鹿島、シンガポールでイノベーションイベントを開催 スタートアップとの連携で業界革新を促進

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ゼネコン大手の鹿島建設が8月に開業したシンガポール新社屋「The GEAR」で、初のイベントとなる「Future City Festival(フューチャー・シティ・フェスティバル)」が開かれた。建設分野のオピニオンリーダーやクリエイター、起業家らが一堂に集まり、建設業界の変革と進化を促進する可能性と方法について意見を交わした。

シンガポール経済開発庁(EDB)のマネージン・ディレクター、ジャクリーン・ポー(Jacqueline Poh)氏による基調講演でイベントは幕を開けた。ポー氏は、シンガポール政府のイノベーションへの取り組みを強調し、起業家を支援するために提供できるリソースを紹介した。アクセラレーターやベンチャーキャピタルといったリソースは、革新的な事業を育成する上で重要な役割を果たすという。

ポー氏は「今回のイベントを通じて建設分野に起業家精神の風を吹き込み、シンガポールのイノベーション中心の成長と調和させたい。よりスマートで持続可能な都市構想を実現するためには、最良のアイデアを現実に落とし込むことが重要になる」と述べた。

シンガポール経済開発庁(EDB)のマネージング・ディレクター、ジャクリーン・ポー氏(写真提供:Kajima Development)

スタートアップ企業と連携したイノベーションの促進

Kajima Developmentのイノベーション部門責任者、ルーク・ウー(Luke Wu)氏は、「The GEAR」の重要性について説明した。同施設は6階建て、延床面積1万3000平方メートルの施設で、鹿島のアジア本社、同社初の海外R&Dセンターおよびオープンイノベーションハブの3つの機能を併せ持ち、オープンイノベーションセンターとしての役割を果たす。ウー氏は、業界関係者やオピニオンリーダーらが常にアイデアを交換し合い、スタートアップエコシステムに参加する場にしていきたいと強調した。

鹿島は、国際的なスタートアップ支援機関「Rainmaking」のアジア太平洋(APAC)部門と連携し、革新的な建築環境ソリューションを開発するスタートアップと起業家の育成を目的とする支援プログラムを進めている。ウー氏は、同プログラムに参加するシンガポールのスタートアップ8社を紹介した。

Kajima Developmentのイノベーション部門で責任者を務めるルーク・ウー氏(写真提供:Kajima Development)

注目のスタートアップ「BetterData」は、さまざまな国・地域のプライバシー保護法に準拠した形で合成データを生成し、企業が安全にデータを使用・分析・共有できるようサポートする。合成データの活用を進める革新的なソリューションが評価され、東京都主催の「東京金融賞2022(Tokyo Financial Award 2022)」で金融部門賞の2位に選ばれた実績もある。

BetterDataの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のウザイア・ジャベイド(Uzair Javaid)氏は「堅牢なAIモデルを構築して成果を得るためには、質の高いデータが重要になる。鹿島の事業部門から貴重なデータへのアクセスを許可してもらうことで、有意義なユースケースの開発と具体的なビジネス価値の創造を促進できる。今後も緊密な協力を進めていきたい」と鹿島との協業に高い意欲を見せた。

「Betterdata」のウザイア・ジャベイド共同創業者兼CEO(写真提供:Kajima Development)

「ConcreteAI」も関心が集まるスタートアップの1社だ。同社のソリューションは、施工中のコンクリートの強度などをリアルタイムでモニタリングし、工期の短縮や資源の有効利用を実現する。

同社の共同創業者で最高執行責任者(COO)のアイザック・シオウ(Isaac Siow)氏はプログラムに参加した理由について、「このプログラムを通じ、同じ志を持つ人々とつながるチャンスが得られる。私たちは課題を共有しつつ、貴重なリソースにアクセスできる。建設分野で活躍する多くの方の知見を得ることも可能だ」と述べた。

「ConcreteAI」のアイザック・シオウ共同創業者兼COO(写真提供:Kajima Development)

クリーンエネルギー転換の複雑さ

フューチャー・シティ・フェスティバルでは、都市環境内でのクリーンエネルギーへの移行に焦点を当て、「気候変動に強い未来の都市建設」と題したパネルディスカッションも開かれた。進みつつあるエネルギー変革に交通システムやエネルギー網などの都市インフラを適応させることの複雑さが主な議題となった。

建築テック企業「Airsquire」CEOのカイル・タン(Kyle Tan)氏は、持続可能なエンジニアリングの進化についての考え方を共有した。「この分野のエンジニアはこれまでよりも難しい課題に直面している。ベンチャーキャピタル(VC)などは、より効果的かつコスト効率の高い製品やサービスに投資する傾向がある。持続可能な世界で理想的とされるプロダクトは、従来のプロダクト以上の性能を発揮し、できれば従来と同じかそれよりも低い価格で提供する必要があるだろう」と述べた。

タン氏はまた、消費者が環境に配慮し、持続可能な製品を支持する強い意欲を示すようになってはいるが、現実的には依然として制約が存在するとの見方を示した。

クロスボーダーVC「Wavemaker Partners」のマネージングパートナー、ポール・サントス(Paul Santos)氏は、インフラに関する課題で最初から価値を生み出すには、当事者のインセンティブを調整することが重要だと指摘。「一例として、太陽光パネルの普及が挙げられる。全ての屋根に太陽光パネルが設置されていないのは、面倒だと思われることが多いからだ。しかし、建物を新築または改修する際に太陽光パネルの設置を組み込めば、消費者が受け入れやすくなることが分かった。今後も積極的なマインドセットに努めれば、新たな機会を発見し続けられると確信している」と述べた。

サントス氏は、独自のソリューションを急いで披露するのではなく、目の前の問題を分析し理解することに時間をかけるよう起業家に推奨。「起業家は問題理解に1、2分しか費やさず、すぐに自社のソリューションを熱心に提案し始める。しかし、もしあなたがこのアプローチを逆転させ、世界の見方が他とどう違うかを明確に説明できれば、ソリューションはどんどん売れていくだろう」と呼びかけた。

パネルディスカッションの様子。左から順にシンガポールマネジメント大学のウィンストン・チャオ准教授、「Airsquire」のカイル・タンCEO、「Wavemaker Partners」マネージングパートナーのポール・サントス氏、鹿島の越島啓介副社長(写真提供:Kajima Development)

リー・クアンユー・グローバル・ビジネスプランコンペティション

フューチャー・シティ・フェスティバルでは、シンガポールマネジメント大学(SMU)が主催する「リー・クアンユー・グローバル・ビジネスプランコンペティション(LKYGBPC)」の関連イベントも開かれた。鹿島はLKYGBPCのプラチナパートナーとなっている。

会場では、「LKYGBPC Kajima Innovation Award」の受賞を目指し、最終候補に残った有力スタートアップ4社がプレゼンテーションを行った。Kajima Innovation Award賞金は合計10万シンガポールドル(約1000万円)。参加したスタートアップ4社は以下の通り。

Active Surfaces:柔軟な薄膜ソーラーモジュールの開発に注力。あらゆるタイプの表面で太陽エネルギーを利用できるようにすることを目指す。

BioWerkz:有機廃棄物と天然由来のバインダーから作られたバイオベースを用い、資源効率の高いカーボンネガティブな材料「NEWood」を開発。

EmerStat:急速な凝血を可能にし、出血を減少させ感染を防ぐ超撥水性止血材料を開発。

Magorium:プラスチック廃棄物を持続可能な道路建設材料「NEWBitumen」にリサイクルする革新的なソリューションを提供。 

「BioWerkz」が開発した「NEWood」のサンプルをチェックするウィンストン・チャオ准教授(写真提供:Kajima Development)

鹿島のフューチャー・シティ・フェスティバルは、建設環境におけるイノベーションの促進と持続可能な社会の実現に向けて重要な一歩を示した。そのグローバルなアプローチと国際協力への取り組みを通じ、同社は都市開発の未来を形作る先導的な役割を果たし続ける。

(翻訳・編集:36Kr Japan編集部・田村広子)

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