入眠補助、通院付き添い……IT大国・中国で生まれる意外なアナログ職業

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日本のSNSを見る限りだが、経済成長や大きな変化が少なく、中高年が自分の仕事を全うし譲ろうとする状況ではない中で、若者が何をして生き抜けばいいか悩んでいるという発言をよく見る。

中国でも華々しく景気のよいニュースは日々報じられるものの、一方で若者の間で「躺平」(タンピン。意味は横たわり)主義という、頑張っても報われないという考えが共有されている。

若者に人気の中国IT産業は、アリババやテンセントやバイトダンスやファーウェイなどがシニアスタッフと若者を入れ替えつつ10万人を超える人々を雇い、今年は各社が過去最大の新卒雇用をすると宣言した。2019年頃「互聯網寒冬」と言われていた中国インターネット業界への逆風は消え去ったが、そうはいっても人口の多い中国ではこうした企業の就職は極めて狭き門のまま。

レッドオーシャンの業界で起業しても競合が発生する。例えばタピオカミルクティー店を流行に乗って開店したところで1割しか生き残れないと言われている。

そんな中、まったく新しいサービスを提供し、ブルーオーシャンの中で成長する若者もいる。スタートアップにも満たない個人や小さな組織での起業だが、36kr(中国)の紹介記事を読む限り、新しい職業で顧客を増やし顧客の期待に応え日々仕事をする彼らは生き生きしている様子がうかがえる。

そこで36krの記事から、変わった新職業を3つ紹介したい。いずれも個人が始めたもので、大企業がシステム化してないものであり、日本の個人でも同様のことが可能かもしれない。何か参考になれば幸いだ。

■監督師

監督師はスケジュールを第三者の手で監督するという仕事だ。スマートフォンにもパソコンにもスケジューラーはあるが、敢えて監督師とスケジュールを共有して、スケジューラーになるというものだ。温州大学の大学生がはじめた仕事で、ECサイトのタオバオで3店舗を運営し月商10万元まで売上を伸ばしている。

タオバオの店舗では、月133元の「普通監督」と月400元の「強力監督」の2つの商品が用意されている。いずれのコースでもサービス購入者は今日1日の予定を監督師に伝える。例えば、何時からテスト対策をする、運動をする、起きる、犬の散歩をする、といったことだ。普通監督はお昼と夜と睡眠前に予定状況をチェックするというもので、強力監督はこれに加え、顧客が指定した何かをやるべき時間に音声と映像で促し、さらに毎日音声報告をさせる。

顧客は園児から高齢者まで幅広く、人とオンラインで接するので、様々な年齢、様々な人とコミュニケーションできる能力が求められる。顧客は常に監督師の話を聞き入れるというわけでもなく、ときにうまくいかずに不満を爆発した顧客と接する必要もある。

1ヶ月利用しているとだいたい顧客の習慣が改善して、既存顧客が離れていくものの、それでも新しい顧客が次々に入ってくることから、販売額は月10万超、最高で1日4000元を超えるまでに至った。1人で全てを管理するのは無理なので、大学内で仕事のパートナーを募って、複数人体制で対応している。

監督師をはじめた大学生の余氏は、ゲームを深夜までやってしまうのでよく遅刻した。そこで友人に頼み、相互に時間を管理する関係になって習慣が改善。これをビジネスにしようと考えついたという。

■陪診師

医療現場にスマート化が進み、ミニプログラムやアプリから診療予約をしたり処方箋が買えるようになった。しかしスマートフォンやネットサービスを使いこなせない老人も多数いる。家庭に老人だけしかおらず若い家族のサポートが受けられない場合、自身で病院に足を運んで受診を待たなければならない。大病院は信頼されているものの、診療を受ける場合病院内をどう回れば希望の受診ができるのか正答を発見するのは難しい。また家族から離れ生活経験が浅い一人住まいの若者は、病気や体の異常がおきたとき、どこの病院に行くのがいいのかを知らない。

こうした問題を解決すべく、顧客の体調から正しい病院に一緒に行き、一番楽なルートで病院内をエスコートし、診察時に医者の話を一緒に聞くのが新職業「陪診師」だ。そのため顧客からの依頼を受けたら、最適な病院を探しどのルートでやっていくのが一番負担がかからないかを事前に調査をする。また後日オプション価格で薬の受け取りをすることも可能だ。

老人につきそう陪診師

サービス価格は代理で病院で並ぶサービスが39元、病院発行の検査レポート郵送代行と、代理で処方箋を貰いに行くのがそれぞれ49元、フルセットのサポートで168元だ。仕事や子育てで手が離せない高齢者の家族が顧客になるだけでなく、若者を中心に家族に迷惑をかけたくないので依頼するというケースも多い。

■助眠師

助眠師は安眠をサポートする職業だ。ハードワークの代名詞「996」という言葉が出て久しく、若者向けに安眠を目的とした音声コンテンツや動画コンテンツがあるが、それでもなお助眠師のニーズはあり、タオバオに助眠師による睡眠補助サービスを販売するショップがある。

値段は、30分、1時間、1週間、1ヶ月といった時間と、ランクが高い助眠師になればなるほど値段が高くなる助眠師ランク、それにテキストと音声メッセージなのか、通話を行うかで値段が変わる。例えば30分サービスする場合の値段は、レベルの最も低い助眠師がテキストと音声メッセージで対応する場合10元、最高級のレベルの助眠師が音声通話で対応する場合は100元となる。

助眠師が話すのは眠りに導く定番の物語などのシンプルなコンテンツで、これをゆっくりと落ち着いた感情を込めて話す。顧客に悩みがあって眠れない場合は話を聞いてあげて、脳内のもやっとしたことを消すことも助眠師の仕事だ。話を聞いてほしいニーズから夜通し話されることもある。もちろん対応時間だけ売上はあがる。

ホテルがよい睡眠を実現するために、助眠師のサポート付きで安眠プランを用意したケースも。今後中国ではホテルなど様々な場所へ助眠師の活躍が広がりそうだ。

ホテルと助眠師コラボサービス

さて今回3つの新職業を紹介したが、他にもペットブームを受けて迷子になったペットを探し出す「ペット専門探偵」や、盗撮機器がホテルや会議室や家にないかチェックする「盗撮カメラハンター」や、課外教育ニーズが高まる中で外国に留学した若者が外国での知見を教える家庭教師や、貧しい地域の城中村にフォーカスが当たる中で城中村をテーマにしたCGを作成しブロックチェーンでデジタル作品を販売するクリエイターなど、既存のテクノロジーではカバーできない様々な新職業が報じられている。

いずれもブームの中でそこから発生した職業であり、ブームのその恩恵に預かれない人へのフォローや、テクノロジーがカバーできない人へのサービスであり、人の温かさ、アナログさが加味されたものともいえる。テクノロジーが発展する中でブーム自身はレッドオーシャンではなく、その脇道にあるブルーオーシャンの市場を狙うのが起業のねらい目ではないか。

作者=山谷剛史

アジアITライター。1976年東京都出身。東京電機大学卒。システムエンジニアを経て、中国やアジアを専門とするITライターとなる。単著に『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』『中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立』などがある。

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