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中国企業は近年、国内市場の失速をフォローするかのようにアフリカや南米までビジネスを急拡大している。そんな中国企業が散々な目にあったのは同じく人口が10億以上いるインドだ。インドのビジネス環境を滅茶苦茶で理不尽だと愚痴る中国のWEB記事は無数にある。あの中国を苦しめているとはインド恐るべし、だ。
よく言われているようにインドは投資するのに非常に魅力的な国だ。14億人の巨大な市場があり高齢者比率が低く、世界でも急速に成長している新興国で、膨大で安価な労働力が供給され、英語話者も多く科学の分野でも結果を出している。中国から見てもインド市場は魅力的に見えた。だが散々にやられた。
中国スマホ、インドへの怒涛の進出
この10年を振り返ってみよう。2014年にインドの指導者モディ氏が政権を獲得し、自国製造業の振興を目指し「Make in India」を提唱した。中国通信機器ブランドが相次いでインドに進出したのもこの頃だった。中国企業の進出が歓迎され、当時シャオミ(Xiaomi)のトップ雷軍氏がもてはやされた。2015年から2016年にかけて、シャオミ、OPPO、vivo、Transsion(伝音)が次々とインドに進出し、巨大なインド市場を狙って工場を建設し、産業チェーンを拡大した。例えばシャオミはインドに工場を7カ所設立し、インドで2万人を超える雇用を創出した。市場で受け入れられ、インドのスマートフォン販売台数でトップに立ち、後年スマートテレビでも結果を出した。
OPPOとvivoは街頭宣伝によってシェアを高めた。中国でもインドでも、地方も含めてブランドの看板広告を多数出すことでブランドが認知されよく売れた。いいモノを出せば売れるのではなく、ブランドを認知させることで売れる。両社が行う前にはサムスンも町中に看板を無料で提供し、店のオーナーは看板を飾り客を引き寄せシェアを拡大させた。OPPOとvivoは看板を無料で出すだけでなく、毎月一定額の広告掲載料を渡し、店舗を買い取ることもあった。インドのモバイルショップは喜んでサムスンの看板をOPPOやvivoに替えたおかげで両社は有名になりシェアを獲得した。
スマートフォンメーカーとともに、2018年から2019年にかけて、モジュール、型抜き、パッケージ、ケーブルや充電器などの付属品などの関連企業がインドに参入した。
2019年にはシャオミ、vivo、OPPO、realmeはインドで計9990万台のスマートフォンを出荷し、インドのスマートフォン市場の65.5%を占めるまでになった。
インド、中国スマホに対し掌を返す
インドは中国のスマートフォンを歓迎していたが、2020年より一転して厳しい姿勢を取り始める。その2020年には両国の国境での衝突があり、インドでは中国ブランドのボイコットが進んだ。
2020年には、インドは「国境を接する国の国民、またはそのような国に属する国民による投資は、政府機関を通じて承認されなければならない」と中国からの投資を間接的に規制する文書を発表。さらにインドで製造されたスマートフォンなどの売上の増加分に対し総額4100億ルピーの補助金が支払われるPLI(生産連動型インセンティブ)スキームについて、サムスンとアップルは対象となるが中国ブランドは対象とならなかった。6月にはアプリの取り締まりが始まり、インド政府はTikTok、WeChatなど267の中国製アプリを対象にデータセキュリティとプライバシーを理由に規制を課した。
2021年末より、スマートフォンメーカーへの大規模な税務調査がインド各地で行われた。工場、倉庫、事務所、サプライチェーン企業や流通業者、さらに経営者が家宅捜索を受け、取り調べのために連行されたことも。その後2年間でシャオミは65億3000万ルピーの脱税で、OPPOもまた439億ルピーの脱税でそれぞれ告発され、vivoは銀行口座119件が凍結した。2023年にインドはシャオミから555億ルピーを没収。この額は同社のインドでの9年間の利益94億6000万ルピーの6倍にもなる巨額だ。さらにシャオミインドの幹部をインド人に置き換えることも求めた。
またvivoに対しては、マネーロンダリングの疑いで現地幹部を逮捕。vivoインドの工場捜索で、携帯電話の製造に使う特定製品の輸入の際に免税特典を得るために虚偽の申告を行っていたことが判明したと発表を行い、vivoは関税差額6億ルピーを自発的に支払い対処した。その後はインドの大手総合企業のTATAが、vivoのインド事業の51%を取得し合弁会社を設立したいとし話題となった。インドメディアは「インドビジネスが楽になり、インドでの事業で利益をもたらす」と紹介し、中国メディアはこの計画が実行されなかった際には「インドが強国になる夢は打ち砕かれた。多くの外資系企業を怖がらせた」と紹介した。中国とインドのメディアがそれぞれの自国視点で紹介するため、事象の捉え方が全く違った。
インドのPLIにより、アップルはインドを重要な生産拠点とし、iPhoneの一部はインドで生産した。その結果、インド製iPhoneの一部に欠陥商品があったということが日本でも話題になった。このニュースに痛い目を見た中国は、笑うような思いだっただろう。
インドは電気自動車(EV)の自国生産を目指し、工場建設の誘致を行っている。2024年3月、インドは新たなEV政策を導入した。自動車メーカーが5億ドル(約770億円)以上投資し、3年以内にインドで自動車を生産することを約束した場合、その企業は特別な減税措置で最大8000台の自動車をインドに輸出できる、というものだ。とはいえそもそも買える層が少なく、電力インフラも十分にない。なによりスマートフォンのように、インドに進出すれば痛い目にあうだろうと中国企業は慎重だ。
振り返れば、日本が中国市場に進出した過程においても中国で似たような苦しみを体験した。インドへの中国企業進出では、今後も中国企業を苦しめる理不尽なトラブルが起きるかもしれない。
(文:山谷剛史)
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