変革が迫られる職業教育、政府も本腰で支援へ

36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

日本最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア。日本経済新聞社とパートナーシップ提携。デジタル化で先行する中国の「今」から日本の未来を読み取ろう。

ビジネス注目記事

変革が迫られる職業教育、政府も本腰で支援へ

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

続きを読む

社会の急激な変化に伴う需要を受け、中国では新たな職業が続々と現われている。これに付随して、既存の職業教育にも変化が求められている。

今年2月、中国国務院は「国家職業教育改革実施方案」を発表、各分野に職業教育の再構築を促すとともに、大規模にその支援を行っていくとした。

この動きは大学教育にも波及。3月には教育部が、国内の大学で新たに2072の学部を新設し、同時に416学部を廃止すると発表した。続く4月には、人力資源社会保障部、市場監督管理総局、統計局が新たな職業として13の職種を定義した。AI、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、IoT関連などの技術職が多くを占める。

一連の政策は、既存の職業、あるいは既存の教育体制では社会の需要に応えきれなくなったことを意味する。今年は「職業教育改革元年」となるだろう。

労働力不足と職業教育の後れが起爆剤に

すでに「ルイスの転換点」を迎えた中国では労働力、とくに高度なスキルを持つ人材が不足し、構造的失業を招いている。中国政府が提唱する産業政策「中国製造2025(Made in China 2025)」では、製造業における十大重点分野で2025年までに3000万人規模の人材不足に見舞われると予想している。

この背後には、教育体制が旧態依然としているという問題がある。カリキュラムが整っていないことに加え、教師に実務経験がなく、教育内容と市場の現状に乖離が起こっているからだ。人材の需給にミスマッチが生じる中、国務院が今年になって打ち出した新政策は、教育市場にとって大きな後押しとなるだろう。

また、既存の学歴や資格にとらわれない新たな教育機関が誕生し、これからの時代に求められる総合的な能力などを育てる役割を担うことが期待される。

政策と投資市場の温度差

産学融合推進企業への支援策

国家職業教育改革実施方案では、産学融合に取り組む企業を多角的に支援すると明記されている。産学融合型企業と認定されると、金融・財務・土地などで政府の支援を受けられるほか、税制面でも優遇される。

「今回、政府は職業教育改革に本腰を入れたと言っていいだろう。今年は『新職業教育元年』となる」高等教育・職業教育関連サービスを手がける「慧科集団(Huikedu Group)」の陳瀅CSOはこう述べる。

ただし、産学融合を進めるには、最先端の技術や情報を持つ大手企業と教育機関の橋渡しをする存在が必要だ。常に利益を追い求める企業と、人材を育てる責任を担う教育機関では、描いているゴールが異なるからだ。

多くの企業が人材育成に前向きとはいえ、講師としての適任者をまるまる教育現場に投入するわけにはいかない。当然、派遣する人材も出入りが頻繁になる。さらに、教育機関側は企業との提携の経験が浅いため、スムーズな運営体制を築けない場合も多い。そこで、慧科集団のような第三者機関が産学の連携を支援する必要が生じる。

鈍い投資機関の反応

しかし、こうした支援策の後押しを受けても、投資機関の反応は薄い。
高等教育機関との連携は「B2G(対政府)」事業であり、企業側は教育リソースの開発にも携わらなければならない。また、教育リソースは地域属性の縛りも強く、地域をまたいだ事業拡大が難しい。

さらに、教育機関が提携企業を選別し、新カリキュラムを企画し、予算を確保し、開講するには2~3年単位の時間がかかる。一旦始動すれば安定した事業だが、「ハイリスク、ハイリターン」を是とするVCにはなじみにくいと言えるだろう。

新たな職業教育のあり方

産学融合が構造的失業問題の解決へ向かう一方、民間の職業教育機関は「一生学び続けたい」という労働者のニーズに応えている。

インターネットやビッグデータ、AIの発展に伴い、既存の産業は機械化が進み、多くの職務がAIで代替できるようになった。反面、プロダクトマネジメントやマーケティング、ニューリテール(新小売)などの分野では新たな業種が続々と誕生した。これに付随して、深層学習、自動運転、ブロックチェーンなどの新興テクノロジー分野で未来の人材を育てる必要が生じている。

オンライン大学を運営する「三節課(sanjieke.cn)」によると、中国の職業教育市場は9000億元(約14兆2600億円)規模に達しているという。前述の新職種を対象とした職業教育に限れば、300~400億元(約4800億~6300億円)規模と推算する。今後も年18~20%の速度で成長すれば、2025年には1000億元(約1兆5800億円)規模に到達すると見込まれる。

「従来型の職業に比べ、IT関連を中心とした職業は、職業が誕生してから人材需要が爆発期を迎えるまでの期間が短く、教育体制の構築が追い付かない。また、大学で育成した人材が社会に出る頃には、企業が求めるニーズをすでに満たしていないといった状況がますます深刻になっている。このギャップが埋められる職業教育機関に商機が訪れている」と述べるのは、「啓賦資本(QF Capital)」投資ディレクターの龍志成氏だ。

業界の進化とカリキュラム内容は同期できるか?

日進月歩で変化を遂げる商業活動に合わせ、職業教育の現場では、常にカリキュラムの内容をアップデートしていかなければならないが、そのスピードについていくのは難度が高い。反対に、これが実現できれば、その教育機関の中核的競争力となる。また、育成された人材が各企業の経営に直接関与し、業務指標を達成できれば、彼らを育成した教育機関の高評価につながる。

多くの新興産業が人材不足に悩むのと同様、人材を育成する職業教育機関でも、講師が不足している状況だ。前出の三節課では、同機関を卒業後、実際に関連の業種で就職し、優れた業績を上げた人材を兼任講師として呼び戻すシステムを採用している。

政府の支援策は、社会に対して職業教育の意義を問い直したとも言える。現代においては、職業教育は単なる技術研修ではなく、生涯にわたって持続可能な知識の蓄積であり、どんな変化にも対応できる応用力を育成する場でもある。生涯学習が当たり前の時代が到来したことは間違いない。
(翻訳・愛玉)

原文はこちら

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録

関連記事はこちら

関連キーワード

セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け

メールマガジンに登録