2億人の不眠症患者に救いの手 認知行動療法に基づくAIセラピストが登場

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中国睡眠研究会(CSRS)による2016年のリポートによれば、中国には5億人以上の不眠症患者がおり、うち2億人以上が慢性不眠症だという。すなわち平均すると全ての家庭が不眠症患者を抱えている計算になる。こうした問題に対応するため中国企業「正岸科技(Zhengan keji)」はAIデジタルセラピューティクス「入眠asleep」を開発した。デジタルセラピューティクス(デジタル療法、DTx)はデジタル技術を活用し、病院が処方箋に基づいて薬を処方するのと同様に、患者に対してソフトウエアを処方する治療法。場所や時間帯の制約を受けることなく、安価に治療が受けられることが患者にとっては大きな利点だ、

不眠症が大きな問題となっている中国だが、睡眠医学の誕生は遅く、専門医もやや少ない上に治療手段も単一的であるため、多くの患者が、病院で診療を受けないか、反対に手当たり次第病院を受診するか、極端に分かれるという状態にある。

不眠症の心理的・生理的ダメージは大きく、不安障害、うつ病、慢性疾患などの発症率が高まるほか、日常の業務や生活に多大な影響を及ぼす。こうした理由から、市場には低反発枕や健康食品、さらにはスマート機器や睡眠アプリといったさまざまな睡眠サポート製品が登場している。

こうしたなかで正岸科技が開発した「入眠asleep」は不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)を採用し、ソフトウェアによって慢性不眠症患者の認知、行動および心理に対する介入と修正を試み、睡眠リズムを調節していく内容。これにより患者は治療薬に頼らなくともスムーズに眠りに就くことができる。

こうした非薬物療法は病院の専門治療では一般的だが、そうしたケースでは患者が毎週通院する必要があり、治療費も毎回およそ1000元(約1万5000円)と高額な点がデメリットだ。

意思決定システムと動的介入を組み合わせた不眠症のカスタマイズ治療プラン

一方、入眠asleepは病院での治療をいわば「オンライン化」し、AIセラピストが医師に替わってオンライン診断を行い、各個体因子に基づき完全にカスタマイズしたソリューションを提供する。チャットボットによる対話を利用してユーザーの状態を評価し、経過を観察しながら治療プランの調整も行い、睡眠制限法、刺激制御法、認知療法、リラックス法、睡眠衛生指導などを活用しながら治療を進めていく。

この治療法の強みは、各治療プランが全て一人一人に合わせて設定される点であり、ユーザーは毎日オンラインで15分間の指導を受けるが、場所や時間帯の制約はない。そのうえオンライン治療は人的コストの削減にもつながることから、治療費はトータルで499元(約7500円)と従来の治療法に比べ安価に抑えられている。ベータテスト版がすでにリリースされており、期間中は無償で治療が受けられる。

入眠asleepの操作画面

正岸科技は今年3月末に入眠asleepを利用した臨床試験を開始しており、85%の患者にめざましい効果が現われている。平均して約2週間で患者の寝付きが良くなり、入眠までの時間もこれまでの平均60分から平均30分まで短縮した。同社は今後、北京大学睡眠センターと提携し臨床研究を共同で進める計画だ。

同社はデジタルヘルス専門企業として自社を位置付けており、現在は中国のNMPA(国家薬品監督管理局)に対して認証を申請中だ。

米国のメディテック企業「Pear Therapeutics」による不眠症向けアプリ「Somryst」 は今年3月、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を受けた。慢性不眠症分野としても初めてのDTxとなる。海外製品の認証取得は、中国国内の医療業界にとって追い風となり、大いに参考となるものだ。

創業者の劉暁剛氏は今後の普及策についてこう語る。「当社は、BtoBtoCおよびBtoCの二つの手段を採っている。高い確率で不眠症を抱える妊婦や不眠症率が7割にも達する授乳期の女性、さらに不眠症を抱えやすいダイエッターなど、普遍的に不眠症で悩む人々を想定している。睡眠の質と糖尿病、冠状動脈性心疾患、肥満、不安障害およびうつ病などの疾患には強い相関性があるため、こうした人々の間には大きな治療ニーズがある。入眠asleepはこうしたシーンから提携企業を探し出し、収入シェア契約を結ぶ」。またWechatの公式アカウントやウェイボー(微博)をはじめ、抖音(Douyin、海外版はTikTok)、快手(Kuaishou、海外版はKwai)、Q&Aサイトの知乎(Zhihu)といった人気アプリ、SNSを通じた広報宣伝活動、検索結果の上位に来るようにするSEO(検索エンジン最適化)SEO対策を通じて、一般的な個人客の獲得にも取り組んでいるという。

同社はソフトウエアによる治療に加え、睡眠をサポートするハードウエア製品を組み合わせることでリピート率を高めている。一定規模のユーザーを獲得できた後は、データサービスの提供についても検討していく計画だ。

創業者の劉氏は16年にわたるIT製品の設計管理経験を持つ人物だ。テンセントやキングソフト傘下企業「金山雲(Kingsoft Cloud)」で勤務したほか、スマートフォン大手「シャオミ(小米)」の傘下企業「華米科技(Huami)」ではメディカルヘルス事業を立ち上げ、シャオミのスマートリストバンドのソフトウエア開発業務も担当した。これまでハードウエアを通じた人体の健康データ収集やデータ分析に関する専門的経験、豊富な医療・医師関連リソースを蓄積してきた。

同社は現在エンジェルラウンドでの資金調達を進めている。調達した資金は製品開発やNMPA認証および医療研究や製品運営に充てられる。

(翻訳・神部明果、編集・後藤)

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