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中国電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD) は今年8月、タイの乗用車市場に進出すると発表した。タイに年間15万台の生産能力を有する工場を建設し、2024年の操業開始を目指す。生産された自動車は現地市場に加え、周辺のASEAN諸国や他の地域にも投入する予定で、BYDにとって中国以外で初の自動車工場となる。
9月にはEVブランド「哪吒汽車(NETA)」を展開する合衆新能源汽車(Hozon Auto)がタイで「NETA V(右ハンドル車)」を発表。同時に、タイ石油公社(PTT)と現地に充電スタンドなどのエネルギー供給システムを構築する計画も明らかにした。
また、上海汽車集団(SAIC)や長城汽車(Great Wall Motor)などの大手自動車メーカーはすでにタイで工場を運営しており、それぞれいくつかの車種を現地で販売している。長城汽車は9月、タイのラヨーン県にある工場から1万台目の新エネルギー車がラインオフしたと発表した。
中国の新旧自動車メーカーはここ1〜2年、ノルウェーで新エネルギー車の販売を進め、現地は中国のEVが海外進出する「最初の目的地」と呼ばれている。しかし、中国系自動車メーカーの多くが販売のために進出するノルウェーとは対照的に、タイでは工場や店舗のほか、充電スタンドの建設も進められている。
タイは人口7000万人の小さな国だが、どのような魔力で中国の新旧自動車メーカーを魅了しているのだろうか。
「東洋のデトロイト」 良好な自動車産業基盤
自動車工場の建設地としてタイが選ばれる大きな要因は、一定の自動車産業基盤があることだ。BYDアジア太平洋地域自動車販売部門総経理の劉学亮氏は「海外での乗用車工場の建設地としてタイを選んだことは、グループの海外事業を発展させる大きな一歩となる。タイには自動車産業の豊富な蓄積があり、製造能力も一流だ」と話した。
東南アジアでは国によって自動車産業の発展状況に大きな差がある。データによると、タイは東南アジアで自動車製造業がもっとも発達している国で「東洋のデトロイト」と呼ばれてきた。フォード、ホンダ、トヨタ、日産、BMWといった大手自動車メーカーがタイに工場を建設している。
2021年の自動車生産台数はタイが169万台、インドネシアが112万台、マレーシアが48万台だった。一方、ベトナムは16万台、フィリピンは8万台、ミャンマーは最も少ない2000台未満にとどまっている。
タイは他の東南アジア諸国に比べ、自動車のサプライチェーンが成熟しているため、工場を建設すれば現地でほとんどの部品を調達でき、物流コストの節約が可能となる。また、他の東南アジア諸国は自動車の生産能力が低いが、経済成長に伴って自動車に対する消費者の需要が高まっており、タイで生産した自動車をこうした国々に輸出して販売量を増やすこともできる。
輸出大国のタイ、相手はオーストラリアと東南アジアへ広がる
タイは自動車製品において東南アジア最大の輸出国となっている。
市場調査会社のStatistaが発表したレポートによると、タイでは自動車産業がコンピュータ部品産業に次ぐ第2の輸出産業となっている。ここ3年にわたってタイの自動車輸出市場は全体的に上向いている。タイの自動車輸出台数は2019年が約100万台で、20年はコロナ禍や半導体不足の影響により95万台に減少した。21年の自動車生産台数は169万台、うち輸出は96万台で生産台数に占める割合が56.8%だった。
タイ工業連盟(FTI)副会長兼広報担当のSurapong Paisitpatanapong氏によると、今年の自動車輸出台数は4.54%増の100万台に上る見込み。海外での需要増が要因だという。
現在の輸出相手はオセアニアが中心となっており、20年はオセアニア向けが全体の31.5%、アジア向けが26.7%を占めた。同氏は欧州および北米向け輸出市場も急成長していると説明する。
オセアニアの主要市場であるオーストラリアやニュージーランドは、中国の自動車メーカーが海外進出する際の重要な市場にもなっている。
BYDはすでにこの2つの市場で「ATTO 3」を発売し、市場から良好な反応を得た。今回、タイに工場を建設するのも、今後オセアニアやアジアの他市場に新車を送りやすくすることを考えてのことだろう。
EV工場建設に優遇措置、 法人所得税の8年間免除も
タイでは自動車産業の基盤と生産能力に加え、政府の優遇措置も大きな魅力だ。
7月にEVに対する税制優遇措置が承認され、今年10月1日から25年9月30日までに登録されたEVの道路税が80%引き下げられることになった。
また、タイを東南アジアのEV生産拠点にすると共にEV製造業の競争力を高めることを目的に、8月には29億2000万バーツ(約110億円)に上るEV補助金法案が承認された。新エネルギーの乗用車、ピックアップトラック、オートバイを購入した消費者には価格に応じて1万8000〜15万バーツ(約7~60万円)の補助金が支払われる。
また、EVの現地生産を促進するため、今年から25年までタイ工業団地公社(IEAT)の免税区域もしくは自由貿易区でバッテリー式電気自動車(BEV)の組立および生産に使う輸入部品に対する関税免除が承認された。他にも最長8年間の法人所得税免除など外資の進出を促進する措置が発表されている。
タイ投資委員会(BOI)はすでに17社が進める計26件のEVプロジェクトを承認し、その生産能力は合わせて83万8755台に上るという。
EV向け補助金や新エネルギー車向け減税など複数の政策による後押しによって、タイの新エネルギー車市場は急速に発展して大きな魅力を生み出し、中国の自動車メーカーがタイに進出する良いきっかけを提供している。
タイのEV販売台数は急増
タイの巨大な新エネルギー車市場の見通しも、自動車メーカーが注目する要因の一つだ。ある調査レポートによると、東南アジアの中でタイの消費者が新エネルギー車を好む割合はシンガポールに次ぐ50%に達する。
タイのEV市場はここ数年にわたり急成長している。今年1~7月のタイにおけるハイブリッド車(HEV)の販売台数は3万2000台で、BEVは8000台を超えた。
注目点はBEV販売の伸び率が2月以降に大きく上昇していることで、7月の販売台数は前年同期比334.23%増の1459台となった。
タイ市場には現在30社の自動車メーカーがあり、関連産業の従事者は10万人に上る。タイ政府の予測では、30年までにタイのEV生産台数が自動車生産台数の30%を占める見込みで、タイが東南アジア新エネルギー車市場の中心になる可能性がある。
東南アジアには自動車電動化のリソースが集まりつつあり、タイは東南アジア最大の自動車生産拠点として電動化への移行をリードしていくはずだ。タイという市場を取った企業が東南アジア市場の主導権を握ることになるだろう。
作者:車東西(WeChat ID:chedongxi)、Alice
(翻訳・大谷晶洋)
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