
WeChatは現在、友だちとして承認できる人数の上限は5000人にまで引き上げられている。しかし、どんなに友だちが増えても個人個人がモーメンツを利用する時間にはそれほど変化がない。そこでWeChatはモーメンツに送信されるPRコンテンツを別の掲載先に誘導した。新設された「微信圏子」がそれだ。もともとは「好物圏」という名称でリリースされた機能で、同じ趣味を共有する仲間が集うコミュニティだ。すでに1万7000のコミュニティが生まれており、ユーザーはいくつでも自由に参加できる。微信圏子が好物圏だった当初は、友人間でおすすめ商品をレコメンドし合う機能としてスタートし、いわば「ショッピングに特化したモーメンツ」と形容できるものだったが、効果は思わしいものではなかったようだ。友だち関係を利用して収入を得るのではなく、いわゆる趣味のコミュニティとして路線変更を図り、商業目的を前面には出さないようにしたわけだが、果たしてその効果はいかなるものか、現段階ではまだみえていない。
ショートコンテンツを補強する今年はWeChatのコンテンツエコシステムにとって激動の1年になりそうだが、これは長く閲覧されるコンテンツを小規模に展開し続けるクリエイターにも生き残りの可能性を与える施策であり、「クリエイターに創意を存分に発揮してもらう」という初心に帰った結果である。
ミニプログラムが新形態のECを生む
WeChat内で稼働するミニプログラムを介した商取引は昨年、8000億元(約12兆5000億円)に上った。前年比160%という大幅成長は一つのシグナルであり、WeChatが今後ECシステムを築く底力を蓄えていくことを意味する。
「今年、ミニプログラムは商取引のシナリオを構築することを重点とする。その初のミッションは、ミニプログラムを運営する企業に自身のクローズドループ(自立運営体制)を形成してもらうことだ」。ミニプログラムのオープンプラットフォーム事業で副総経理を務める杜嘉輝氏はこう明言している。その具体的な方法は「(誘客をしなくても)自然とユーザーが増える環境をつくる」「ユーザーの定着率を高める」「マネタイズを実現する」の三つだという。
ミニプログラム事業で実質的に改革が行われるのはECシステムだ。
改革の一つは、一連のECシステムにまつわるインフラを徐々に構築することだ。ブランドの認証、物流ツールのアップグレード、評価システムの確立と、まもなくローンチする受注管理機能、昨年には検索機能「微信捜一捜」に追加された商品の検索機能などが一連の動きだ。重要なのは、ライブ配信コンポーネントも近く開放されることだ。
ECシステムに影響を及ぼすもう一つの改革は、WeChatの企業向けアプリ「企業微信(WeChat Work)」にある。昨年12月、企業微信は個人向けWeChatのモーメンツに向けてメッセージや情報を送信できるようになったが、これは企業微信が従来の社内向けコミュニケーションツールを脱して、CRM(顧客関係管理)プラットフォームとしても機能するようになったことを意味する。WeChatミニプログラムのデータ分析企業「阿拉丁(aldwx.com)」の創業者、史文禄はミニプログラムを介したECは既存型のECやソーシャルコマース、ライブコマースに次いで新EC時代を築く存在とみている。
収益化を加速する検索エンジン
WeChatはコミュニケーションツールであるだけでなく、ユーザーと情報およびサービスをつなぐツールでもある。そしてテンセントの広告事業にとって最も確実な収益源であり、その成長の可能性はまだ大きい。中信証券(CITIC Securities)の分析では、テンセントの広告事業が運営するプロダクトは、中国国内のユーザーアクセスの40%以上を握っている。
WeChatの現在の広告体系は、モーメンツ広告、公式アカウント広告、ミニプログラム広告で構成されている。
モーメンツで初めて広告が配信されたのが2015年のことだ。そしてWeChatの広告事業で現在、最も動きが激しいのがミニプログラム広告と公式アカウント広告だ。また、今年に入って検索機能の微信捜一捜が開放され、テンセント側はこれについて「具体的に商業化を担っているわけではない」と説明しているが、検索機能が発揮する商業価値には早々に前例がある。バイドゥしかりアリババしかり、検索連動型広告の掲載料は高額なのだ。
WeChatの検索機能はコンテンツと商取引をつなぐ役割を明確に担っている。「検索」はユーザーによる能動的行為であり、彼らと彼らの求めるコンテンツやサービスへ最短経路でつなぐが、これに呼応するレコメンデーションやディストリビューションは、一種の受動的な情報取得システムといえる。
検索エンジンはユーザーのアクセスを呼び込む大きな入り口で、ビジネスエコシステムのパートナーにとっては重要な存在だ。今回、微信捜一捜がコンテンツ力、ブランド力、サービス力を全面開放した。たとえばブランドカテゴリでオンライン旅行代理店の「携程」を検索すると、同社のショップカード(プロフィール画像)、公式アカウント、ミニプログラム、手掛けるサービスなどが一覧表示される。
WeChatは昨年12月、健康関連情報に特化した検索サービスもローンチしている。検索結果は自社で運営する一般向け医学辞典「騰訊医典」や健康相談サイト「騰訊健康」のほか、外部のオンライン医療サービス「丁香医生(DXY.COM)」「好大夫(haodf.com)」など、あるいは医療機関のWeChat公式アカウントなどから提供される。
また、WeChatが「Googleソーシャル検索」のように、ユーザーのインターネット上の交友関係(ソーシャルグラフ)に基づき、ユーザーの友人や知人が発信した可能性のあるコンテンツを検索結果に表示する機能を開拓するかもしれない。
コンテンツクリエイターに創作の幅を広げてあげることも、商取引のインフラを構築することも、現在のエコシステムに欠ける能力を補完する施策だ。これらがWeChatのコンテンツエコシステムに変化をもたらすだけではなく、WeChatの新しいビジネスエコシステムを確立させるものになるだろう。
(翻訳・愛玉)
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