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「ライチ500g1500円!予約なしだと1600円!欲しい人はチャットの名簿に書き込んでください!」
中国のメッセージアプリ「WeChat」でこんな一文が投稿されると、「500g買います」「私は2kg」と次々にコメントが投稿され、数時間後には10kg以上の予約が入った。
投稿したのは埼玉県富士見市で中華物産店「錦添(キムテン)アジア物産店」を営む田さん。
店舗がある場所は在日中国人が少ない住宅地で、一見すると経営が成り立つようには思えないが、マンゴーやスイカ、桃、北京ダック、エビなど中国人に人気が高い生鮮食品の入荷情報をオンラインでお知らせして“取り置き”するサービスで、同市外にもお得意様を抱えている。
「池袋や西川口はあえて避けた」
錦添アジア物産店の最寄り駅は東武東上線の鶴瀬駅、池袋から準急で約30分ほどの静かな住宅地だ。実は筆者の実家に近く、外国人が少ない土地柄を知っているだけに、同店が2020年1月にオープンしたときは、他人事ながら客が来るのか心配になった。商圏を富士見市に広げても、人口11万人(平成30年)に対して中国人はわずか1%の1100人(同)。同じ埼玉県内でもチャイナタウン化が進む西川口を擁する川口市は、人口60万人に対して中国人が2万3000人いる。中国人の規模、比率どちらをとっても、錦添アジア物産店は「ぽつんと中華食材店」状態と言っていい。
しかし田さんは、「池袋や西川口は中国人が多いがその分競合店も多い。中国人が少ない場所のほうが競争がない分生き残れる」とあえてこの場所を選んだ。
集客の武器はWeChatだ。オープン時の同店グループチャット参加者は約30人だったが、今は360人を超えた。
WeChatに店舗のグループチャットを開設し客と直接やり取りするのは、中華物産店や中華料理店の一般的な手法でもある。中華料理店の多くはグループチャットから予約でき、500人規模のグループも少なくない。
ただし一般的なやり方だからこそ、人気店になるには独自の魅力が必要だ。錦添アジア物産店のウリは、日本のスーパーや中国の他の物産館では手に入りにくい新鮮な果物や海産物。今の季節は、上海ガニも買うことができる。
果物や海産物など生鮮食品の売り上げが、1日の半分を占める日もあるというが、田さんによると、それだけでは利益にはなりにくいという。
「新鮮なライチやマンゴー、ドラゴンフルーツを売っているお店は埼玉に少ないでしょ? 果物を取りに来たお客さんが、ついでにインスタント麺や冷凍水餃子を買ってくれる。果物は広告で、保存食で利益を確保しているの」(田さん)
大宮市から車で30~40分かけてドラゴンフルーツを買いに来た中国人客は、「フルーツが新鮮なお店はなかなかないし、老板(中国語でオーナーの意味)の人柄がいいから買いに来るんですよ」と話していた。田さんとの楽しいおしゃべりも、この店にわざわざ来る理由だという。
筆者もすぐに田さんと顔見知りになり、おまけをしてもらったり会話をしているうちに、常連になってしまった。今の住まいは“中華の聖地”である池袋に近いにもかかわらず、田さんに会いに定期的に通っている。
中国人が少ないエリアでも、オンラインで人を呼び込みわざわざ来てもらう仕組みをつくり、会員制のような店舗に育っているのだと分かった。
この連載では、人気ブログ「東京で中華を食らう」を運営する阿生さんが、日本の中華料理店事情をビジネス面から紹介します。
阿生:東京で中華を食べ歩く26歳会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。Twitter:iam_asheng
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