語音明瞭度指数(SII)が欧米老舗を上回る、中国新興補聴器メーカー「Evoco Labs」が約5億円調達 

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補聴器メーカーの「Evoco Labs(上海又為智能科技)」が、シリーズAで約500万ドル(約5億4000万円)を調達したことが明らかになった。リード・インベスターは米VC「Atypical Ventures」が務めた。資金は主に技術および製品の研究開発に充てられるという。同社はこれに先立ち、「上海凱利泰医療科技(Shanghai Kinetic Medical)」や米「UpHonest Capital」などの投資機関および個人投資家から数千万元(数億円)の出資を受けていた。

聴覚障害は世界的にも重大な公衆衛生上の課題となっている。世界保健機関(WHO)の推計によると、世界では4億6600万人が聴覚障害を抱えているという。中国の聴覚障害者は約2億人に上り、うち約7000万人が中度以上の障害を抱えていることが複数の機関の調査で明らかになっている。しかし、中国では市場に出回る補聴器の大部分が技術的に古く、使用感なども考慮されていないため、補聴器を利用する聴覚障害患者は5%未満にとどまっている。

2018年に設立されたEvoco Labsは、AIディープラーニング技術を導入した医療機器クラスの補聴器を手掛け、使用期間を通じて高度なサービスをユーザーに提供。補聴器の機能を最大限に引き上げ、装着時の使用感を改善し、聴覚障害を抱える人々の生活の質を向上させることに注力している。今年1月には世界最大級の家電・技術見本市「CES 2021」で「Health & Wellness」部門の「Innovation Award」を受賞している。

「Evoco Labs」の補聴器

世界の補聴器市場は160億ドル(約1700億円)を突破している。その中で、世界シェアの95%がデンマークの「William Demant(ウィリアム・デマント)」、「GN ReSound(ジーエヌリサウンド)」および「WIDEX(ワイデックス)」、スイスの「Sonova(ソノヴァ)」、米国の「Starkey(スターキー)」、ドイツの「Sivantos(シバントス)」の六大メーカーに占められている。

米国では補聴器市場が急速に成長しており、昨年10月に上場した「Eargo(イヤーゴー)」の時価総額は現在、26億ドル(約2800億円)に達している。また、新興メーカーの「Lively」と「Whisper」が相次いで約1000万ドル(約10億円)規模の資金調達を果たしたことも明らかになっている。

Evoco Labsの孫鴻程CEOは、高度な専門性こそが補聴器を普及させる上での基盤になると確信し、医療機器クラスの補聴器を手掛けることとした。家電クラスの補聴器は技術的にもコスト的にも限界があり、聴覚障害を抱える人々のニーズに応えるのが難しいと判断したからだ。

医療機器クラスの補聴器では、ディレイタイム(音声の遅延時間)の低減と一定の連続使用可能時間が求められる。ディレイタイムが10ミリ秒を超えると、山びこを聞くような感覚に襲われ、目まいを感じる可能性があるという。また、一般に1日当たりの補聴器装着時間は10時間以上に及ぶため、連続使用可能時間にも高い水準が求められる。

以上のような技術の革新に加え、AIを活用したノイズキャンセリングなども大きな競争力になる。ビデオ会議などの場面では、補聴器のディレイタイム低減が強く求められるため、AIモデルが取得できるデータが少なくなる。このこともノイズキャンセリングの難度を引き上げる。しかし、Evoco Labsの補聴器に使われるアルゴリズムはリアルタイムで人の声を識別し、周囲の騒音と分離することを可能にしている。今後はデータ量の増加とともにAIモデルの最適化も進み、ノイズキャンリング効果のさらなる向上が見込めるという。

孫CEOは、Evoco Labsの製品は技術の蓄積により高い競争力を実現していると胸を張る。聴覚補助に関する各種指数が六大メーカーと同等な上、語音明瞭度指数(SII)は六大メーカーを上回っているという。

Evoco Labsの製品には価格面の優位性もある。孫CEOによると、中国の補聴器市場は二極化しており、家電製品クラスの両耳装用補聴器の大部分は2000元(約3万2000円)以下で手に入るが、六大メーカーの製品に代表される医療機器クラスの両耳装用補聴器は2万元(約32万円)以上となっている。中程度の価格で機能的にも満足できる製品がほとんど見当たらない中、同社は製品価格を2000ドル(約21万円)に設定している。六大メーカの製品価格よりもはるかに安く、Livelyの2500ドル(約27万円)をも下回る価格設定だ。製品のバージョンアップが進めば、価格がさらに下がる可能性もある。

同社は、主に直接販売の形で市場開拓を進めている。すでに米国食品医薬品局(FDA)の承認を受け、将来的な事業展開の基盤として同国中部の医療機関2カ所と提携している。深く掘り下げた市場開拓と浅く広く進める市場開拓を両立させた戦略で、今後の事業展開の基礎を築いていく方針だという。
(翻訳・田村広子)

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