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今年5月、設立からわずか18カ月という最短記録でナスダック上場を果たした中国の新興コーヒーチェーン「瑞幸咖啡(luckin coffee)」を創業時から支えてきた人物がいる。瑞幸咖啡とほぼ同時期に設立されたPEファンド「大鉦資本(CENTURIUM CAPITAL)」の黎輝(デビッド・リー)CEOだ。
瑞幸咖啡は2018年の元旦に第1号店を開業すると、1年目に2000店、2年目に4500店を目標に掲げ、破竹の勢いで経営規模を拡大してきた。また、「2杯購入すると1杯無料サービス」といった大胆なキャンペーンに多額の資金を割いていることでも知られる。中国市場では外資のスターバックスを猛追する注目株で、開業当初からつねにその動向が話題の的となってきた。
こうした事業展開のシナリオを握るのが前述の黎輝氏と、瑞幸咖啡の非常勤取締役会長・陸正耀(チャールズ・ルー)氏の2人だ。今回のナスダック上場を含め、これまでに描いたシナリオはすべて確実に実現してきたという瑞幸咖啡は、2021年までに1万店の出店計画を掲げている。
黎氏は米PEウォーバーグ・ピンカス出身。複雑な課題の解決に長けた人物で、投資家に求められる資質を「リスク回避能力」と考えている。それぞれの企業に寄り添ったソリューションの提供を目指し、2017年に大鉦資本を設立した。「資金で変革をもたらす」をモットーに、出資先企業に対して大きな影響力を持つ。先日初めて応募を行った米ドル建てファンドでは約20億ドル(約2200億円)を集めている。
KKR(コールバーグ・クラビスロバーツ)のような投資ファンドが現在の中国に必要だと考える黎氏は、その課題に応える初の答えとして、瑞幸咖啡の立ち上げに関わった。そのシナリオの運び方と社会に巻き起こした論争、大鉦資本のミッションなどについて語ってもらった。
瑞幸咖啡のシナリオ
――瑞幸咖啡は「運営から上場まで、すべてにシナリオが用意された企業」と評されていますが。
「瑞幸咖啡の創業メンバーは過去に複数の起業経験がある。初出店までの1年半、我々は経営戦略から資金調達計画まで、綿密なスケジュールを練ってきた。その後は計画に沿って着実に一歩ずつ進んできたといえる」
――最初の店舗は2018年の元旦に開業しています。あなたが最初に瑞幸咖啡のプロジェクトに参加したのはいつでしょうか。
「2016年の後半だ。陸正耀氏とはマーケティング戦略、ブランド戦略、組織構造、資金調達計画そして上場計画といったコーヒー事業のあらゆるスキームについて話し合ってきた。また、開業までの1年半の間に、数百人のエンジニアからなるプラットフォームも構築した」
――考慮すべき項目が多い中、何がシナリオの軸になりましたか。
「技術的なプラットフォームだ。技術と運営システム全体を連動させるのに1年以上を費やした。その結果、スマートフォン1台で全国のどの店舗にもコーヒーを注文できるシステムが実現し、さらに、全受注データが自社のバックヤードに反映されるようになっている。瑞幸咖啡のサプライチェーンは、すべてこのデータを基に運営されている。新規店のオープン、メニューの選定、商品の補充などもすべてデータに依拠して決定している。多くの人は気づいていないが、データに基づく運営というのが瑞幸咖啡の本質だ」
――データを礎にすることで、どのような問題が解決しましたか。現在では多くのニューリテール企業が同様の運営を行っていますが。
「コスト構造を変え、コストを圧縮し、効率を大幅に引き上げたことだ。まずは出店場所に関する効率を改善した。既存の飲食企業は、立地の良い場所に大きな店舗を構えることで集客を図る。しかし、瑞幸咖啡はアプリで商品をオーダーするシステムのため、集客もアプリ経由だ。これで場所代のコストは大幅に省ける。蓄積した受注データを見れば、オーダーが集中する地域が見えてくるため、そのエリアに出店すればよい。高い家賃を払って大型商業施設や人の密集地に出店するより、効率的かつ低コストで済む」
「次に、瑞幸咖啡のデータシステムは、従来型の飲食企業が頭を悩ませてきた店舗単位のマネジメントも改善している。一般的に、各店の店長が抱えているタスクは多岐にわたる。そして、仕入れで判断を誤れば、売り切れや売れ残りが生じてしまう。瑞幸咖啡では、すべての意思決定がデータによって行われる。その意思決定を実行するのが店舗の役割だ。各店舗の運営効率を上げ、ロスを減らし、人件費も大幅に圧縮できる。テイクアウト専門の店舗なら、1店舗当たり2~3人のスタッフで十分で、彼らはコーヒーを淹れる業務のみに専念すればよい」
――開業1年半で3000店舗を達成できたのは、資金効率ではなく運営効率によるものでしょうか。
「資金効率は運営効率により導き出されるものだ。運営効率の悪い企業に出資しても、その資金が効率的に活用される可能性は低い。瑞幸咖啡は年末までに出店数4500店を目標としている。既存の小売業態では想像もできない数字だろう。あまりに性急で、事業が頓挫するのではとみる向きもある。しかし、瑞幸咖啡は店舗のみならず、1杯1杯のコーヒーに至るまで、すべてをシステム経由で直接的に管理している。出店の効率や的確さの精度が非常に高い。インターネットやテクノロジーを活用し、既存の事業スキームを覆したからこそ、これらを実現できている。運営効率はすなわち、技術効率なのだ」
――データは万能なのでしょうか。データを基盤とした多くのニューリテール企業が挫折していますが。
「実行力も、運営チームも企業ごとに異なる。瑞幸咖啡の経営陣は特別だ。経験とリソースを持ち合わせ、自らも多額の出資をしているメンバーたちだ。多くの人が瑞幸咖啡を『見境なく突っ走っている』と揶揄する。確かに猛スピードではあるが、実際は決して見境がないわけではない」
瑞幸咖啡の資金力
――「多額の出資」に言及されましたが、瑞幸咖啡がここまで急成長を遂げた大きな理由に、資金の力があったことは疑いようがないでしょう。多くの企業は瑞幸咖啡と同様、大胆な資金投入を行って事業を軌道に乗せ、そして散っていきました。
「例えば、(破産が噂される)シェアサイクル企業『ofo』と瑞幸咖啡には、大々的なクーポンキャンペーンを展開してきたという点で共通点があるが、両者は全く異なる存在だ。サプライチェーンの効率を上げることで浮いたコストを顧客に還元することが、いわゆる本当のクーポンである。このロジックが当てはまるのがコストコだ。コストを圧縮して有料会員に利益を還元している。瑞幸咖啡でも現在、1800万人の有料会員を抱えている」
「従来型のコーヒーチェーンは、コーヒー1杯のコストが21~22元(約330~350円)。うち10~11元(約160~170円)が店舗賃料で、5~6元(約80~95円)が人件費を含む運営コスト、残りの4元(約60円)が製造コストだ。瑞幸咖啡も製造コストは同じだが、店舗賃料と運営コストが大幅に下回り、1杯のコストは13元(約200円)に抑えている。この差額をそのまま利益にすることも可能だが、これは現在1800万人の有料会員数をこのまま維持するのか、あるいは8000万、1億まで伸ばすのかどうかによって決まる」
――スターバックスをベンチマークとするなら、瑞幸咖啡は一つのブランドといえますし、コストコをベンチマークとするなら一つのチャネルともいえます。
「それを明確に区別する必要はない。アマゾンは開業当時、書籍のみを取り扱って顧客数を伸ばし、その後はさまざまな商品を取り扱うようになった。すべてのニューリテール企業が同じ道をたどっていくことになると考える」
――設立18カ月で上場というのは、ナスダック史上最短の記録です。あなたのウォール街での経験が生きたのでしょうか。
「渡米したこと、しかもあの時期に渡米したことが大きかった。米国の機関投資家はこうした事業スキームに対する理解力がある。結果、瑞幸咖啡の上場時には発行株数を応募数が上回った。瑞幸咖啡がロードショーを行った5月8日、もう1社がロードショーを中止したと聞いている。米中貿易摩擦などがその背景にあるが、瑞幸咖啡は上場を断念することはなかった。勇気が試される決断だった」
――さまざまな誤解も生んでいる瑞幸咖啡ですが、最も不本意なものは。
「不本意な誤解などない。新しいものが世に出たとき、誰にも理解されないのが当たり前だからだ」
(翻訳・愛玉)
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