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テンセント(騰訊)の最高探索責任者(CXO)デイビッド・ウォーラーステイン(David Wallerstein)氏は生粋のカリフォルニア人だが、中国名を持ち流ちょうな北京語を話す。
今年4月初め、ウォーラーステイン氏は米国ニューヨークへ飛んだ。テンセントの商談を行うためではなく、国連と共同で開催するフォーラムのためだ。フォーラムで論じるのは、テクノロジーを活用して、いかに地球の危機的状況を解決するかということ。地球規模で解決する必要のある食料、エネルギー、水の問題は「FEW(Food、Energy、Water)」と呼ばれる。
壁にぶつかりながらも前進
2001年、南アフリカのメディアグループ「Naspers」がテンセントに3400万ドル(約37億3000万円)もの投資をした際、重要な役割を担ったウォーラーステイン氏の名が広く業界に知られるようになった。その1年後に同氏はテンセントに移り、テンセントの海外投資チームを率いるようになった。
2014年ごろから、ウォーラーステイン氏はガンや気候など、人類の生存に関わる問題に関心を向け始め、膨大な専門書を読んだり専門家と交流したりするようになった。しかし自分の友人や提携パートナーを含め、多くの人がFEWの重要性を理解していないという現実を痛感する。
FEWの切実さを各界の著名人に知ってもらってこそ、人々の関心が向き、企業も解決策を模索するのではないか。ウォーラーステイン氏はこれが自分の使命だと悟った。
2017年、ウォーラーステイン氏は地球が直面している課題について国連と頻繁に連絡を取るようになった。その中で分かったのは、国連は地球の現状をはっきり理解しているものの、投資環境や起業エコシステム、テクノロジーに関しては専門外ということだった。
「テンセントはこれまでに数百社の企業に投資しており、テクノロジーや起業エコシステムはテンセントが最も得意とする分野だ。」ウォーラーステイン氏の夢がようやく実現しようとしていた。
ビジネスではなく未来への投資
「本気かい?儲かるのか?」
初めの頃、身近な人にFEWプロジェクトを紹介すると、決まって怪訝そうな顔をされた。人類の資源を守る方法について意気込んで話しているのに、相手はお金の話ばかりするのだ。
特に起業家たちは、収益の見込みが不確かなFEWに対し極めて慎重だ。ベンチャー企業が生き残るにはリスクを減らし、短期間で儲けを出す必要があるからだ。
「テンセントはベンチャー企業が最新テクノロジーを活用したソリューションを模索するよう後押しし、真っ先に解決すべき問題が何かを世界に知ってもらうべきだ。」ウォーラーステイン氏によれば、テンセントが最新テクノロジーを支援する1つの方法は投資であり、ガンや水、農業など人気のない産業も対象とすべきだという。
実際、テンセントは海外でガン治療に関わるベンチャー企業3~4社に出資しているほか、2013年には世界初の医療支援クラウドファンディング・プラットフォーム「Watsi」に出資した。
とはいえ、企業である以上、ビジネスを避けて通るわけにはいかないテンセントに対し、ウォーラーステイン氏は投資収益を持ち出すこともある。
「もしかするとFEW分野は、テンセントの次なる『爆発的ヒット事業』を生み出すかも知れない。」ウォーラーステイン氏は笑いながらそう語る。幹部らはこれが自社の事業形態の多元化につながることに気づき始めた。そしてメイン事業のエコシステムで十分に投資した後は、「テクノロジーで地球を救う」という当初の夢に立ち返るべきだと。
同社CEOの馬化騰(ポニー・マー)氏はWeChatのモーメンツに次のような投稿をしている。「医療とFEWへのAI応用は単なるビジネスではない。人類が直面している地球規模の課題であり、それに挑戦する意義は計り知れないほど大きい。」
テンセント自身も積極的に身を投じている。2017年に同社初の医療画像AI「騰訊覓影(MIYING)」をリリース、「命を救うAI」を全面に打ち出して、AI医療画像分析やAI診療補助エンジンで100万人を超える患者にサービスを提供してきた。
農業やエネルギー分野でもAIの活用が進んでいる。2018年にテンセントのAI ラボがオランダ・ワーヘニンゲン大学主催の「自律運転温室チャレンジ(Autonomous Greenhouse Challenge)」に参加し、「AI戦略部門」で1位、総合2位を獲得した。
ウォーラーステイン氏率いる投資チームは、日常生活を改善し地球への負担を減らすことで、人類の未来に対して大きな投資を行っているのだ。
(翻訳・畠中裕子)
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