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中国のスタートアップインキュベーター「創新工場(Sinovation Ventures)」は、特にAIプロジェクトへの投資でその名をはせてきた。しかし過去1年間の投資案件を見ると、物流サプライチェーン、自動化ロボット、デジタル・AI医療、オンライン教育への投資数がAI分野を超えている。
「AIは創新工場のシンボルとも言える分野だ。しかし今、AIはもはや我々の投資分野ではなく、投資を行うための重要なツールまた手段となった」。創新工場の董事長兼CEOの李開復氏はメディアに対し、目下のところ自動化、国産品へのシフト、オンライン化、産業再構築という4つの分野に注目していると語った。
李CEOは、新型コロナウイルス感染症という「ブラックスワン」や米中貿易摩擦などの影響を受けて、これから起こるとみられる構造的な変化について以下の6つを挙げた。
1,オンライン化と消費構造の変化。感染症の流行により、中国ではオンライン化や運営モデルの変化が急速に進み、オンライン教育やチームコラボレーションなどのビジネスチャンスが生まれてきた。
2,ハードウエアのイノベーション。米中摩擦の影響で、中国は自国のサプライチェーンを整える必要に迫られた。その結果、部品や産業ソフトウエア、精密機器製造などが長足の進歩を遂げ、国産品へのシフトが進んでいる。創新工場では引き続き最先端技術とハードウエアへの投資に注目していく。
3,政策が後押しする産業改革。中国人の医療費の平均支出は他の先進国と比べてかなり低い。政府が医療分野への資金投入を拡大すれば、多くの業界にチャンスと変化が訪れる。大きなポテンシャルを秘めた医療分野は、創新工場が2年近く水面下で準備を進めてきた重点分野でもある。
4,コスト削減と自動化。感染症の影響や経済的な問題から、多くの企業がコスト削減のためAIや自動化を導入するようになった。これにより中国は世界の工場という製造大国の地位を守り続けることができる。
5,業界の再編。不景気の際には、リーダー不在で競争力が分散している業界に再編のチャンスが訪れる。サプライチェーンや物流分野では、小規模企業が体力を失う中で大企業が勢力を拡大し、業界の再編を主導している。
6,反循環的な流動性。国際通貨の流動性が高まり、アップル、Google、Facebookなどのテック企業の株価が急騰している。なかでも最大の上げ幅となったのがビデオ会議システム「zoom」などのデジタル化・自動化ソリューションを提供する企業だ。テック系中国概念株の流動性も中国で高まっている。
この10年は、生活関連サービス「美団(Meituan)」、共同購入型格安EC「拼多多(Pinduoduo)」、ショート動画「抖音(Douyin、海外版は『TikTok』)」など消費者向けビジネスを手がけるスタートアップが台頭し、各分野のリーディングカンパニーへと成長した。
これからの10年は、事業者向けビジネスが中国経済と産業構造のグレードアップをけん引していくことになる。また新インフラ建設など、政策面でもテクノロジー駆動型の変革期を迎えようとしている。
このような環境のもと、創新工場は以下のような投資の動向に注目している。
1,自動化・機械による反復作業の代替。人件費や作業効率の問題などを解決する自動化ソリューションを提供する企業への投資を積極的に行っている。
2,国産品へのシフト。創新工場が期待を寄せているのは、ゼロからの事業立ち上げではなく、すでに確立された事業や収益モデルをベースにイノベーションを起こす企業だ。さらに技術の蓄積があり、海外のテック製品に取って代われるポテンシャルとスキルを備えている必要がある。
3,教育分野のオンライン化とOMO(オンラインとオフラインの融合)。オンラインとオフラインを取り入れたハイブリッド式の教育は感染予防のためだけでなく、長期的に見ても教育水準を全面的に向上させ、地域差による教育資源の不均衡という問題の改善につながることが期待される。
4,産業の再構築。特に医療分野は無数のチャンスに満ちている。創新工場では2019年以降、デジタル化・AI医療に関わるテクノロジーにアプローチし、10件以上の医療プロジェクトに投資してきた。
(翻訳・畠中裕子)
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