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アメリカ・ロサンゼルスで今、自動運転タクシー(ロボタクシー)が話題を呼んでいる。開発したのは米Alphabet傘下の自動運転技術開発企業「Waymo(ウェイモ)」で、真っ白い車体が特徴的だ。2010年代後半からアリゾナ州フェニックスやミシガン州、カリフォルニア州サンフランシスコといった各地で限定的な実証実験を開始したのち、徐々にサービスを拡大させて、2024年11月にロサンゼルスでも一般のタクシー同様に運用が開始された。
「運転手」という概念がない車両設計
Waymoは2009年、Google社内の自動運転プロジェクトとして産声を上げた。当時は真っ黒いプリウスをテストカーとして使用していたが、搭載されている装置は今と違ってかなり荒削りな印象だ。その後、2011年からは自社でのハードウェア設計を開始するとともに、4万件以上の交通シチュエーションを想定した実世界のテストコースを構築し、安全な自動運転社会の実現をより推し進めるに至った。
そして、ついに2015年には世界初となる公道での完全自動運転をテキサス州オースチンで達成、初の乗客は開発者の友人で全盲のスティーブ・メイハン氏であった。当時使用されていた車両は「ファイアフライ」と名付けられたGoogle自社開発の電気自動車で、車内にはステアリングやペダルといった運転装置は装備されていない。車両設計の初期段階から「運転手」という概念を廃し、快適さを念頭に置いた広々とした乗車空間を実現した。コンセプト段階では1人掛けと2人掛けを対面にした3人乗り構造を検討していたものの、車両の進行方向と逆側に座る人が加速Gで酔う可能性を鑑みて、最終的には荷物スペースありの2人乗りとなった。
プロジェクト開始から2015年までの間に、Googleは約11億ドルをWaymoプロジェクトに投資したが、これは当時どの競合相手の自動運転プロジェクトよりもはるかに多い額である。
Waymoにとってひとつの転換期を迎えたのは2016年のこと。Googleの社内プロジェクトという立ち位置だったのが分社化、Google親会社「Alphabet」の傘下になったのだ。これを機にWaymoという新たな名前が与えられた。そして使用する車両もこれまでは自社開発のファイアフライ数台だったのが、自動車グループ「FCA(現:ステランティス)」との契約で100台のクライスラー パシフィカを導入、より大規模なサービス提供への第一歩となった。
2018年12月には「Waymo One」のサービスをアリゾナ州フェニックスで提供開始し、乗客を乗せるタクシーとしての運用が始まった。当時は緊急時といったシチュエーションで人間が操作を替われるように運転席に補助ドライバーが同席していたが、約1年後の2019年11月にはドライバーのいない世界初の完全自動運転タクシーを実現した。
立て続けに2022年にはカリフォルニア州サンフランシスコ、2024年には同・ロサンゼルスといった大都市圏での完全自動運転サービスを開始、2024年10月現在で複数エリア合わせて1週間に10万件の乗務を提供しているとのこと。サービス開始から累計で700万マイル(約1120万Km)を完全自動運転で走ったとしているが、これは2023年のデータなため、ロサンゼルスといった人口密集地域でサービス開始した今はもっと多いことだろう。
Waymoの現在の主力車両はイギリスの老舗メーカー「ジャガー」から供給されている純電動SUV「I-PACE」である。通常のI-PACEをベースに、オーストリアの自動車製造大手「マグナ」がWaymoサービスに必要なハードウェア部品を架装、専用モデル「I-PACE Waymo」を製造する形だ。I-PACE Waymoはフロントに1基、サイドに2基、そしてリアに1基の合計4基のLiDARユニット(レーザーを照射して周りの障害物を検知する装置)を軸に、6個のレーダー、29個のカメラ、そして8個の超音波センサーを搭載する。超音波センサー以外はWaymoモデル独自のハードウェアとなっているが、自社開発のユニットを採用しているため、極力突起形状を避け、車体のデザインと上手く馴染むように搭載されている。
アメリカ・ロサンゼルスでWaymoに乗ってみた
2024年11月、筆者はロサンゼルスで開催されたロサンゼルスオートショー2024の取材に際し、実際にロサンゼルス中心部でWaymoを体験した。乗車に必要な予約や支払い、現在地の確認などはすべてWaymo Oneアプリ内で完結しており、アプリ自体のUIもグラフィカルで見やすい印象だ。
まずアプリを開くと地図が展開され、目的地を指定する。予約が完了されると乗車定員や荷物スペース、そして子供がいる場合はチャイルドシート等の補助装置の使用を促すなどの案内が画面上に表示され、ピックアップまでの所要時間が確定する。支払いはこの段階で済ませるが、Apple PayやGoogle Payといったスマートフォン内蔵決済方法に加え、クレジットカードの入力などに対応している。
複数のWaymoが同じ地点でピックアップする際も迷わないよう、車体のルーフに設置されているディスプレイに乗客専用の2文字IDをアプリ内で設定可能だ。その後、Waymoが実際にピックアップ地点に登場すると6分ほど待機してくれるので、筆者はこの時車椅子1台を含む家族3人で体験したが、車椅子からの乗車、そしてトランクへの積載には十分な時間だった。乗車用意が完了するとアプリ上で画面をスワイプ、いよいよ完全自動運転の世界が始まる。
車内にはフロント用とリア用にそれぞれ1基ずつディスプレイが搭載されており、目的地までの所要時間やマップ、天気、そして音楽の操作などが行なえる。これら情報はもちろんアプリ上でも確認・操作が可能だ。再生できる音楽はあらかじめシステム上で用意されている形だが、Google Assistant経由でGoogleアカウントにサインインすることで、YouTube上の好きな音楽を再生することも可能だ。
初めての完全自動運転体験ということもあり、ドライバーがいない状態でハンドルだけが回転してクルマが動くというのはなんとも不気味に感じた。しかし、信号での停車や発進、右左折、そして横断歩道での歩行者検知はとてもスムーズで違和感を覚えない。ただ、I-PACE自体のモーター加速特性が若干急なためか、発進時の加速Gは大きく、不快に感じないよう身構えないといけないのが難点と感じた。
目的地に到着したらアプリ上で操作を行ない、それまで乗っていたWaymoタクシーは次の客を乗せに速やかにその場を離れていく。結構急な加速だったため、客を載せた状態とそうでない状態で運転特性を分けているのだろう。時間帯や混雑状況にもよるが、2マイル(約3.2キロメートル)ほどの距離を10分ほどかけて移動、運賃は11ドル(約1700円)といった具合。世界トップの完全自動運転を体験できるアトラクション代としては高くないと感じた。
日本でも実証実験へ
システムの完成度は非常に高いものの、Waymoはこれまで無事故というわけではない。2024年2月にはサンフランシスコで自転車との軽い接触事故が発生し、それまでにも軽微な事故は数百件ほど経験している。Waymoは2023年に710万マイル(約1136万Km)の走行を完了した時点で傷害が発生した事故は3件と発表、通常の人間が運転するよりも2倍近く安全だと主張した。
車体を見ると、事故など緊急事態発生時の対応への対応に細心の配慮がなされている印象を受けた。もちろん各種ハードウェアによって事故の発生自体を未然に防ぐ努力を尽くされているが、それでも万が一緊急事態が発生した場合は、すぐにオペレーターに接続して連絡が行く。また、現場で対応する警察・消防・救急人員向けの緊急時マニュアルも簡単にアクセルできるよう、車両外部にQRコードが貼られている。
クルマの自動運転システムには大きく分けて2種類の方式がある。1つ目はLiDARユニットを搭載し、事前に構築された地図情報をベースに車両が走行する方式で、これはWaymoが採用するモデルだ。もう一つはより安価な高精細カメラを複数搭載し、事前情報がない道路でもリアルタイムで画像検知し、周囲の状況を判断する方式だ。こちらは米テスラが提供するレベル2の自動運転システム「Autopilot」が採用するほか、日本のベンチャー企業「TURING」も開発を進め、ゆくゆくは幅広い状況においてレベル5の完全自動運転を達成できると主張している。
今回試乗したWaymoは、現時点で世界最先端とされる無人タクシーサービスだ。2025年の早い時期に東京都内で配車アプリ大手GOや日本交通と組んで自動運転技術の実証実験を行うことが発表されている。これはアメリカ以外での初めての試みとなる。車両は今回試乗したのと同じジャガーI-PACEを25台投入し、将来的にはより安価なヒョンデ製BEVの導入も噂されている。日本のタクシー業界では、Waymoのような無人タクシーによってドライバーの不足や高齢化による事故増加といった課題が改善されることへの大きな期待が寄せられている。
(文:中国車研究家 加藤ヒロト)
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