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中国で廉価でそこそこ使えるワイヤレスイヤフォン(TWS)が大量に流通している。一通り欲しい消費者には渡ったのか、2022年には中国のTWS市場は前年比18.1%減の9471万台とマイナス成長となった。そんなTWS市場に突如話題の新星「HHO」という新興企業の「GPods」という製品が登場した。GPodsは内蔵LEDにより、スマホにスマホケースを装着するかのように、いつでも外観デザインをLEDライトの光で自由に変えられるという、この上なくわかりやすい特徴がある。
GPodsはまずクラウドファンディング(CF)プラットフォーム「Indiegogo」で昨年5月に購入者を募った。そのわかりやすさから、1時間半で5万ドル(約670万円)以上を達成し、2022年の年間でも上から2番目に資金調達したクラファンロジェクトとなった。まさに今までにない夢のようなTWSと言える。現在は中国で1099元(約2万円)で販売されている。
イヤフォンは元々小型なものだが、さらにそれを光らせるとなると使い物になるのだろうか。中国でもGpodsを入手した人による製品レビューの数々を読んでみるといずれも好評だ。自在に色が変えられる仕組みには内蔵された6個のフルカラーLEDランプビーズで実現。アプリから色を指定できるのはもちろん、アプリに組み込まれたAIアルゴリズムが写真やアルバムから色を拾い、写真のような色を本体に光らせることができる。専用のケースがあり、ケースを開いた瞬間光るギミックがあるのも物欲を満たすポイントだ。
光るギミックばかりが注目されるのだが、使用者によると基本的な性能は押さえている。片耳あたり約6グラムでケースに入った状態での総重量は約55グラム。より精密になると壊れやすくなるか心配だが、IPX4防水に対応しているので、例えばジョギングなど運動をしながらでも利用可能だ。ノイズキャンセリングは最大25dBまでで、オフィスなどの屋内のノイズには対応できる。ノイズキャンセリングとライトが点灯していてもバッテリーは3時間は持ち、高速充電機能をサポートしていて、10分間の充電で2時間の利用ができるようになる。
さてGPodsをリリースしたHHO社の創設者というのは、アリババグループの元幹部で、ビジネス向けコラボレーションツール「釘釘(DingTalk)」事業のCEOを務めていた陳航(別名:無招)氏だ。イヤフォンの専門家でもオーディオの専門家でもなく「専門家を導く素人だ」と自嘲している。ただニーズはつかんでいた。中国は2021年、2022年とスマートフォンの売上は大幅に減少していた一方で、スマートフォン用ケースの売上が増加し、高価な製品が売られていることに陳CEOは着目した。これはスマートフォン自体の性能には消費者は既に満足しているが、新型コロナウイルス感染拡大の不況下においても欲しいケースがあればお金を落とすという現象に気づいたといってもいい。かつて陳CEOは「イヤフォンは長時間装着するコンシューマー向けの電子機器なので、表情や色や温度や光といったものが必要です」「当時イヤフォンは認識されやすく、女性がイヤリングをつけるような装飾的な効果があるべきと考えていました」と語っている。
光るTWSの実現に向けて陳CEOは動き出す。同氏率いるHHOはデジタル化の専門家集団ではあるが、デザインや製造には通じていない。デジタル時代の新しい製品はすべてデジタル技術であり、思考、設計、製造の「三位一体」でなければならないと考えられていた。そこで事業を開始する過程で共に創る有力パートナー企業3社と提携した。うち「洛可可(LKK)」は工業デザインを、「魅音(iglory)」は製造管理を、「品勝(PISEN)」は品質管理を、そしてHHOはデジタル化やブランディングを担当した。
デザインと製造の専門家と手を組んだが、刺激的なアイディアが詰まった新しい製品を創りだすのは容易ではない。LEDモジュールを追加するので内部構造を再設計する必要があり、LEDモジュールをどうにか追加すると、光によって電子部品に光電効果が発生し、電流によるノイズ音が混ざる。光電効果が発生しないようシールドした上でアンテナを再設計した。どうにか音を綺麗に出しながらLEDも入れたが、バッテリー寿命はLEDの電力消費のために1時間半しかもたない。そこでLEDの点灯時間と消費電力を従来の3分の1に減らすことで、バッテリー寿命を大幅に伸ばすことができた。2021年7月にプロジェクトがスタートし2022年11月に製品がリリースされた。当初の研究開発期間は半年を予定していたが、その3倍の期間が費やされたのである。
陳CEOは留学と仕事で日本に11年過ごし、その後アリババでデジタル化を経験した。同氏によれば、現在の中国の製造業の段階は、世界で多くのブランドが評価された1970年代の日本の製造業に似ていて、また1970年代の日本の製造業と比較すると、今の中国はデジタル化・DX化で世界をリードしているという。「デジタル化理念とブランドが結びつくことで、服にしろ、パソコンにしろ、新しい製品が登場するでしょう」と予測する彼は、TWSに集中せず次に向かっている。すでに「HHOLOVE」というペット向け商品を立ち上げ、新たな製品を出していこうとしている。「中国の製造業を興隆させ、デジタル時代に革新的な製品やブランドを生み出したいのであれば、技術、思想、設計、製造の強みを組み合わせる必要があります。このアイディアとモデルの2回目の検証を行い、それが可能かどうかを確認したいと考えています」。
かつて日本の中小の町工場が連携して世界的に評価される製品の数々を作り出した。現在中国のHHOはデジタルで能力ある企業と連携して光るイヤフォンを創り出した。日本ではデジタル化・DX化が叫ばれているが、これからのモノづくりはどうあるべきか、HHOのモノづくりに学ぶことは大いにあるだろう。
(作者:山谷剛史)
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