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「ガチ中華」を食べたことがなくても、料理のジャンルとして聞いたことがある人はずいぶん増えた。牛丼の松屋が四川料理の「水煮牛肉」をメニュー化するなど、一般消費者にも定着した。だが実際はブームが一段落して久しい上に似たような店が増えすぎたことで競争が激化し、料理店が生き残るには「差別化」が欠かせなくなっている。本格四川料理店「麻辣先生」を都内のオフィス街で展開する範徳龍さんは、ガチ中華の浸透とともに戦略を見直し、「初心者向けのガチ中華」にシフトすることで、日本人サラリーマンの支持をつかんだ。
メニューに詳細な解説
中国人が多く暮らす池袋や高田馬場などを中心に「中国人の客向けに現地で食べられている料理をそのまま出すような店」が増えたのは2018年ごろ。筆者はそれを「ガチ中華」と呼んでブログで紹介していた。
その後、コロナ禍で海外に行けなくなると、異国グルメを求める日本人の間でガチ中華の人気に火がついた。テレビや新聞など多くのメディアで紹介されるようになると、「ガチ中華」を掲げる飲食店が一層増えた。
それから5年。「ガチ中華」のイメージも変化しているように感じる。元々は在日中国人を客層にした料理と料理店を指していたが、「日本で知られていない中国の料理」を扱う「ジャンル」として認知されるようになった。
松屋が1月に期間限定で発売した四川料理「水煮牛肉」もガチ中華として扱われている。それだけ「ガチ中華」の認知度、受容度が高まったということだろう。この流れに合わせ、日本人をターゲットに、本格的な四川料理を提供している店が「麻辣先生」だ。
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麻辣先生のメニューには、毛血旺(牛ホルモンと鴨血の麻辣スープ煮)や碗雑麺(エンドウ豆と肉味噌入りの四川式まぜそば)、夫妻肺片(煮た牛の内臓を香辛料で和えた前菜)などお勧めの料理が特大の写真と詳しい解説文で紹介されている。
「どんな食材を使ってどんな味付けなのか分かれば頼んでみたくなるお客さんも多いと思うんです。中国のドキュメンタリーで取り上げられたこともある注目料理、と言ったストーリーもできるだけ加えるようにしています」と範さん。
中国では紹興酒よりも飲まれている蒸留酒の白酒のソーダ割りである「白(バイ)ボール」や四川料理では定番のスパイスである花椒を使った花椒ハイボールなど、中国では定番の材料を日本人に向けてアレンジしたようなアルコールメニューもそろえている。
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日本人だけでも入りやすい
範さんは2015年に九段下(東京)で「芊品香(せんぴんしゃん)」という四川料理の店をオープン、日本人向けの「町中華」に比べると、唐辛子や花椒などのスパイスをたっぷり使った本格的な料理を提供していたものの、日本人に馴染みのないメニューは受け入れられないため、「麻婆豆腐」や「よだれ鶏」など、日本で定番の料理を中心にしていた。
やがて日本人の常連もつき、料理や中華料理そのものについて話をすることも増えたが、そこで気づいたことが「日本人は本格的な中華料理が嫌いなわけではなく、知らないだけ」ということだった。
ガチ中華という言葉の認知度が高まった2022年に、範さんは現地で食べられている四川料理を日本人にも食べてほしいという思いから「麻辣先生」という新たなブランドを立ち上げた。麻辣先生では日本でメジャーな料理だけでなく、毛血旺や碗雑麺など、現地の人しか食べないような料理も提供するようになった。
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池袋や上野などのガチ中華の店に行くと、入店時から中国語での接客が始まり、メニューも中国語しかなかったり、写真がなかったりする。ガチ中華に興味はあっても、足を踏み入れるのはハードルが高い。
麻辣先生は、「現地の人が好むガチ中華は食べてみたいが、日本語が通じないような接客面も“ガチ”な店はちょっと……」という日本人に刺さっているように見える。
筆者も、ガチ中華に興味があるけど、全てが“ガチ”な店に連れて行くと引いてしまうかもしれない人を案内するときに、麻辣先生を利用することが多い。
実際に日本橋店、木場店、飯田橋店などに足を運ぶと、客のほとんどは日本人だった。日本人だけでも気軽に入れる雰囲気の店なのに、出てくる料理は四川で食べられているようなものが出てくるという不思議な感覚になる店なのだ。
範さんによると、神保町や大手町などのオフィスエリアでのさらなる出店も計画中だという。
文:阿生
東京で中華を食べ歩く26歳会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。Twitter:iam_asheng
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