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短編動画アプリTikTokを運営するバイトダンス(字節跳動)の張楠CEOが先月17日、「将来的には抖音(TikTok本国版)を動画の百科事典にしたい。そして動画検索機能をその百科事典の索引にしたい」とSNSに綴った。同時に、抖音は初めて検索事業に関するデータを公表し、月間アクティブユーザーが5億5000万人、動画の検索回数が1日平均4億回を突破しているとした。
抖音は動画検索機能の強化を急いでいる。すでに多くの大手競合が着手しているからだ。
テンセントのアプリ「WeChat(微信)」には動画専用アカウント「視頻号」が設けられており、動画検索専用の検索ボックスを付帯しているが、動画以外のコンテンツエコシステムとも相互に連携している。アリババのインテリジェント検索アプリ「Quark(誇克)」は昨年7月に動画専用の検索アプリ「Z視頻(Z Video)」をリリースし、「動画のナレッジライブラリー」として検索サービスの再構築を試みている。バイドゥ(百度)は昨年10月にライブストリーミングサービス「YY直播(YY Live)」を買収し、看板の検索事業をライブ配信番組検索にまで拡大していく見込みだ。
バイドゥのロビン・リーCEOは検索事業について「検索のスタイルはこれからも変化し続けていく。市場規模も人々が想像するよりずっと大きい」と述べている。実際、検索サービスはテキストからはじまり、画像、動画へと戦いの場を移してきている。
とはいえ、各社とも動画検索事業の方向性については模索中だ。音声認識、画像認識など技術的にもクリアすべき点は多い。
検索事業に本腰の抖音、迎え撃つバイドゥ
バイトダンスはこれまでにも検索事業の開拓を続けてきたが、ついに動画検索で新たな道を切り開いた。張CEOは今年初め、「新しい1年は抖音の検索機能を強化する」と表明、人材集めの号令をかけている。
同社の検索サービスはもともとニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」に付随するテキスト検索だった。
抖音が検索事業に注力するということは、バイドゥとの正面対決に再び臨むということだ。
検索サービス中国最大手のバイドゥは、これまでにも動画検索のノウハウを蓄積してきている。さらに昨年にはYY直播を買収し、ライブ配信番組の検索も模索しはじめた。
YY直播の買収について、リーCEOは先日の決算説明会で「ライブはテキスト、画像、動画と一定の比較可能性があり、新しい商業化モデルでもある」と説明。広告、サブスクリプションサービス、Eコマースなど多様な収益化の手段があるとした。バイドゥ社内からは、ナレッジ系コンテンツのライブ配信を通じてユーザーの滞在時間を伸ばし、検索事業の深掘りを進めるとの声も聞かれた。
バイドゥは2014年にカメラ製品を発売し、リアルタイムストリーミング技術を用いて実況イベントを開催していたことがある。当時のリーCEOはライブ配信について「単なるコンテンツの一形式」との認識を示しており、ライブに特化したプラットフォームのリリースには至らなかった。その後、抖音や「快手(Kuaishou)」といった短編動画アプリによるライブ配信プラットフォームが盛り上がりを見せ、バイドゥも2019年になってようやく「百度直播(Baidu Live)」をローンチしたのの、専用のアプリはリリースせず、短編動画プラットフォーム「好看視頻(Haokan Video)」など既存のアプリにリンクを設けるに留めた。
バイドゥはYY直播を買収することでライブ配信分野への乗り遅れを一足飛びに挽回したい考えだ。YY直播には1億2000万人を超えるファンがついており、すでにライブ配信事業のエコシステムを形成している。
しかし、テキスト・画像検索から出発したバイドゥにとて、動画検索の取り込みは容易ではない。
バイドゥの短編動画分野で唯一の成果といえるのは2017年11月にローンチした好看視頻だろう。しかしその好看視頻も、サーチエンジンやクラウドストレージサービス「百度網盤(Baidu Wangpan)」、動画共有サービス「iQIYI(愛奇芸)」など他事業とトラフィックを共有することで成り立っており、独自にクリエイターのエコシステムも持たない。コンテンツは外部からの寄せ集めに頼っており、質もイマイチだ。
好看視頻は最近になってクリエイターのエコシステム形成に動いており、昨年には「未来計画」としてクリエイター支援に10億元(約170億円)の予算を注ぎ込むなどの施策を発表している。また、昨年10月に動画に特化した検索アプリ「百度看看(Baidu Kankan)」をリリースし、短編動画やライブ動画も含めた各種動画が検索できるようになった。コンテンツはiQIYIなどバイドゥ系の動画サービス以外に、テンセントやビリビリ動画など外部プラットフォームのものも含み、多彩な内容を網羅した。
次のYouTubeになるのは誰だ?
動画検索が徐々にトレンドとなってきているが、市場にはどの程度、成長の余地があるだろうか。
中国は昨年末時点でインターネットユーザーが9億8900万人、そのうち短編動画のユーザーは88.3%を占めるという。モバイルインターネット関連のデータを扱う「極光(Aurora Mobile)」がまとめた「コンテンツエコシステムにおける検索トレンドに関する研究報告」では、バイドゥやSogou(捜狗)など一般的な検索エンジンの使用率は71.5%、短編動画プラットフォーム内の検索サービスの使用率は68.7%だった。
インターネットで検索をする際に、短編動画プラットフォーム内の検索サービスを使用する割合は18.1%、検索エンジンを使用する割合は22.6%だ。つまり、ユーザーが1000回の検索をするなら、うち181回は短編動画プラットフォーム内で、226回は検索エンジンを使って検索をするということであり、両者に大きな差はない。
検索エンジンを使った場合、検索結果の同質化や頻回な広告表示がユーザーにとっては悩みとなる。反して、短編動画プラットフォームの検索機能はユーザーが求める結果に高精度で合致する。検索結果はパーソナライズが進んでいるのだ。
一例として、 旧正月シーズンに公開された映画「你好、李煥英(Hi,Mom)」を抖音アプリ内で検索してみる。検索結果は、動画のタイトルに「你好、李煥英」の文字列が含まれるもの、ハッシュタグに監督や出演者の名を含むもの、さらには動画中に「你好、李煥英」の文字列に合致する内容や音声が含まれるものなど、さまざまな動画がヒットする。
検索エンジンのアルゴリズムを開発するエンジニアは、「現段階では動画検索と画像検索には本質的な違いはなく、いずれもアルゴリズムを通じてコンテンツの特徴を定義し、抽出されたコアデータやクエリー(検索条件、検索キーワード)とのマッチングを行うものだ」と説明する。
動画検索分野では世界的な動画共有プラットフォームであるYouTubeのノウハウが参考になる。
2005年に設立されたYouTubeは世界最大の検索エンジンを運営するグーグルに買収されてから検索サービスを強化するようになり、2008年にはヤフーを超え、欧米市場でグーグルに次ぐ検索エンジンとなった。YouTubeでの動画検索機能はわずか十数年の間に、タイトルやキーワードを用いた簡易的なものから、再生回数など多くの要素を加味したモデルへ進化している。グーグルの傘下企業として、ディープラーニングやAIなどの技術を活用してきたのだ。YouTubeのシステムは大規模な分散トレーニングおよびニューラルネットワークを用いて、動画のソートやレコメンデーションアルゴリズムを最適化し、検索結果の精度を上げた。海外メディアの今年初めの報道では、YouTubeは音声検索機能も追加するという。
大手企業がこぞって参戦することで、動画検索は新たな競争の場となっている。技術、コンテンツエコシステム、事業モデルにおけるブレイクスルーを果たす者が勝者となり、「中国版YouTube」となるだろう。
従来のテキスト検索と同様、動画検索には巨大な商機が眠っている。フィード広告やリスティング広告など、収益化の方法はこれまでのものが流用できる。おすすめ動画の表示画面に、ユーザーが過去に閲覧あるいは検索したコンテンツと関連する企業の広告が登場するといった具合だ。こうした事業モデルへの入り口として、動画検索の重要性は言及するまでもない。
作者:WeChat公式アカウント「連線Insight(ID:lxinsight)」、王古鋒
(翻訳・愛玉)
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