ヒレを模した水中ロボ、深海設備の点検狙う 中国・工至海洋、海外にも販路

国際電気通信連合(ITU)によると、世界には約500本、総延長170万キロメートル超の海底ケーブルがあり、国際データ通信の99%以上を担う。

中国の「蘇州工至海洋装備科技」(以下、工至海洋)は、海底の設備点検などに使う水中ロボットを手がけている。創業者の郭春雨氏は「世界の海底ケーブルで日常的にメンテナンスが施されているものはほとんど無い。海底ケーブルが破損すれば、修復に数カ月かかり、そのコストは1000万元(約2億円)にも上る」と説明する。

郭氏は、ハルビン工程大学の出身で、長らく深海技術の研究に携わってきた。チームが20年以上にわたって蓄積してきた研究成果の商用化を目指して、2025年に工至海洋を設立。これまでに26年8月のシリーズAを含め、3回の資金調達を実施した。

同氏によると、深海は複雑な海流や腐食性の強い海水、生物群落がある厳しい環境で、一般的な水中ロボットがタスクをこなすのは難しい。また、従来のプロペラを使う推進システムは推進力が大きいものの、発生する騒音が探知装置(ソナー)を妨害するほか、海底の堆積物を巻き上げて視界を悪化させる。一方で周囲への影響を最小限に抑えようとすれば、速度や推進力が損なわれることが多い。

工至海洋は、海洋生物のヒレのようにしなやかに動く、生物模倣技術を採用した推進装置と、騒音の少ないポンプジェットを組み合わせた推進システムを独自に開発。水中ロボットの最高速度は15ノットで、航続時間は72時間を超え、低騒音モードでの騒音は最低86デシベルに抑えられているという。

推進システムに加え、センサーや制御、通信・ナビゲーション、防水の技術も開発している。マルチモーダルデータとAIアルゴリズムを組み合わせたビジョンシステムは、複雑な水中環境でも画像補正や目標物検知が可能で、ロボットが自律的な作業を行うのに必要な知覚を持たせた。目標物検知の精度は95%を超えるという。

性能を確かめるため、障害物が多いダムの貯水池でも点検作業を試した。同社によると、巡回点検業務1回当たりの作業コストは従来型ロボットの500万元(約1億2000万円)から70万元(約1600万円)に減り、作業期間は6カ月から20日に短縮した。これは、政府や大手企業が手がけるインフラ維持管理の分野に参入する上で、大きなセールスポイントになっているという。

深海作業をこなす水中ロボットの活用イメージ

製品には、重量約25キログラムの遠隔操作型水中ロボット(ROV)や、約1000キログラムの自律航行型水中ロボット(AUV)がある。設計から組み立て、主要部品の製造まで自社で手がけ、従来の水中ロボットより大幅に価格を抑えているという。海運大手の中国遠洋海運集団(COSCO)向けには、重さ数キログラムの小型機も開発している。予定価格は10万元(約230万円)を下回る見込みだ。

事業化に向けては、深海探査分野で1億元(約20億円)近い購入意向を受けており、海底ケーブル維持管理や極地観測などの分野にも参入している。海外ではシンガポールの海洋エンジニアリング会社と水中清掃用ROVの供給に関する枠組み協定を結び、初回の納入額として数千万元を見込む。ターボブロワーを開発するカナダのAPG-Neurosとは、主要部品を独占供給する3000万元(約7億円)規模の契約を結んだ。

海底の設備点検などに使う水中ロボットを手がける

受注の増加に対応するため、生産能力増強にも着手した。今年7月に江蘇省啓東市でスマート工場の建設を開始し、完成後は水中ロボットを年間約100台生産する計画だ。郭氏は26年の売上高を約3000万元、27年には1億元超と黒字化を見込んでいる。

中国発、深海6000mを制する「水中ロボット」 海底建設の人手不足を解消へ

*1元=約23円で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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