米中貿易摩擦――東南アジアは中国製造業の受け皿となるか

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タイのイースタンシーボード工業団地でもベトナムのロンジャン工業団地でも、ここ数年多くの中国企業を見かけるようになった。これらの企業は木製家具やケーブル、小型家電製品などを製造しており、安価な人件費や土地代、原材料調達コストなどを目的として、多くの中国企業が次々と東南アジアに工場を建設してきた。

2018年、米中貿易摩擦が世界の貿易、経済における大きな不確定要素となった。それを受け、さらに多くの中国企業が貿易障壁を回避するために東南アジアにやってきたのだ。

さあ、東南アジアで工場建設を

「本格的に海外で工場を建設し始めたのは昨年3月だ。米中貿易摩擦が始まってすぐに、今回の貿易戦争が収束しても、米国は絶えず新しい貿易障壁を設けるだろうと判断し、そのリスクを避けるためにタイに工場を建設した」。ベッドマットレスメーカー大手「喜臨門(Sleemon)」の国際事業センター責任者を務める張秀飛氏はこのように語った。

同社はA株上場企業の寝具専門メーカーだ。2017年の売上は31億8700万元(約510億円)。昨年、多くの中国企業が国外で工場建設を行ったが喜臨門はその代表的な存在といえよう。これらの企業は米国から大量の注文を受けており、貿易規制リストに掲載されるということは10%もしくはそれ以上の税金が上乗せされることを意味する。今回の貿易摩擦の影響だけでなく、米国の反ダンピング措置も脅威になっていた。

同社が手がけるマットレスも一度、米中貿易摩擦での制裁リストに掲載されたことがある。米国の貿易政策において、東南アジアの多くの国は市場経済国とみなされているため、同社のような中国メーカーにとって東南アジアでの工場建設は、貿易障壁を回避する最良の方法だ。

同社は米中貿易摩擦が問題になってすぐにタイ、マレーシア、カンボジア、ベトナム、インドネシアを視察し、最終的に約1000万ドル(約11億円)を投じてタイに新工場を建設した。「全体的に見ると、各国ごとにメリットとデメリットがある」と張氏は語る。カンボジアは人件費と土地代が最も安いが、政治的リスクがある。ベトナムはサプライチェーンが最も整備されているが、中国企業が多すぎるため、米国の次なる反ダンピング措置の対象になる可能性が最も高い。

タイは米国から市場経済国とみなされており、貿易障壁が設けられる可能性は最も低い。マレーシアはタイに比べて一人当たりのGDPが40%高いため、各種コストも最も高くなる。インドネシアの最大のメリットは人口の多さだが、短期的に見るとインフラ、特に交通が十分に整備されておらず、理想的な選択とはいえない。

「東南アジアに工場を建設するのは、人件費と土地のコストが低いからではない。貿易障壁を回避できるほか、現地に新しいニーズもあるからだ」と張氏は語る。

コストだけを考慮した場合、サプライチェーンと従業員の効率性が低い東南アジアが中国より割安になるとは限らない。

張氏は「東南アジアに工場を建設する際に、現地の人件費や土地代の安さだけを考慮するのでは不十分。現地に工場を建設するということは長期的な投資であり、将来的な発展の見込みを確認してから判断しなければならない」と話す。

今では多くの欧米大手ブランドも東南アジアの成長を重視し始めている。例えばインドネシアの人口構成のうち、50%近くが30歳以下の若者だ。都市化率は20%を超えており、GDP成長率も5%を超えている。かなりフレッシュな市場だと言えよう。

家具販売で世界最大手のイケア(スウェーデン)は、すでにマレーシアとタイに進出済みであり、2020年にはフィリピンの首都マニラに世界最大の店舗を開店予定だ。ファストファッション大手のZARAやH&M、ユニクロなども2016年から東南アジアに続々と出店している。

東南アジア5か国のGDP成長率(出典:Wind資訊、智氪分析)

東南アジアは中国産業の受け入れ先となり得るのか

中国企業による海外での工場建設という近年の流れを受け、東南アジア諸国は中国産業の受け入れ先となり得るのかがよく議論となる。

「天風証券(TF SECURITIES)」はこれらの国は中国からの大量注文や生産拠点の移転を受け入れる条件がまだ整っていないと指摘。中でもインドネシア、タイ、ベトナムは労働力の面で強みがあるが、短期的には生産設備の点で不足がある。マレーシアは工業化の主要プロセスは完了しているが、将来の動向は景気循環の波にかかっているとの見方を示した。

もちろん、東南アジアにおいて投資家が最も重視するのは人口構造である。労働力の供給は製造業の初期の発展において決定的な要因となる。

インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンは5か国とも優良な人口ボーナスがあり、総じて、東南アジアは各国とも潜在的な労働力を有していると言える。

東南アジア5カ国の生産年齢人口はいずれも60%を超え、タイでは70%を越えている。

天風証券は米中貿易摩擦が長期化した場合、中国の製造業は東南アジアに流出するが、もしこの動きが短期的かつ集中的に発生すると、現地の人件費や土地、原材料等の値上がりを引き起こし、生産設備の不足によって納期が遅れたり、品質が確保できなくなったりする事態になると予測。そのため短期的には、東南アジアは製造業の中でもローエンドの部分しか受け入れられないとの見通しを示した。

あるベンチャー投資家は、ソーシャルEC「拼多多(Pinduoduo)」のような製造業への依存度が極めて高いビジネスモデルの場合、中国以外で成功する可能性はほぼないとの見方を示した。ここまで成熟したサプライチェーンがあるのは中国だけで、かつそのカギとなっているのは中国自身の市場規模だからだ。そのため、東南アジアでの工場建設は人件費や土地のコスト引き下げを目的にするだけではなく、現地での売上予想に基づいて行うことが不可欠であり、それでこそ成功が見込めるとしている。
(翻訳・山口幸子)

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