セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
新型コロナウイルス変異型のオミクロン株が猛威を振るい、北京冬季五輪開催地の中国で緊張が高まっている。衛生当局は市民に注意を呼び掛けるため感染者の行動履歴を詳細に公表しているが、ある男性感染者の行動履歴が発表されると、「中国で最もつらい境遇の感染者」と同情が広がり、さらに知人の証言などによって感染者の壮絶な体験が明らかになった。
五輪開催地の北京では今年に入ってオミクロン株の市中感染が起き、緊張が走っている。そして18日には、市内でデルタ株の無症状感染者も確認された。
中国当局は感染者全員の過去2週間の行動履歴を詳細に発表しており、北京でデルタ株に感染した出稼ぎ労働者の岳さん(44)も元旦から18日までの行動が公開された。
岳さんは18日間で28カ所の現場を渡り歩き、インテリア建材や建材ごみの運搬を行っていた。現場の多くは劇場や高級ホテル、高級住宅街で、岳さんは主に深夜から明け方にかけて働き、1日に3つの現場をこなした日もあった。
岳さんの行動履歴は北京の格差社会を象徴しており、SNSには岳さんの回復を願う声があふれた。その後、岳さんや故郷の村人らがメディアの取材に答えたことで、岳さんが北京に出稼ぎに来た悲しい理由も明らかになった。
国営テレビも「お父さんがコロナに。家に帰って」と呼びかけ
山東省威海市にある村落の漁船乗組員だった岳さんは、2020年8月12に当時19歳の長男が失踪したことを機に、各地で日雇い労働をしながら、長男を探す生活に転じた。山東省、河南省、河北省、天津市での捜索を経て、北京にやってきたという。
岳さんによると、長男は職場で体調を崩し、上司にバス停まで送ってもらった後に行方が分からなくなった。漁に出ていた岳さんは知らせを聞いて慌てて戻り、地元の交番に捜索願を出した。しかし長男が成人(中国の成人年齢は18歳)であることを理由に、GPSの追跡などを断られ、それから数日経つと携帯電話の呼び出し音も鳴らなくなった。
3カ月経って警察は捜査に着手したが手がかりはなく、岳さんは上級の警察署に相談しながら、長男を探し続けているという。
岳さんの故郷の村長や村人によると、岳さんの同居の父は寝たきり、母も体調が悪く、妻は働きながら中学生の次男を育てている。長男の失踪は村人皆が知っており、心配しているとの話だった。
長男の失踪の話が伝わると、岳さんは「中国で最もつらい境遇にある感染者」として国中の同情を集め、国営テレビのアナウンサーも番組で「お父さんは1日に3つの日雇い仕事を掛け持ちして、あなたを探してコロナにかかってしまった。早く家に帰って!」と呼びかけた。
岳さんの次男も20日にSNSのウェイボ(微博)で、「父のことが報じられ、私たち家族のお財布アプリにお金をくれる人たちがいる。お金はいらないので、兄を探すのを手伝ってほしい」「母は字が読めないので、自分が代筆している」と投稿。中国のネット民が長男の写真を拡散して手がかりを求め、同時に警察への批判が高まることになった。
21日は国営通信社の新華社通信が岳さんの件を「警察が庶民の苦しみに寄り添わず、訴えを放置しているのが事実ならば、到底許されない」と社説で論じた。
岳さん一家への同情と警察批判がやまない中、地元の警察は同日夕方、「長男の死亡は既に確認済み」との調査結果を発表。警察によると、長男が失踪した当日に岳さんの妻から相談を受け、監視カメラや聞き込みなどで捜索したものの、有力な情報は得られなかった。失踪から2週間後、池で腐敗した遺体が見つかり、DNA鑑定で長男と判明したが、岳さん夫婦は結果を受け入れず、その後も警察の上級部門に捜索を要求し続けているという。
警察は「長男の遺体」を火葬せず保管していると説明し、対応に問題がなかったと主張している。一方、SNSでは警察の説明に理解を示す意見と、「相談を受けてすぐGPSを調べていれば長男は死ななかったのでは」となお警察を批判する意見に二分され、論争が続いている。
(文・浦上早苗、画像はいずれもWeiboより)
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録