爆発リスクで100万台リコール⋯中国モバイルバッテリー規制で暴かれる“スペック盛り”の実態

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

大企業特集編集部お勧め記事注目記事36Krオリジナル

爆発リスクで100万台リコール⋯中国モバイルバッテリー規制で暴かれる“スペック盛り”の実態

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

中国の国内線航空便では、CCC(中国の強制製品認証)の「3C」ロゴが付いていないモバイルバッテリーの機内持ち込みが禁じられた。

日本で流通する製品の多くにも3Cロゴはないため、中国国内における渡航時には機内に持ち込めなくなる。この規制を発表した中国民用航空局は、ANKER(アンカー)やROMOSSの一部製品の名前を挙げ、ANKERは7モデル71万台、ROMOSSは3モデル50万台弱と、合計で100万台規模のリコールが起きた。

リコールの原因は、採用していたApex(旧Amprius、無錫)が一部外注したリチウムイオンバッテリーセルに欠陥があり、爆発などの事故を引き起こすリスクがあったためとしている。同様の理由で他の複数のメーカーもリコールを行っている。

この大規模リコールは、メーカー、消費者、販売店を巻き込む事態となった。3Cロゴ取得にはコストがかかるため、偽のシールを貼り付けたり、刻印を施したりする業者の動きや、飛行機に乗らない人向けに販売したり、ギフトとしてばらまこうという動きが報じられた。

一方で、回収品を引き取り、新品を特別価格で販売するモバイルバッテリーメーカーや、空港で搭乗予定者が持つバッテリーを無料交換し、ユーザー囲い込みを図るEC大手の京東(JDドットコム)など、ピンチをチャンスに変える動きも見られた。今回のリコール騒動でもタダでは転ばない中国企業の対策事例は、企業によっては学びになる点も多いだろう。

モバイルバッテリーでの大規模リコールは、「爆発するかもしれない」という重大な品質問題が背景にあるからこそ実施されたものだ。一方、リコールにはならないが、スペック偽装は珍しくない。明らかに虚偽と言えるほど、カタログスペックと実際の性能がかけ離れたノンブランド製品が存在するほか、有名ブランドの製品においても、スペックを盛った製品は決して少なくない。

多くのブランドは製品詳細ページで、例えば「iPhone 16 Proを10分で23%充電」といった分単位やパーセンテージ単位での充電ベンチマーク結果を引用し、驚異的な充電速度をアピールしている。しかし、それは本当なのか。中国テック系メディア「雷科技(leitech)」が確認したところ、ベンチマークを行ったANKER、シャオミ、UGREEN、Baseus、JD、Coota、IMF、PISENの8ブランド全ての調査対象製品において、製品詳細ページで宣伝されているほどの急速充電を実現できなかったという。

雷科技(leitech)の公開した動画より

ただし、雷科技がレビューしたところ、広告で示された数値と消費者の実際の体験との乖離の程度はブランドによって異なっていた。たとえば、ANKERの299元の「A1638」では、製品紹介ページに「同条件で27分で50%まで充電できる」と書かれているが、実際には30分で49%まで充電と、ほぼ近い結果となった。また、この製品は今回のベンチマーク対象の中で価格が飛び抜けて高いものの、その分ピーク電流は他社製品を圧倒するなど性能面でも優秀で、機能やデザインも高く評価された。また、UGREENとBaseusも製品紹介での謳い文句と実際のベンチマーク結果が近く、素晴らしいと雷科技は評価している。

一方で、シャオミの169元の「WPB1007MI」では、残バッテリーが20%のiPhone Pro 16を30分充電したところ、公式では58%まで充電できると謳っているが、実際には48%にとどまった。このため、雷科技は「シャオミは少々盛りすぎだ」と苦言を呈している。

雷科技(leitech)の公開した動画より

デジタル製品における“盛りすぎ”カタログスペック問題は、モバイルバッテリーに限らない。例えば、USBメモリやSSDなどのストレージ製品では、カタログ上の容量や読み取り・書き込み速度よりも、実際の性能が大きく劣ることがある。また、ウェアラブル製品やワイヤレスヘッドフォンにおいて、バッテリー性能の数値が製品紹介と実使用時で大きく異なる場合があり、パフォーマンスと品質が誇張されているというレポートもある。さらに、ゲーム機の広告では、あたかも多数の正規版ソフトがプリインストールされているように見せかけながら、実際には海賊版ソフトが入っているといった著作権侵害にあたる虚偽広告も見られる。

トランプ氏が火付け役!モバイルバッテリーの中国「Anker」、24年1~6月期の純利益は約175億円

日本のノートパソコンやスマートフォン、カメラ製品においても、昔からカタログスペックと実際のバッテリーは使い方によって差があり、必ずスペック通りの数字はでないことがあり、「だから中国の製品は信用できない!」という結論に持っていくのは早計ではある。商品広告通りの性能がでていない事例は、実際には国やメーカー、ブランドを問わず存在する。中国には、玉石混交のメーカーやブランドがあり、購入して失敗する製品も少なくないが、中国の消費者は、「人気でメジャーなブランド、かつ値段の安すぎない製品なら外れは少ないだろう」という見極めの目をもっている。

中国越境ECのパイオニア、電子機器大手「Anker」、時価総額1兆円超までの道のり

実際、大手メーカーのANKER、UGREEN、Baseusは、今回リコール騒動があったものの、ベンチマーク的にはよい結果となった。「餅は餅屋」というもので、聞き慣れない中国ブランドの製品を買う際には、そのブランドが当該製品のジャンルにおいて中国で世界でどの程度の知名度と実績を持っているのかを確認することは大事だ。今回のベンチマーク結果は、その点を改めて示すものとなったといえよう。

“見せる充電器”で差別化 Ankerの牙城を揺るがす「SHARGE」、ハイエンド路線で世界拡大中

(文:山谷剛史)

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録