科創板IPO分析:「ArcSoft(虹軟科技)」 スマホ事業に過度な集中 売上高の3割は研究開発費に 

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科創板IPO分析:「ArcSoft(虹軟科技)」 スマホ事業に過度な集中 売上高の3割は研究開発費に 

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7月9日夜、「虹軟科技(ArcSoft)」の発表によると、ハイテクスタートアップ向け新興市場「科創板」でのIPO(新規株式公開)発行価格は1株につき28.88元(約450円)に決定した。PER(株価収益率)は、発行前が66.00倍、発行後は74.41倍。発行株式数は最大4600万株、調達予定額は最大13億2800万元(約208億円)。7月11日にネット及び店頭で申込開始となった。

今回上場した虹軟科技は2003年に設立。スマホ向けにAIを活用した画像認識技術を提供する企業で、コンピュータビジョンの第一人者とされている。同社の前身である「ArcSoft US」は米カリフォルニア州で1994年に創業され、画像編集ソフト「PhotoStudio」が多くのユーザーに利用されてきた。

同社の技術は、サムスン、ファーウェイ、シャオミ、OPPOなど、ミドル・ハイエンド向けのアンドロイド端末に採用されており、この画像認識アルゴリズム技術によるロイヤルティーが同社の収益源となっている。

3年連続で増収増益、売上高の3割を研究開発費に投入

同社は過去3年間で順調な業績を維持しており、昨年度の売上高は4億5千万元(約70億円)を突破。2016~18年度の売上高のうち、ソフトウェアのロイヤルティーはいずれも99%前後と圧倒的な割合を占めている。

出所:虹軟科技目論見書

虹軟科技はソフトウェア・情報技術サービス業で製造・輸送コストは不要なため、粗利率は総じて高い。同社2016~18年度の粗利益率は平均で93%前後となっている。

出所:虹軟科技目論見書

同社の原動力となっているのが研究開発と技術力だ。アルゴリズム技術の自社開発にこだわり、研究開発コストは年々上昇している。

目論見書によると、2017年度には研究開発への投資額が1億元(約16億円)を突破し、売上高の31%前後を占めた。我々の調べでは、今回科創板で公開された25社のうち、売上高に占める研究開発費の割合は虹軟科技が32.42%と最高だった。また同社の特許等件数は、昨年末時点で特許が129件(うち発明特許が126件)、ソフトウェア著作権が73件となっている。

虹軟科技のコア技術の活用場面一覧  出所:同社目論見書

業界の見通しは明るいが競争は激化

コンピュータビジョン技術の活用場面はこの3年で拡大しており、新たな産業やビジネスモデルの誕生や、多層的な産業チェーンの再構築を促している。

データ調査機関の「中商産業研究院(AskCI Consulting)」によると、2017年の中国の画像認識分野の市場規模は前年比3.6倍の41億元(約640億円)となった。2020年には市場規模は755億5000万元(約1兆1800億円)に、2017~20年の年平均成長率は164%に達する見通し。

業界の見通しは明るいが、競争は激しくなっている。「センスタイム(商湯科技 / SenseTime)」、「曠視科技(Megvii Technology)」、海外ではイスラエルの「Corephotonics」や「Eyesight Technologies」、日本の「モルフォ(Morpho)」などが同社の競合にあたる。

虹軟科技の事業展開はCorephotonicsやモルフォと似ており、まずスマホなど向け視覚情報処理で勢力を伸ばし、その後他のAI分野へと拡大している。

中国の同技術は世界の先端を走っており、スマートフォン、スマート運転、IoT等へ幅広く応用が進んでいる。今後もさらに多くの分野へと応用できる可能性があり、ポテンシャルは非常に大きい。

売上高の96.57%がスマホ事業に集中

虹軟科技は、売上高の伸び率や粗利益からみると好調といえるが、一定のリスクも存在する。取引先の多くは世界有数のスマホメーカーだが、2018年のスマホ事業での売上高が4億3895万元(約69億円)、売上構成比は96.57%と単一事業に過度に集中している。

米調査会社IDCのデータによれば、2016~18年の世界スマホ出荷量は、それぞれ14億6900万台、14億6500万台、14億500万台と微減。現時点では虹軟科技に対する直接的な影響はみられないが、今後スマホ向けカメラの出荷量が減少すれば、同社の業績にも大きく影響するだろう。

同社もこれらのリスクを意識し、スマホ以外の領域へも手を伸ばしつつある。

IPOで調達した資金は、従来のスマホ向け事業のほか、IoT領域向けAI画像認識、光学式ディスプレイ内指紋認識技術の事業化およびR&Dセンター建設に充てられる。

出所:同社目論見書

新興産業であるAIは成長スピードも速く、従来の産業との融合によりさらなる発展や構造転換を後押しするだろう。今回のIPOによる資金調達で、虹軟科技は業界のリーディングカンパニーへと成長できるだろうか。その判断はまだ当分先になるだろう。

免責事項:当コラムは公開資料をもとに作成していますが、文中の情報或いは意見は何らかの投資を勧誘するものではありません。
(翻訳:貴美華)

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