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中国のモバイル決済二大巨頭の一つ「微信支付(WeChatペイ)」が、単なる決済アプリを越えた次の一歩に踏み出している。
WeChatペイの存在が中国の消費者に定着して久しい。2018年第3四半期には月間アクティブユーザー(MAU)が8億人を超え、1日の取引件数は前年同期比50%増となっている。WeChatペイを通じて決済される金額は1日当たり億単位(1億元=約17億円)に上っているのだ。
市場浸透率だけ見れば、WeChatペイほど広く普及したモバイルアプリはないだろう。市場調査会社イプソスの調べによると、中国のスマートフォンユーザーに占める「財付通(テンペイ:WeChatペイ、QQウォレット)」の浸透率は2018年第4四半期に86.4%に達している。対するライバルの「支付宝(アリペイ)」の浸透率は70.9%だ。
しかしこれは、ユーザー数の伸びも頭打ちを迎えたことを意味する。今後も成長を続けるなら、大きく舵を切ることが必要だろう。あるいはコンシューマー向けから企業向けへシフトする道もある。こうした方向性は、国内・海外の両市場で共通するものだろう。
3月下旬、WeChatペイ海外事業ディレクターの范帷氏は、海外パートナー向けのカンファレンスで、今後はサービスプロバイダーを通じて加盟店へのサービスを強化すると宣言している。
決済から延伸するさまざまな機能
まず、国内市場では、WeChatペイは単なる決済アプリからの脱却を図っている。
WeChatペイ事業部副総裁の耿志軍氏は、「今後は単なる決済機能にとどまらず、デジタルツールを用いて各業界のパートナーを支援し、共に消費体験の向上に努めていきたい」としている。各業界の動向を分析し、訴求ポイントや問題点を掘り起こし、ソリューションを提供するという一連の戦略は、2018年から顕在化してきた。
具体例を挙げると、QRコードを利用した料理の注文をする、ナンバープレートを登録して駐車場料金の自動決済を行うといったサービスは、いずれもWeChatペイが立案したものではない。WeChatペイ周辺のサービスを提供するプロバイダーから提案されたものだ。
ここで指す「サービスプロバイダー」とは、WeChatペイ加盟店向けにミニプログラムやECプラットフォームを構築する技術開発者のことだ。2015年、WeChatペイはプラットフォームを外部のサービスプロバイダーに開放した。2017年時点で、3万社のプロバイダーが登録している。
取引の全過程において、決済は最後に位置するプロセスだが、WeChatペイもアリペイも、今後はこの決済を入り口に各産業へサービスを展開しようと考えている。オンライン、オフラインの双方で、小売業者に向けてあらゆるソリューションを提供するということだ。
少額取引が無数に発生する対消費者シーンにおいては、WeChatペイはすでに多様な支援サービスを提供している。ミニプログラムやソーシャル広告(成果報酬型広告のマーケティングプラットフォーム)、「微信卡包(カードケース:クーポン券や会員カードなど、各種ショップカードを一括管理する機能)」などがそれに相当する。
WeChatペイの企業向けサービスについては、国内ではすでに試験的に運用がはじまっているが、海外にも拡張の様相を見せている。
WeChatペイ導入で取引高10倍増の海外小売店も
WeChat自体は2011年に海外でも運営を開始している。2013年には公称7000万人の海外ユーザーを抱えるに至ったが、それ以降はユーザー数を公開していない。WeChatペイ海外事業の責任者を務める殷潔氏は、過去に英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」に対し、「WeChatの海外ユーザーは決して多くはない」と話している。
海外進出の第一歩でターゲットとなったのは、中国人旅行客だ。中国文化・観光部の今年2月の統計によると、2018年に海外渡航した中国人は約1億4800万人で、1人当たりの平均消費額は800ドル(約9万円)、総額1200億ドル(約13兆4000億円)の消費を記録した。中商産業研究院(ASKCI CONSULTING)の予測では、2019年の海外渡航者は前年比11%増となる見込みだ。
つまり、WeChatペイの海外展開をけん引するのは、まずは中国人旅行者ということになる。昨年7月、WeChatペイ事業チームは「海外ユーザー向けのウォレットサービスは、今後3年これ以上拡充しない。引き続き国内ユーザー向けに、海外渡航先でのサービスを提供することに専念する」と発表している。
海外の加盟店向けには、増加し続ける中国人旅行客が売上増の機会をもたらす。香港のドラッグストアチェーン「龍豊薬房(Lung Fung Dispensary)」のCFO鍾偉栄氏によると、同チェーンの来店客は中国本土からの旅行者が主で、2016年にWeChatペイを導入したところ、わずか3年で取引額が10倍になったという。
決済機能を入り口としたその他のWeChat関連製品、例えばミニプログラムや「自助購(海外の複数の企業・店舗から購入した商品をまとめて発送してもらうサービス)」、「掃碼査価(QRコードから商品価格を確認する機能)」といったサービスもユーザー体験向上に効果的だ。本土客の獲得や、渡航前のプロモーションに役立っているという。
龍豊薬房は現在、「微信商城(WeChat Mall)」にも出店しており、顧客との交流を図っている。さらにCRM(顧客関係管理システム)を構築してリピート率を上げていくという。香港で実際に来店した観光客が、帰国後もWeChatを通じて再来店する仕組みだ。こうした試みは、パリの百貨店ベー・アッシュ・ヴェー・マレなど各国で導入されるようになっている。
しかし、龍豊薬房のようにWeChatのエコシステムを存分に活用している企業でも、販売総額に占めるWeChatペイの利用割合は10%にとどまる。モバイル決済の浸透率は、すでに導入から数年が経つ香港でもそう高いとは言えないのが現状だ。海外市場開拓の道のりはまだ長いが、加盟店への支援を強化することで消費者の決済習慣を根付かせることは、一つの有効な手法と言えるかもしれない。
(翻訳・愛玉)
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