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中国企業が海外進出して成功するのは容易なことではない。「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」でさえ、この戦場でつまずくことがある。アリババ、テンセント、「京東(JD.com)」といった中国インターネット大手は東南アジアで苦戦し、長らく新市場での成功を目指して奮闘していたが、数年間にわたる試行錯誤を経て、各社とも自社の海外進出から現地企業に対する投資へと展開スタイルを変えた。
海外進出では、より多くの人材を育成し、現地文化に溶け込むことに加え、「現地人になる」努力も求められる。また、その上でより現地に見合った製品とサービスを提供しなければならない。
そんな中で注目すべき成功例はEC(電子商取引)プラットフォームの「Shopee」だ。華人が立ち上げた同社は本拠をシンガポールに置いている。創業からわずか4年で、MAU(月間アクティブユーザー数)とアプリダウンロード件数がアリババ傘下の「Lazada」を追い抜き、東南アジア最大のECプラットフォームとなった。
この2社の競争には特徴がいくつかある。Lazadaのバックにはアリババがいて、Shopeeの親会社「Sea」にはテンセントがついている。当初、Shopeeには強みがなかった。Lazadaはスタートが3年早かったほか、ECの経験が豊富なアリババから支援を受けていた。一方、Shopeeの親会社Seaはゲームからスタートし、ECの経験がなかった上、株主のテンセントも成功例を打ち出すことができなかった。
Shopeeの優れた点は、ゲームからECの事業開拓に成功しただけでなく、マルチ戦略を成功させたことだ。最初からシンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、台湾という7つの市場で同時に事業を展開すると共に、各市場に対応する7つのアプリをつくった。周知のように、東南アジア市場は統一されておらず、各国の文化と政策には非常に大きな差がある。
こうした中、ShopeeがどのようにECの事業開拓を進めたのかは興味深いテーマだ。
ビジネスモデル:スーパーアプリへの拡張、単一モデルにはこだわらず
Shopeeの親会社SEAは、配車大手の「Grab」「Go-Jek」と共に東南アジアの「BAT」と呼ばれている。この3社は東南アジアにおいて企業価値が最も高いインターネット企業で、共通点は欧米式の単一のビジネスモデルを捨て、中国式の「スーパーアプリ」を目指したことだ。
東南アジアにはECの潜在力が確実に存在する。「2019年東南アジアデジタルエコノミーリポート」によると、現時点で東南アジアのインターネットユーザーは3億6000万人に上り、そのうちモバイルユーザーは90%に達する。向こう15年間で約1億5000万人が15歳になる。つまり毎年1000万人の若者がモバイルインターネットユーザーとなる可能性があるのだ。
Seaのゲームユーザーには若者が多い上、ECが普及したばかりの社会で最も早くECに触れるのは若者になると考えられる。ECにとって、モバイルユーザーは急速な事業拡大のカギになる。また、ゲームの遺伝子がShopeeに強みを与えている。ECのエンターテインメント化だ。それによって、ユーザーのアプリ滞在時間を効果的に延ばし、売り上げにつなげることができる。
Shopeeはアプリ内に手軽にできるミニゲームを数多く設計した。中国を参考にライブ配信も導入し、人気芸能人やインフルエンサーとの提携を通じ、ユーザーの「おもしろい」体験を強化した。このエンターテインメント化戦略は大きな成果を挙げた。米アプリ分析会社「App Annie」が発表した最新の2019年度リポートによると、2019年にShopeeは東南アジアと台湾で、ショッピングアプリのダウンロード件数、平均MAU、Androidでの利用時間という3項目でトップとなった。
運営チーム:「あなたの」「わたしの」という概念を打ち破る
しかし、運営能力だけは不足していた。ECにはサプライチェーン、倉庫、物流など多くのオフラインセクションがあり、現地化された運営チームの構築が急務となる。特にShopeeが7つの市場で事業展開を同時に計画していたことは、運営チームにとって非常に大きな試練となった。
Shopeeは現在、「人材育成プログラム(Global leadership program)」を進めており、全世界でトップレベル校の卒業生を幹部候補として採用し、東南アジアへの理解を深めさせるため、各国のポストにローテンションで配置。また、ECに限らず、親会社Seaの決済事業やゲーム会社のポストを経験させることもある。さらにShopeeは、中国の一流大学からの採用も計画し、グローバル人材の育成を目指している。
物流:大規模投資で全プロセスを円滑化
先駆的なECプラットフォームとして開拓者の役割を担うShopeeは、物流に大規模な投資を行い、クロスボーダー物流システムの「SLS(Shopee Logistics Service)」を構築。SLSでは現在、毎週800本あまりの航空便が就航し、30カ所以上の空港をカバーしている。物流の効率をみると、中国からインドネシアのジャカルタまでわずか3~4日しかかからず、オーストラリアに近い離島でも10~14日で荷物が届く。
しかし、物流の末端には現地化の問題が存在する。東南アジアの地方には僻地の村が多く、小さな島もある。よくあるのは、オートバイで荷物を運ぶ配達員が時間をかけてようやく現地に着いても、住所が見つからないというケースだ。
この問題についてShopeeは現地化を進めることで解決を試みた。例えば配達の際、配達員が事前に配達予定時刻と住所をショートメッセージで送り、消費者が在宅している時間帯を確認すると共に住所が間違っていれば訂正する。ほんの少しのプロセスを加えるだけで、ユーザーの円滑な物流体験を実現できる。また、Shopeeの物流ネットワークにはスケールメリットがあり、規模の拡張に伴い物流コストは徐々に下がっている。
サプライチェーン:中国の経験
東南アジアのインターネット業界で中国は非常に重要な役割を演じている。中国のニュースメディア「財新(Caixin)」によると、東南アジアで企業価値が10億ドル(約1070億円)を超えるユニコーン11社のうち、中国資本の投資を受け入れていないのは創業2年の企業1社のみとなっている。
EC業界にとって、中国資本に加え、さらに重要なのは中国のサプライチェーンと中国の経験だ。Shopeeがクロスボーダーで扱う中国製品は化粧品、3C(コンピューター、通信機器、家電)、ファッション、家庭用品などで、なかでも育児用品は特別な存在となっている。中国製の育児用品は、欧米市場でシェアを伸ばせなかったが、東南アジアでは有力商品となっている。東南アジアは人口の50%が30歳以下のため、向こう5~10年にわたるベビーブームは中国製の育児用品に大きな恩恵を及ぼす可能性がある。
中国のサプライチェーンの強みは、言うまでもなくコストの低さと質の高さだ。さらに、東南アジアの消費市場は中国と地理的、文化的に近いため、欧米に比べ文化や消費習慣が似ており、ほとんどの製品は東南アジア用にカスタマイズする必要がなく、貿易をする際、非常に強い訴求力と利便性を有する。
新たなチャンス:ブラジルに進出
東南アジアのECは依然として爆発的に成長する段階にあるが、Shopeeはすでに世界の成長市場に狙いを定めている。例えばブラジルだ。
世界の経済大国トップ10に入るブラジルは、面積が南米大陸の半分近くに上り、人口は2億人を超える。インターネット普及率が74%という高水準に達している上、モバイル化も大きく進み、モバイルユーザーは80%を超えている。更に、ブラジルは中南米で最大規模のオンライン小売市場を有する。それにもかかわらず、ECの普及率がわずか3.5%にとどまっているため、成長の余地は非常に大きい。
2019年10月にShopeeはブラジル市場でテストを開始し、リリースから1カ月で「Google Play」ショッピングカテゴリーでアプリダウンロード件数がトップとなった。
8番目の市場となるブラジルで、Shopeeは送料無料というマーケティング戦略を展開し、中国のサプライチェーンを使ってブラジルのユーザーに中国製品を数多く提供している。ある調査によると、消費者10人のうち7人がオンラインショッピングで中国製品を購入したことがあるという。
しかし、Shopeeのブラジル市場参入は東南アジアよりも大きな挑戦だ。ブラジルの政局不安、為替の変動、税金の種類が非常に多いことは、ブラジル進出の大きなリスクとなっている。競争も激しい。例えば、中南米でECシェアが「eBay」とアマゾンを上回るアルゼンチンの「MercadoLibre」は創業から20年を超える企業で、ECのほかにも決済、物流、貸付事業を発展させている。また、ブラジル最大のECプラットフォーム「B2W Marketplace」は、これまでに10社近くのブラジル国内ECプラットフォームを買収しており、その実力を軽視することはできない。
市場環境が複雑で、かつライバルの多いブラジルで、Shopeeは「本格的な海外進出」戦略によって厳重な包囲網を打ち破ることができるだろうか。
(翻訳・神戸三四郎)
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