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米国政府が中国企業に対し、米国のクラウドコンピューティングサービス利用を制限する方針だと報じられているが、果たして中国のクラウドコンピューティングサービスにとってチャンスとなるだろうか。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、米バイデン政権は中国企業による米国企業のクラウドコンピューティングサービス利用に制限を設ける準備を進めているという。この新たな規制が施行されれば、アマゾンのAWS(アマゾンウェブサービス)やマイクロソフトのAzure(アジュール)など米国のクラウドコンピューティングサービスベンダーは、中国の顧客にサービスを提供する前に米国政府に許可を申請しなければならなくなる。中でもAzureは生成AI開発企業OpenAIに独占的にクラウドコンピューティングサービスを提供しており、今年3月には中国市場でもAzure OpenAI Serviceの提供をスタートしたばかりだ。
WSJの報道によると、今回の規制は事実上、バイデン政権が昨秋に実施した半導体輸出制限の「抜け道」をふさぐための措置だという。輸出規制の対象となった米NVIDIAの高性能GPU(画像処理装置)「A100」 などを購入しなくても、中国のAI企業はクラウドコンピューティングサービスを通じて高い演算能力を利用でき、実際にはこの規制を回避することができているからだ。
WSJの報道によると、米国の当局関係者や議員らはさらに、アリババやテンセントなど中国のクラウドコンピューティングサービスベンダーに対して米国での運営を制限する措置を検討中だ。
中国のAI関連企業やクラウドサービスのうち、新規制の制限を受けることになるのは具体的にどの分野なのか。報道では規制の詳細を明らかにしていないが、米商務省が向こう数週間以内に新規制を公表する見通しだとしている。
GPUは加熱する大規模言語モデル分野への入場券であり、競争力の鍵を握る要素だ。中国のAI企業「Megvii Technology(曠視科技)」の印奇CEOは過去に経済メディア財新の取材を受けた際、Open AIのGPTのような大規模言語モデルを構築するにはNVIDIAのA100が少なくとも1万枚必要だが、現段階でモデルのトレーニングに使えるA100の保有数は中国全体でわずか4万枚しかないと明かしている。米商務省は昨年10月に「輸出管理規則」を施行し、中国の半導体メーカーに対して高性能チップやその製造設備の輸出を禁止しているが、NVIDIAは対応措置として中国市場向けに仕様をダウングレードしたA800やH800を提供してきた。中国の大手企業はこれをこぞって購入しており、中国の経済メディア晚点の報道によると、バイトダンス(字節跳動)は今年、10億ドル(約1400億円)分以上のGPUをNVIDIAに発注したほか、別の大手企業も10億元(約200億円)分以上を発注したという。
大量のGPUを購入するだけの資力がない企業にとっては、高性能演算が可能なクラウドプラットフォームを利用することが選択肢となる。NVIDIAは今年3月、前出のAzureやグーグルの「Google Cloud Platform」、オラクルの「OCI(オラクル・クラウド・インフラストラクチャー)」などのプラットフォームと提携するクラウドサービス「DGX Cloud」を月額3万6999ドル(約530万円)でリリースしている。同社のジェンスン・フアンCEOはメディアの取材に対し、クラウドサービスは中国のサービスベンダーと協力して提供するとしている。「我々は中国向けに特別にカスタマイズしたGPU『Ampere』や『Hopper』を提供できる。アリババやテンセント、バイドゥのような企業がこれをベースにトップクラスのシステムサービスを提供し、中国のスタートアップ企業に独自の大規模言語モデルを開発する機会をもたらすものと信じている」と述べている。
中国紙・環球時報の電子版は海外メディアの報道を引用し、米商務省は早ければ8月初めにも、NVIDIAなどのチップメーカーが事前許可なく中国やその他の関連国にチップを輸出することを禁じる可能性があると報じた。禁輸対象にはNVIDIAのA800も含まれる懸念がある。これらが事実であれば、現在の大規模言語モデルブームは深刻な演算力不足に直面することになる。
米国のクラウドコンピューティングサービスを利用するその他の分野の企業が影響を被るかはまだ不透明だが、そもそもAIに関する事業を一切手がけていない企業自体が少数派だ。市場調査会社IDCのデータによると、2022年下半期、中国のパブリッククラウドサービス市場ではアマゾンがシェア7.9%で5位だった。また、中国企業が利用する海外パブリッククラウドのIaaSリソース(中国国内での利用量を計算)では、およそ8割を占めるのがアマゾンという統計結果が出ている。それでも中国のクラウドコンピューティングサービスベンダーにとっては、海外サービスに取って代わるチャンスかもしれない。
(翻訳・山下にか)
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