中国発物流ロボット「シリウス」を日本企業が続々と導入する理由

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

スタートアップ編集部お勧め記事注目記事SPONSORED

中国発物流ロボット「シリウス」を日本企業が続々と導入する理由

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

物流ロボットを扱う中国スタートアップ企業「シリウスロボティクス(Syrius Robotics)」は、中国国内ほか、日本や韓国、シンガポールでも快進撃を続けている。特に日本では、実績としてこれまでに120台のロボットが数カ所の倉庫で稼働している。

シリウスは、物流業務の効率化とコスト削減を抱える企業に向けて、AMR(Autonomous Mobile Robot=自律走行ロボット)とAIoT技術を活用したソリューションを提供する。AMRというのは、ガイドなしでの走行が可能で、障害物を自動的に回避し移動することのできるロボットだ。

ご存知の通り、日本は“日本流”の物流が倉庫も含め出来上がっていて、そのおかげで日々生活が滞りなくできている。中国企業のシリウスの搬送ロボットが導入されたということは、言いかえれば既に日本式で完成された物流システムに入り込み、DX化を進めたくなる魅力があるわけだ。

なぜ日本企業がシリウスの製品の導入に動いたのか。その理由と、物流ロボット業界の解説について同社創業者兼CEOの蒋超(Adam Jiang)氏に取材を行った。

シリウス社の創業者兼CEOの蒋超(Adam Jiang)氏

まず中国では数多くのスタートアップが搬送ロボットをリリースしている。特に新型コロナウイルス感染拡大以降、搬送ロボットを開発する企業が台頭し、医療現場、ホテル、レストランや倉庫など様々な場所に導入されている。

「搬送ロボット」と言われるが、ロボットとそうでないものとがある。前者はシリウスが扱うAMRであり、後者はAGV(Automatic Guided Vehicle=無人搬送車)と呼ばれるものだ。AGVは走行ルートをあらかじめ決めておき、それに沿って搬送するものだ。中国の一部のレストランでしばしば見かけるもので、目の前に人やほかのロボットなど障害物があると安全のために停止することが可能だ。一方AMRは周囲の環境をセンサーでリアルタイムに把握し、自ら最適なルートを考えて走行する。障害物がある場合は止まるだけでなく、回避して移動できる。

倉庫内の配置変更の際にもAGVとAMRは差が出る。AGVは走行ルートを再設定するために、磁気テープやQRコードなどの誘導体を引き直す一方、AMRは新しくなった配置の倉庫を一度ロボットで動かすことで空間をマッピングして把握する。

シリウスは現在、RaaS(Robot as a Service)業務の展開を強化し、同社のロボットを合弁会社のROBOCREWからレンタル(サブスクリプション)という形で提供している。「1台1か月で最低8万円で導入可能。新モデルではさらに安く提供できるようにしたい。この低価格は自社開発だからこそ実現した」と蒋氏は自信をもって語る。

数ある中国AMR企業の中でのシリウスの強みは開発力にある。

同社は、中国で初めてAMRのソフトウェア・ハードウェア及びクラウドサービス開発に注目している企業として、米テックメディア『The Information』の最も潜在的なスタートアップ企業「The 50 Most Promising Startups 2020」に選出された。

実際にAMRを構成する、センサービジョンモジュール「FlexVista」、ロボットOS「megacosmOS」、それにクラウドサービスプラットフォーム「FlexGalaxy」まで、ソフトウェア・ハードウェアともに開発をしている。シリウスはAMRについて、より様々な業界のニーズに対応できるよう、ソフトウェアの拡張性や、megacomsOS用のローコード開発キットを目下開発しているところだという。

また現状ロボットの状態や移動データについて、顧客はモニターやタブレットで確認ができるが、将来的にはこれに加え、蓄積した移動データをもとに、顧客に効率が改善できる業務の流れをAIで分析し提案できるようにしたいそうだ。

日本の顧客に同社のAMRを説明している

日本の倉庫業者が同社の製品に関心を持った場合、シリウスは素早く倉庫にロボットを搬入し設定を行い、PoC(実証実験)が開始できる。設定は「1500平米までなら3~5時間で設定ができる(蒋氏)」とのことで、ロボットの倉庫内のマッピング作業が終わると稼働を開始。導入した結果、削減できる人件費と天秤にかけコストパフォーマンスを検討し、あるいは倉庫スタッフからの「導入で楽になった」などの反応を聞いて、導入の可否を決める。このように、気になったらスピーディーに実証実験出来て検討できるのが同社サービスの魅力だ。ちなみにこの時に受ける質問が、中国にデータが送られないかという質問だそうで、蒋CEOは「倉庫内のマッピングを一時的に保管するだけで、荷物情報など個人情報は一切記憶も注目もしないし、保管したデータは日本以外に持ち出さないのでご安心してほしい」と語る。

ソフトウェアを自身で開発しているので、既に倉庫に導入されている日本産のWMS(倉庫管理システム)やOMS(注文管理システム)との連携も可能だ。既存のシステムから物流ロボットを動かすことができるわけだ。だからこそ既存のシステム化された倉庫にも連動し導入した実績がある。

日本の倉庫で稼働している様子

中国の業績が上がる背景として、蒋氏は日本と中国の倉庫環境の違いを挙げている。「日本の倉庫には既にシステムが導入されていて、そこに連動できることで製品価値を評価していただいております。一方中国で導入する倉庫はまだ何もないことが多く、そこにすぐに導入できるので評価されるのです」。

シリウスは先ごろ、TikTokの運営会社バイトダンス(字節跳動)からシリーズBで2000万ドル(約22億円)超を調達し、製品の開発や市場開拓を進めていくと発表した。バイトダンスはシリウスだけでなく複数の物流関連企業に投資を行っており、ライブコマースなどECを強化する中で出店企業支援のため、シリウスなどの物流テクノロジー企業に投資していると考えるのが自然だろう。

中国ロボット業界全般として半導体不足が懸念されるが、蒋氏は「影響はある。だがロボット業界への注文量は少ないため、半導体不足で困っている状態ではない」とコメントする。

中国企業ながら、既に出来上がった日本のToB市場で成功したのは、ハードウェアとソフトウェアの開発力、それに日本の特徴的な顧客ニーズをつかめた。日本市場で成功する同社に不足しているのは「説得力」。蒋氏によれば「日本の社会環境がよくわかり、お客様に魅力的な数字が出せて説明できる人材を募集するのが急務」しているそうだ。

(文・山谷剛史)

36Kr Japanで提供している記事以外に、スタートアップ企業や中国ビジネスのトレンドに関するニュース、レポート記事、企業データベースなど、有料コンテンツサービス「CONNECTO(コネクト)」を会員限定にお届けします。無料会員向けに公開している内容もあるので、ぜひご登録ください。

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録