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――これまで米国や中国のトップティア(一流)投資家とたくさん会われてきた渡辺さんの視点から、Web2投資家とWeb3投資家の違い、Web3起業家として資金調達の際に取るべき戦略についてお聞かせ下さい。
渡辺 私は、Web2の投資家から2回、Web3の投資家から2回資金調達しています。
Web3の投資家はデフォルトでグローバルなので、たとえば中国のWeb3投資家と話していると、日本のマーケットで閉じているプロジェクトはほぼ見ていません。やはりグローバルでどれだけ強くなれるのか、その一言に尽きます。
また、Web2とWeb3では、エクイティ投資(株式取得による投資)か、トークンで投資をするのか。トークンのディストリビューション(分配)やそれに関わるロックアップ(売却制限)など、テクニカルな部分が根本的に異なるため、Web2の意思決定をWeb3の領域に持ち込むと上手くいかないのではないでしょうか。
Web2ではマーケットでのシェアが売り上げに、売り上げが時価総額に繋がりますが、Web3においては分散がパワーなので、どれだけコミュニティドリブンなプロジェクトを作り込めるかが重要です。
そういった意味でも、両者は価値の源泉が正反対なので、そこに気をつけて資金調達戦略を組むべきです。
郭 私も同じ意見です。北京で繋がりのあったWeb2の投資家たちは皆TMT(Technology、Media、Telecomの略)の領域に張っていたため、未だにWeb3の投資に対しては遠くから観察しているイメージがあります。
彼らは従来のWeb2のバリュエーション(評価)モデルを用いて、Web3のスタートアップを評価しています。キーとなる評価指標がDAU(Daily Active User数)などではなく、DeFiであればTVL(Total Value Locked=預かり資産額)であるなど、メトリクス(指標)が全く異なります。
もちろん、一概にWeb3投資家がいいというわけではなく、エクイティ投資を主とするWeb2投資家はタイムラインに対する許容度が高く、今のようなベアマーケットを超えてくるような長期的なプロジェクトに投資することができます。
一方、Web3の投資家はプロダクトに対する理解があったり、トークン投資が可能だったりしますが、短期的な利益に着目しがちで、市場トレンドに影響されやすい側面もあるかと思います。
Web3評価軸の定まらない今こそチャンス
渡辺 実はベンチャーキャピタル側もWeb3のプロジェクトを測る指標をまだ確立できていません。
Web3における価値の源泉となるTVLや、コミュニティのアクティブユーザー、マンスリーアクティブウォレットなどを企業評価基準としてどう扱うかはこれから定まっていくので、資金調達の際にストーリーを語る起業家にとって今がチャンスだと思います。
郭 そうですね、そのお話はまさに、現時点でWeb3プロジェクトがなぜ資金調達しやすいかという理由に直結しているかと思います。
Web3プロダクトがキャズムを越え、数億人のユーザーを擁する時には今と全く異なる評価ロジックが出来上がるので、その未知なる旅路をとことん探索し、未来のWeb3ベンチャーキャピタルのみならず、TMTに投資をしてきたWeb2のベンチャーキャピタルにもあかりを灯すことが大事だと思います。
渡辺 多分、ここからかなりの数の失敗が起きるでしょう。しかし失敗がないところに成功はないので、政府も起業家も前向きに捉えていくことが、特に今のようなベアマーケットにおいては大切です。
――ベアマーケットだからこそ、挑み続けることが大切ですね。お二人はこの「冬の時代」をどう観測しますか?
渡辺 たとえば中国でのクリプト規制をはじめ、これまでも幾度となくクリプトのクラッシュは起きましたが、全て単発的なものでした。しかし、今回はマクロ経済に引っ張られたクラッシュで、かなり尾を引くのではないかと予測します。
とは言え、未来に対してはかなりオプティミスティック(楽観的)に考えています。最近、米国のベンチャーキャピタルであるa16zが「今回のクリプトショックをかつてのドットコムバブルと重ね合わせて考えることができるかもしれない」とコメントしていました。
「ベアマーケットにおいて、プロジェクトから撤退する理由は無限にあります。モチベーションが続かなかったり、キャッシュが切れたり……しかし、ドットコムバブルを途中で抜け出した起業家たちは、結果的に、この人類史上最もイノベーションが起きた10年を逃してしまった。それと現状を重ねて見ると、これから高い確率でWeb3の領域における様々な発明がされていく可能性があるわけで、我々(a16z)はそのクリプト黄金期の入り口にいる」と。
私は彼らに強く賛同します。この先10年を見越した時に、新たなイノベーションが次々と誕生しているはずなので、その未来に期待を寄せると同時に、今からこの領域に飛び込んでもまだ無限のチャンスがあると思います。
郭 マクロ経済の影響は大きいですね。米ナスダックを含む株価指数はここ10年で最大の下降周期に入っており、従来の株式市場ではありえない状況になっています。ただ、これはFRB(米連邦準備制度理事会)の金利引き上げや、グローバルなサプライチェーン問題などが原因で、あまりクリプトとは関係のないところで起きている。
もちろん、Web3にとって今が厳冬の時代であることには変わりありませんが、このベアマーケットのおかげで、元々運営状況に問題があったプロジェクト、例えばLUNA、 USTなどが崩壊していきました。これはWeb3領域の健全化を図る最大のチャンスだと捉えることもできます。
あくまで個人的な意見ですが、今が下降周期の底になると思います。その中で私は個人資産の大半をイーサリアムに換えるつもりです。これからのWeb3領域の未来はイーサリアムとその他のブロックチェーンで構築されていくと信じています。私自身もこの周期を乗り越え、長期的な発展を信じ、All in Web3の覚悟をもって臨んでいきたいと思います。
今の不況は「ノイズ」に過ぎない
――お二人のWeb3に対する熱意、そしてAll in Web3の覚悟をひしひしと感じました。最後に、今後Web3の領域に参入する若者たちに対してアドバイスをいただけますか。
郭 このベアマーケットは過去最大のチャンスだとお伝えしたいです。特に若者にとってはベアマーケットほど良い機会はありません。
経済が下降している時には、多くのスタートアップが人材を雇用したくても、キャッシュが足りず、雇用を断念します。しかし、猫の手も借りたい状況が続くのがスタートアップなので、技術や知識が不足していても雇用してもらえる可能性がかなり高いのです。働きながらコツコツと技術や知識を磨けば、いずれは大成する日を迎えるでしょう。
私が2008年にプログラミングを学び始めた時には周りからなぜ今更プログラミングを学ぶのかと聞かれました。しかしその後、モバイルインターネットの時代が到来し、中国IT産業の急成長期に立ち会うことができました。もし当時、プログラミングを止めていれば、今の私はいません。
プログラミングを学びたければとことんSolidityなどを学び、積極的にプロジェクトに参画すること。プログラミングができなければ、自分が好きなWeb3プロダクトのコアユーザーとしてDAOに参画すること。そうすれば、いつかはベアマーケットを乗り越え、これまでにない長期的な成長周期に入ると私は信じています。
渡辺 ベアマーケットの時には辛い気持ちになるかと思いますが、私はファイティングポーズを取り続けることが大事だと思います。
多くの人たちはこの業界を去るでしょうが、やはり継続こそが最大の競争優位となる気がします。Web2の時代もそうでしたが、経済が下落し、ベアマーケットに突入している時にAmazonやGoogleといった世界を変える企業やプロダクトが誕生しました。
今のこの状況をあくまでノイズの一種だと捉え、しっかりとプロダクトを作り込むことにフォーカスするのが大事だと思います。
――日本と中国を代表するWeb3の起業家にお話をお伺いできて大変勉強になりました。厳冬の時代だからこそファイティングポーズを取り続けること、そしていつしか到来するWeb3の時代に向けて、私たちも頑張っていきたいと思います。本日はお時間いただきありがとうございました。
(終わり)
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郭宇 Guo Yu
CodeforDAO、Checks Finance ファウンダー
2008年に中国・曁南大学進学後、独学でプログラミングを習得し、在学時からアリババグループのアリペイにて長期インターンに従事。2013年には友人と北京でスタートアップを創業し、わずか一年弱でバイトダンス社に買収。バイトダンスでは初期エンジニアとして6年間開発活動に従事した後にFIRE。現在は日本に居を構え、Web3プロジェクトの開発を進める。
渡辺 創太 Sota Watanabe
Astar Network・Stake Technologies CEO/Founder
1995年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。インド、ロシア、中国、アメリカでインターンシップ活動を経験後、2018年シリコンバレーのブロックチェーン企業Chronicledに就職。帰国後、東京大学大学院ブロックチェーンイノベーション寄付講座共同研究員を経て、Stake Technologiesを創業。同社でパブリック・ブロックチェーン「Astar Network」を立ち上げる。日本ブロックチェーン協会理事や、株式会社丸井グループのアドバイザーも務める。2022年、雑誌『Forbes』の「Forbes30 Under 30 Asia」に選出される。
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