不安な中年たちが突如マラソンにはまる理由。ボストンマラソンの3割超が40代
ワークアウト、トラック&フィールド、トレイルランニングなど、高負荷の運動がミドルエイジの間で注目を集めつつある。苛酷で刺激的な「エクストリームスポーツ」はこれまで若者の専売特許と考えられてきたが、競技会に参加するミドルエイジも散見される。彼らがハードなスポーツに求めるものは何なのか? WebサービスMediumに投稿された記事が人気の秘密を紐解いている。筆者は43歳でうつ病を患ったスポーツライターで、トレイルランニングで病を克服したという。

「ミドルエイジクライシス(中年の危機)」について聞いたことがあるだろうか? カナダの精神分析医エリオット・ジャックスによる造語だ。人生が中盤に差しかかると、人は過ぎ去った年月と残された時間を思い、これから何をすべきか考える。その中で焦りや不安、プレッシャー、倦怠感といったものが蓄積され、抑うつ状態に至ることがある。中年男性が年齢に抗うように若い女性を連れ、スポーツカーを乗り回すといった行為もこうした不安の表れだ。

その焦りや不安を打ち消すかのように、激しいスポーツにのめりこむミドルエイジが増えているという。
米国ではトライアスロン競技人口の3分の1が40~49歳だ。2017年のボストンマラソンでも同様の現象が見られ、参加者の31%が40~44歳だったという。また、2015年のロンドンマラソンでは、40~49歳の平均タイムが20~29歳より短かったという。100マイル以上を走るウルトラマラソン参加者の平均年齢は44歳というデータもある。
自らの限界に挑む彼らの心理は、筆者の分析では決して「若さへの挑戦」ではない。それは残りの人生で「優雅に歳を重ねる」ための基礎固めであり、「永遠に消えることのない自分の弱点と対峙する」ためである。

不妊の原因が過度の肥満にあると知った40歳の女性が、ダイエットのためにジョギングをはじめた。それが高じていつしかトライアスロンに夢中になり、ついには国際大会にまで出場するようになった。彼女はトライアスロンから学んだことについて、「人生のあらゆる場面において、継続することが何より大切で、何事も決して簡単に諦めてはいけないと知った」と話している。

40代で早期退職したある女性は、ありあまる時間と自由を持て余していた。生活を立て直すために挑戦したトライアスロンで学んだことは、「自分を大切にすること」だという。苛酷な競技の最中、自分を守れるのは自分しかいないからだ。自身の身体の限界を知り、生命の限界を知り、自分に打ち克つ経験は、極限の状況に追い込まない限りは得られないと話す。

長距離走には「デッドゾーン」と呼ばれる苦しい時期がつきものだ。中年の危機はまさに、人生のデッドゾーンと言えよう。
スポーツ心理学者ドロレス・クリステンセン氏がウルトラマラソンの走者を調べた結果、完走できる選手はおしなべて「苦しみに恐怖感を抱かない」ことがわかった。極限状態に置かれたとき、身体に対する感謝が生まれ、苦難を克服する過程で自分の力に誇りを感じられれば、走り続けるモチベーションになるのだ。競技中はこのプロセスを何度となく繰り返すという。

では、人生のデッドゾーンにどう対処するか?これを脅威と感じるのか、それとも受け入れるのか?苦しみを自分の内に閉じ込め、黙々と耐えているだけでは人は疲れてしまう。
うつ病の罹患経験がある筆者は知っている。たとえどんなに努力をしても、残りの人生でうつ病と完全に縁を切るわけにはいかないと。そこで、うつ病も自分の一部分であることを認め、人生の伴走者にしてしまうことにした。人生の谷底に突き落とされたときに再び立ち上がる力をくれ、反対に絶好調の時は思いあがりを自制させてくれる、そんな伴走者だ。