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中国電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)が発注した初の自動車運搬船(RORO船)「BYD EXPLORER NO.1」が1月31日、同社のEVを満載し、欧州に向けて初出航した。中国の自動車メーカーが国際的な海上輸送市場に挑む新たな取り組みの第一歩となる。
この動きの背景には、中国の自動車輸出台数の増加が続く一方で、国際輸送費が高止まりしているという事実がある。過去3年間で中国の自動車輸出は急激に増加した。新型コロナウイルスの世界的流行で自動車の供給が不足したことに加え、米テスラが中国での生産を始めたことが主な理由だ。中国の自動車輸出台数は、2020年の108万2000台から23年には491万台へと増加。中国は日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となった。
BYDの2023年の輸出台数は24万台余り。11月時点の輸出先は27カ国で、オーストラリア、タイ、ブラジル、イスラエルへの輸出が1万〜3万台と比較的多かった。
自動車の国際輸送の増加は、輸送力不足と輸送費の急騰を引き起こした。自動車6500台を積載できる運搬船の1年間のリース料は、以前は1日あたり約2万ドル(約300万円)だったが、2021年から急速に上昇していった。英国の海運調査会社VesselsValueによると、現在は1日あたり12万3500ドル(約1850万円)と過去最高の水準に達している。
この状況を受け、中国の自動車メーカーは自前の輸送船団を組み、輸送費の軽減を図る方向で検討を始めた。真っ先に行動を起こしたのがBYDで、2022年末には6隻の建造を発注した。建造費は総額5億8400万ドル(約880億円)に上る。この6隻にリース船を加え、将来的には少なくとも8隻の自動車運搬船を運用する方針だという。自動車大手の奇瑞汽車(Chery Automobile)も23年初め、自動車運搬船3隻の建造を発注している。BYDと奇瑞汽車の参入以前、中国の自動車メーカーで運搬船を保有していたのは大手の上海汽車集団(SAIC)だけだった。同社は自動車物流子会社の上汽安吉物流(SAIC Anji Logistics)を設立している。
自動車メーカーが自前の船団を持つ利点は明らかだ。輸送費を抑えられるだけでなく、他社に輸出向けの海運サービスを提供して利益を得ることもできる。しかし、海運業は自動車の製造・販売業とは全く異なる。船団を運営する自動車メーカーは、自動車からの利益と船団からの利益とのバランスをとる必要があり、全く新しいチャレンジに臨むことになる。
中国の自動車メーカーは現在、主に日本や韓国、ノルウェーなどの自動車運搬船を利用しており、中国の船主が占める割合は少ない。しかし、BYDと奇瑞汽車の参入により、船主の割合が変化しつつある。とはいえ、新規参入した2社は、輸送する車両の供給元を確保するため、積載する車両を安定的に供給してくれる取引先を海外で見つける必要がある。
業界の共通認識では、新たに建造された船の納入と市場の需給バランスの変化に伴い、自動車運搬船の輸送費は2024から25年にかけて下落に転じる見通しだという。海運に参入した自動車メーカーは、短期間で大きな利益を追求すべきではなく、長期的な運営の準備をする必要がある。これら自動車メーカーは、専門的な分業体制などを通じ、船団の運営をめぐる新たなモデルを見つけ出すに違いない。
総合的に見ると、中国の自動車メーカーが船主になれば、大きなチャンスを手に入れると同時に課題にも直面するだろう。激しい競争が繰り広げられる国際市場で足元を固めるためには、新たに参入する海運業を学び、適応していく必要がある。
*2024年2月20日のレート(1ドル=約150円)で計算しています。
(翻訳・田村広子)
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