BtoB投資を制する者が天下を制す 中国ベンチャーキャピタルの戦いが新たなステージへ

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ユニコーンハンターとの異名を持つ投資家・朱嘯虎氏、その彼でさえ法人向けビジネス(BtoB)に注意を向けるようになった。朱氏が率いる「金沙江創業投資(GSR Ventures)」が過去1年間に出資したプロジェクトのうち、法人向けビジネスの数が消費者向けビジネス(BtoC)を上回っている。しかも朱氏はことあるごとに「今後10年間に中国でボーナス期を迎えるのは企業向けサービスだ」と語っているという。

朱氏はこの5年の間、中国で最もブレイクした投資家の一人として知られており、彼が関わった投資プロジェクトにはライドシェア「滴滴出行(Didi Chuxing)」や、フードデリバリープラットフォーム「餓了麽(Ele.me)」など有名案件が多い。これらの案件に共通するのは、爆発的な成長、ピーク時の利用者が数千万人規模、長期にわたって強力なライバルと戦っているという点だ。

このような特徴のため、これら新興企業は短期間のうちに広く世間に知れ渡ることになった。同時に、それを支える投資家にもスポットライトが当たるようになったのだ。

とはいえ、このような機会は再び訪れることはないと多くの人が気づいている。この15年間になりふり構わぬ成長を遂げてきたインターネット業界だが、すでに失われてしまったものがある。それは中国の人口ボーナスに伴う巨大な成長市場と、モバイルインターネット草創期に見られた並外れたビジネスの可能性だ。この2つの要素があったからこそテンセントやアリババを含む100億ドル(約1100億円)、ひいては1000億ドル(約1兆1000億円)規模のユニコーン企業が数多く誕生してきた。しかしこの鉱山にもう金は残っていないと、中国のベンチャーキャピタルは見切りをつけている。

新たな鉱山はBtoB分野だ。製品やサービスの対象が消費者ではなく企業であるということだが、消費者向けサービスを提供する企業ほど周知されていないという欠点がある。例えば、ソフトウェア会社「SAP」や顧客管理サービス「Salesforce」はどれも時価総額が1000億ドルを超えているが、企業向けにサービスを提供するという性質上、時価総額が同じくらいのコカ・コーラやネットフィリックス(Netflix)の知名度には遠く及ばない。

さらにBtoBでは爆発的な成長を遂げる企業がほとんどないという事実も、中国の投資家があまり気乗りしない原因の一つとなっている。これまでシェアサイクルや共同購入型ECのような世間を席巻する中国スピードに慣れてしまった投資家にとって、いささか物足りないのだ。

しかし、先見の明を持つ投資家たちは続々と方向転換している。数年前に持ちきりだったソーシャルECやニューリテール、エンターテインメントに代わって、企業サービスや5G、インダストリアル・インターネットのフォーラムが次から次へと生まれている。中でも投資の風向きの変化を如実に反映しているのがファイナンシャルアドバイザー(FA)だ。FAは投資分野における不動産仲介業者のような役割だと理解してよい。起業時にエンターテインメントにフォーカスしていたあるFAは「今年の案件のうち90%がBtoBだ」と語る。

今、BtoBを目指す投資家たちの大移動がうねりのように巻き起こっている。

求められるのは忍耐強さ

BtoCに注目している投資家と、長期にわたってBtoBに携わっている投資家とでは、その生活に大きな違いが出てくる。

「経緯中国(Matrix Partners China)」パートナーの熊飛氏はこれまで8年間、BtoB分野に注力してきた。同氏のビジネススタイルは、案件を研究し、本を読み、人と話し、考えるというもの。それはまるで田植えをして収穫するまで忍耐強く待つ農民のようだと語る。

「晨興資本(Morningside Venture Capita)」のマネージングディレクター劉凱氏も同様だという。BtoB領域がそれほど注目されていなかった数年前から、創業者と話す以外のほとんどの時間を「BtoB系上場企業400社の年次報告書を研究することと、BtoBに注目する米国投資家400人のブログを読むことに使っている」とのことだ。

そして今や多くの投資家がBtoCからBtoBへくら替えしている。

まず脚光を浴びている分野は、ロボットによる業務自動化のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だ。米国のベンチマーク企業がヘッジファンド「Coatue Management」とソフトバンク創業者の孫正義氏から出資を受けたことでバリュエーションが急騰、2019年春には国内の複数のRPA企業のバリュエーションも3カ月で3倍に膨らんだ。

もう一つの注目分野は「ミドルオフィス」だ。ミドルオフィスとは、簡単にいうと、データをもとに意思決定し、会社の運営・管理するデジタル化にすること。アリババが「ミドルオフィスシステム」のコンセプトを提唱してから、誰もがこぞってミドルオフィスに手を出した。「投資家の多くは、従来型企業のデジタル化という問題をサードパーティー企業がまとめて解決してくれると信じていた」。わずかな間に、ミドルオフィスサービス企業数社が相次いで1億元(約15億円)以上を調達したことを発表した。

熊飛氏はRPAやミドルオフィスに対して静観する態度を示している。「2019年、BtoB市場は人気が出たものの、まだ機は熟していない。BtoCに携わっていた投資家たちはわかりやすいものを好むが、投資ロジックはまだ固まっていない」

早いうちからBtoBに投資していた人たちには、冷遇を忍んできたという共通点がある。BtoCに投資していた同僚たちが昇進したり、案件が上場を果たしたりするなか、熊氏は長いこと投資マネージャーという立場に甘んじていた。しかしここ2年のうちに、「企業サービスは熊飛氏に聞け」と言われるほどの実力者になった。

BtoB分野の投資家は、この分野にいち早く参入したことが圧倒的なアドバンテージだと確信している。なぜなら、BtoBへの投資は大量の研究や知見に大きく依存しており、時間を費やす以外に近道はないからだ。

「BtoC企業への投資なら、例えばアプリランキングを見るだけでも大まかな動向をつかむことができる」と、セコイア・キャピタル・チャイナ(紅杉資本中国基金)のマネージングディレクターである翟佳氏は語る。一方、BtoBへの投資は産業研究や業界予測を通してチャンスと可能性を探り、そこから優良なプロジェクトを選ぶのだという。「BtoB投資はトップダウンアプローチで行うものであり、運任せのディールソーシングで進めることはできない」

熊氏はBtoBへの投資をブルーチップ(優良株式銘柄)になぞらえる。毎年300%や500%という驚異的な成長はないが、長期にわたって保有する価値のあるものだ。「多くのファンドは投資戦略の配分を行うとき、BtoB投資は投資回収率を確保するため、BtoC投資は成果を勝ち取るためと考えている」

つまり、BtoBへの投資はお金を積めばなんとかなるものではないのだ。BtoCなら資金を投じてトラフィックを増やし規模を拡大できるが、BtoBでは資金で顧客を増やすことはできない。そのため、投資家は忍耐を学ぶ必要があるのだ。

変化していくVCの戦い方

大手機関投資家がBtoBへの投資にシフトする中、投資機関内部の権力構造に変化が生じつつある。組織のマネージングディレクターやバイスプレジデントなどの上層部が前線に立ち、多くの情報や決定権を握るようになったのだ。

BtoC中心に投資していた時には、偶然や運に左右される部分が少なからずあった。共同購入型EC「拼多多(Pinduoudo)」などに出資して大成功した投資家であっても、次の投資案件が成功するとは限らない。これがBtoBになると、爆発的に成長する企業がほとんどないぶん偶然性や不確実性は大幅に低くなり、組織全体のの高い判断力が求められるようになる。

「BtoBの投資では、業界への理解やトップレベルの投資戦略策定の点で高い水準が求められる」と翟氏は語る。「セコイアでは、BtoB担当者は頭脳明晰かつ高い思考力が求められ、はっきりとしたビジョンを持てる人でなければならない」

BtoBへの投資では、1人か2人の投資家が単独で行うのではなく、チーム全体が多岐にわたる知識を結集して行う必要がある。担当の投資家が業界の事情に通じており、十分な判断能力や投資経験を有しているだけでなく、パートナークラスもその分野に注目し、長期にわたってサポートしていくことが求められる。

BtoB投資が主流になりつつある時代に、機関投資家は個人の能力に対する過度の依存を減らし、組織レベルのコアバリューを構築していく。有効な制度とトップダウン方式で十分な戦力を持つ組織だけが生き残れるのだ。

今後10年続く黄金期を秘めているこの鉱山では、先行者優位も潤沢な資金も絶対的な要素とはいえない。この1年にBtoB分野で起きた数々の出来事は始まりに過ぎない。この鉱山で勝ちを引き寄せるのはいったい誰なのだろうか。
(翻訳・畠中裕子)

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