中国BYDが高級EVブランドを立ち上げへ、海外大手の買収も視野に

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中国の新エネルギー車(NEV)大手「比亜迪(BYD)」が2022年に自社ハイエンドブランドの立ち上げとディーラーネットワークの構築を計画していると報道された。このニュースについて36Krの自動車関連メディア「未来汽車日報」が同社広報部門に問い合わせたところ、事実だとの回答があった。

BYDは1月26日、決算報告のカンファレンスコール関連文書で「EV2.0プラットフォーム」をベースにハイエンドブランドの車種を開発し、最初の車種を「海豚(Dolphin)」と名付けて若年層をターゲットに2023年の発売を計画していることを明らかにした。

ハイエンドNEV市場では自主ブランドの参入が相次いでおり、「嵐図汽車(VOYAH)」のほか「上海汽車集団(SAIC Motor Corporation)」やIT大手アリババグループら3社が共同で立ち上げた「智己汽車(Zhiji Motor)」、「長城汽車(Great Wall Motor)」がすでに動き出している中、BYDに勝ち目はあるのだろうか。

BYDにはハイエンド車種が必要

ブランド力はこれまで長らくBYDの弱点となってきた。BYDは過去に「秦」「唐」「宋」「元」「漢」「商」の6車種を発売しているが、それぞれのメイン価格帯は秦と宋のNEV車が10~20万元(約160~330万円)、唐と漢が20~30万元(約330~490万円)、宋、元、Eシリーズが10万元(約160万円)以下となっている。BYDは設立から二十数年の間、30万元(約490万円)を超えるハイエンド車種を手がけたことがない。

BYDの売れ筋は依然として手頃な価格の車種となっている。乗用車市場信息聯席会(CPCA)によると、昨年の宋の販売台数は前年比64.7%増の17万9500台、秦は5万8200台で、この2車種が販売総数の56.5%を占める中、価格が高い唐は販売総数の8.7%に当たる3万6700台にとどまった。

しかし、このラインナップでは次第に高まる消費者のニーズを満たせなくなっている。

自動車情報サイト最大手の「汽車之家」によると、2017~2020年上半期の自動車購入検討者のうち予算が30万元(約490万円)以上の割合は6.6%から12.7%に増加する一方、予算が10万元(約160万円)以下の割合は13.7%に減少した。

高級車の根強い人気も自動車メーカーのブランドハイエンド化を後押ししている。

昨年は世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延が生産停止、営業停止、部品供給の停滞を引き起こし、中国の自動車市場では想定通り年間販売がマイナス成長に落ち込んだが、高級車市場だけは活況だった。

中国汽車工業協会(CAAM)によると、昨年12月の中国産高級車の販売台数は前年同期比24.6%増の28万4000台だった。昨年4月以降、高級車販売はプラス成長を続けており、4~12月の月平均増加率は前年同期比31.4%に達した。

実のところ、BYDも過去にハイエンドNEVの販売を試みている。

BYDが昨年5月に発表したミドル・ハイエンド車種の漢は30万元(約490万円)近くの価格にも関わらず、予約販売開始後の20日間で受注台数が1万5000台を超えた。これを見た同社の趙長江氏はSNSで「漢は米テスラ(Tesla)の『Model 3』を超えるかもしれない」と発信していた。

趙長江氏のSNS画像

だが理想と現実との間にはまだギャップがある。公式発表によると、漢は昨年7月の発売以降、販売台数が累計4万600台、月平均5793台にとどまる一方、テスラのModel 3は売れ行き絶好調であり、販売台数は年間13万7500台、月平均1万台を超えた。

それでもBYDは諦めていない。業界関係者は「中国の自主ブランドはガソリン車の時代にはローエンド市場の脇役だったが、NEVなら新興勢力も価格が30万元(約490万円)以上のハイエンド市場に直接参入することができる」との見解を示す。

独立したハイエンドNEVブランドの立ち上げは中国の自主ブランドに共通の事業戦略となった。

業界関係者は未来汽車日報に対し、中国の自主ブランドが独立した新ブランドを立ち上げればより一層スマート化に注力できると説明。「一般的に新ブランドはコンパクトで、部門間の協力もより簡単でスムーズだ」と話した。

BYDの技術力

「東風汽車集団(Dongfeng Mortor Group)」や上海汽車集団など中国の自主ブランドメーカーに比べ、BYDがハイエンドNEV市場に参入するペースは少し遅いように思われるが、技術力というアドバンテージは早急に遅れを挽回するのに役立つだろう。

BYDは昨年3月にブレード・バッテリーを発表し、動力電池分野に大きなうねりを起こした。ブレード・バッテリーはリチウムイオンバッテリーとほぼ同等の航続距離を持ち、安全性も上回る。また同社は1月26日に「中国第一汽車集団(China FAW Group)」の「紅旗」にブレード・バッテリーを供給する計画を明らかにし、今年下半期には出荷できるとの見通しを示した。さらに、2022年下半期に海外供給も開始するとしている。

BYDは継続的に技術開発を進めている。今年1月には、ガソリン車に対抗するため「DM-iスーパーハイブリッドプラットフォーム」をリリースした。

このプラットフォームについて同社DMチーフデザイナーの楊冬生氏は、電気を主体とするハイブリッド技術がベースになると説明。同技術の最も大きな特徴として、航続距離が1000kmを超え、燃料消費も抑えられることを挙げた。

技術と製品が評価され、BYDの株価は昨年、48.04元(約780円)から194.3香港ドル(約3170円)に上昇した。

ただ、業界関係者によれば、BYDの技術力がハイエンド市場参入の妨げになる可能性もあるという。「技術の良し悪しはともかく、BYDは自社の技術に頼り過ぎている」「他社は世界の優れた技術を集め、適切に利用しながら柔軟に対応している」との声も聞かれる。

また「ハイエンド化を進めるには技術面だけでなく、マーケティングやオペレーションにも注意を払わなければならない」という指摘もある。BYDにはハイエンドブランドのオペレーション能力が不足している。1月27日に、BYDが370億ドル(約3兆9000億円)で英アストンマーティンの買収を検討中と報道されたのは、それを補おうとする動きに見える。この報道についてBYDは「ノーコメント」と答えた。

作者:「未来汽車日報」(wechat ID:auto-time)、丁唯一

(翻訳・神戸三四郎)

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