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中国で年間最大のオンライン通販セールイベント「ダブルイレブン(双11)」が、11日午前0時にスタートした。アリババ傘下のECプラットフォーム「天猫(Tmall)」は、開始わずか26秒で受注のピークを迎え、1秒当たり58万3000件の注文が殺到したという。
従来は11月11日の単日開催だが、今年は11月1日からの飛び石開催となった。1日から11日までの期間中に記録したGMV(取引総額)は4982億元(約7兆9000億円)。GMVが1億元(約16億円)を越えた出店ブランドは450を超えた。
数字上でも例年通りの成長を続けたが、今年は購買体験の質でも大きく前進した。決済時にフリーズすることもなく、配達スピードもより向上したという。
今年のダブルイレブンでアリババが活用した10の先端テクノロジーを以下にまとめた。
1)世界初の完全無人物流ロボット
2)最高214言語に対応するライブコマースでの同時翻訳
3)ヒトに代替するバーチャルライバー
4)自律型会話ロボット
5)OCR(光学文字認識)を活用した聴覚障碍者向けショッピングガイド
6)髪の毛の10分の1の細さの瑕疵も検出するマシンビジョン
7)20億の商品を認識するインテリジェントエンジン
8)世界最大規模のクラウドネイティブ化
9)データセンターの運営を見守る監視ロボット
10)液浸冷却技術を導入したスーパーデータセンター
強大なデータセンターとAIによるオペレーション
「決済が秒で終わった」
今年、ダブルイレブンで買い物をした多くのユーザーが例年にない決済のスムーズさに舌を巻いた。
基盤技術は購買体験の質に直結してくる。ダブルイレブンがスタートする瞬間の午前0時、数千万人のユーザーが同時に滞りなく決済を進められた裏には、極めて強力な処理能力の存在がある。ライブコマースが流行する中で、多くのユーザーが配信番組を見ながら同時に購入手続きを行うという状況にも、プラットフォームは見事に対応した。
アリババのテクノロジーを統括する程立CTOは、「ライブ配信者が番組内で(販売開始の合図として)『1、2、3』と掛け声を挙げても、ビクともしない配信プラットフォームであることを自認するのはアリババしかいないだろう」と自信を見せる。つまり、これは通信上の遅延が極端に少ないことを意味する。
その背後にあるインフラが「データセンター」だ。アリババは今年のダブルイレブンまでに中国国内5カ所でスーパーデータセンターを稼働させている。中でも杭州のデータセンターは1万台以上の液冷サーバーから成る世界最大級のクラスター構成によって、ダブルイレブンに伴う超高負荷の演算処理に対応する。これらのサーバーに使用されるケーブルは合計して地球一周分にもなるという。さらには世界でも珍しい液浸冷却技術も用いている。電気を通さない特殊な冷却液にサーバーを浸し、冷却ファンやエアコンなどを使わずに排熱を行うもので、データセンターにおける消費電力を70%以上も削減する。
アリババが計算したところでは、中国全土のサーバーが液冷サーバーに入れ替わったと仮定すると年あたり800億キロワット時以上の電力が節約できる。これは三峡ダムの年間発電量に匹敵する。アリババのクラウド事業部門は将来的に中国国内でこうしたスーパーデータセンターを10カ所にまで増やす計画だ。
またAI搭載ロボットやインテリジェント・オペレーションなどの技術も徐々に大規模に用いられるようになってきている。データセンターの運用状況を監視するロボット「天巡」は今年のダブルイレブンに臨んで2代目機種にアップグレードし、監視業務の完全無人化を実現したほか、故障したハードディスクを検出して自動で交換するまでになった。検出から交換までの所要時間はわずか4分だという。
インテリジェントサーチエンジンと視覚系AI
商品購入のプロセスで時短を実現したほか、今年のダブルイレブンでは「インテリジェント化」も顕著だった。
ダブルイレブン開催前夜、アリババのECプラットフォーム「タオバオ(淘宝網)」は大々的にリニューアルを行った。フィード、検索、ライブなどあらゆるユーザーシナリオにおけるコール回数は1日平均数千億回に達する。
ユーザーの購買行動に関するインサイトや商品のレコメンデーションも、インテリジェントサーチエンジンによってさらに精度を増している。アリババのサーチエンジンは学習モデルを1日平均で1000以上も構築、モデル容量は1TB以上で、分単位で1億ものパラメーターを更新する。AIエンジン技術は三層構造となっており、下層は全域知識レイヤーで、コンピューターが万物を理解する支援を行う。中間層は推論レイヤーで、既知の知識を用いて個別化シナリオの理解と推論を行う。世界で初めてニューラルネットワークをクラウドと連動させた。上層は認知レイヤーで、ユーザーインターフェースを担っている。
視覚系AIでは、画像による商品検索ツール「拍立淘」が4億件の商品を網羅した。自然言語学習、リアルタイム機械翻訳、語義識別などの技術は、自動カスタマーサービス「店小密」や同時翻訳、商品レビューの分析などに活用されている。
ライブコマースなどの登場によって、オンラインショッピングではより没入感が得られるようになった。アリババは今年になって100万以上の商品を対象に、3Dを用いたレイアウトイメージ画像を作成している。画像内で気に入った商品はワンクリックで購入できるという。インテリア関連の商品では、ライバーが配信を行いながらこうした3D空間を視聴者に提示し、オンライン上で家具の配置などをシミュレーションすることで、実際の売り場に近い感覚が体験できる。
AIを用いたバーチャルライバーも登場してきた。検知技術、認識技術、ディレクターシステム、3Dモデリング、素材ライブラリー、TTS(テキスト読み上げ)による会話型マンマシンインターフェースを融合させ、30分もあればヒトの声や表情、ジェスチャーをコピーし、リアルのライブ配信者に劣らぬ「バーチャルライバー」が誕生する。配信者が退場している間にバーチャルライバーが登場し、配信の進行や視聴者とのやり取りを代行してくれるため、長時間配信が可能になった。
製造・物流などフルプロセスにわたるデジタル化
オペレーションシステム全体がデジタル化したことで、オンラインショッピングの体験が向上した他、消費者・サプライヤー・メーカーが完全にシームレスに繋がった。今年のダブルイレブンは「史上最速の配達」と評されたほど物流が進化。深夜2時に支払いを完了した商品が、翌朝8時には到着するといった具合だ。
アリババが抱える物流プラットフォーム「菜鳥網絡(Cainiao Network)」では、予約販売の段階で商品が配達先の最寄りの配送センターまで届くようになっている。出店業者が受注した時点でサプライチェーン全体が連動する仕組みだ。
菜鳥はIoTプラットフォーム「LEMO」を運営し、各モバイル端末やスマート集荷ボックスと連携している。今年は倉庫から配送までのプロセスを全面的に強化し、計算上は3億件の貨物を同時に追跡・管理できるようになった。ダブルイレブンの開催期間は配送のリードタイムをのべ15万時間短縮できたと推算されている。さらに発表して2カ月足らずの無人物流ロボット「小野驢」もダブルイレブン期間に正式稼働を開始し、住宅地での配送で活躍した。
また、タオバオはフィードや検索を通じてユーザーの消費需要を明確に見極め、どのような新商品が消費者の心を掴むのかを把握する。こうしたデータを活用することで各カテゴリーの出店業者に対し新商品開発を提案でき、誕生した新商品を適切なユーザーに対してレコメンドできるのだ。さらに、スマートマニュファクチャリング(新製造)プラットフォーム「犀牛智造(Xiniu Zhizao)」との連動によって真にフルプロセスを網羅し、柔軟な生産案件を多数実現できるようになった。
ライブコマースなどの新形式によってユーザーの購買行動が変化し、サプライチェーンにはより高度な要求が突きつけられるようになった。ここでもデジタル化を実施することで、サプライヤーの在庫管理をスマート化し、迅速なフルフィルメントを実行できるようになった。
アリババは今年、ライブ配信をECのフルプロセスに連携させた。商品供給から倉庫・物流における意思決定、配達完了までのソリューションにおいて、データインテリジェンス(データを分析・活用してインテリジェンスを構築すること)を反映させている。出店業者はライブ配信中に突発的に発生する注文に対応、損益計算まで実行できるようになり、結果的にさらなるGMV(取引総額)の成長を目指せるようになった。
作者:徐丹(WeChat公式アカウント「機器之心(ID:almosthuman2014)」)
(翻訳・愛玉)
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