砂漠に住むアリから着想を得た「放射冷却技術」、省エネに貢献 自動車分野への応用も

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砂漠に住むアリから着想を得た「放射冷却技術」、省エネに貢献 自動車分野への応用も

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パッシブ(受動型)放射冷却技術を手がける香港発ベンチャー企業の「創冷科技(i2Cool)」がこのほど、シリーズAで中信資本(CITIC Capital)投資部門の信宸資本(Trustar Capital)や香港中華煤気(Towngas)などから1億元(約20億円)以上を調達した。資金は技術開発、製品ラインの拡大、海外市場の開拓に充てられる。

今回の資金調達はここ2年で4度目となる。これまでに香港城市大学(CityU)イノベーション・企業家プログラム「HK Tech 300」や香港科技園(HKSTP)インキュベーションの支援を受けている。

創冷科技は2021年6月に香港で設立され、広東省深圳市と香港の境界にある「深圳香港科技創新合作区」の深圳園区や、広東省広州市に合弁で作った年産数万トンの大規模生産ラインなどの事業拠点を構築している。パッシブ放射冷却技術に特化する同社は、主力製品として電気不要の放射冷却塗料「iPaint」と放射冷却フィルム「iFilm」を展開している。

2つの主力製品

気候変動とエネルギー危機は世界共通の課題だ。従来の空調システムによる冷却はオゾン層の破壊や温室効果、ヒートアイランド現象を加速する大きな原因の1つとなっている。香港の機電工程署(EMSD)によると、香港の空調システムから排出される二酸化炭素(CO2)は年間470万トンに上る。公表されているデータによると、冷却システムが消費する電力は世界の消費電力全体の約20%に達している上、冷却システムに伴うCO2排出量は2050年までに44億〜61億トンに増え、世界全体の10%以上を占めると予測されている。

気候変動に伴って冷却システムのエネルギー需要が世界的に増え続ける中、省エネルギーやカーボンニュートラルを実現するには新しい冷却技術の開発が鍵を握る。

環境保護につながる新技術のパッシブ放射冷却技術は、建物の熱負荷の大幅な低減、空調用電力の節約、設備とエネルギーの効率向上が可能で、グリーンビルディングやさまざまな産業、モビリティなどでの活用が見込まれている。

創冷科技は、アフリカのサハラ砂漠に生息するアリ(サハラギンアリ)の独特な体毛構造に製品開発の着想を得た。その体毛は灼熱の砂漠で体外から入る熱を遮断するだけでなく、体内の熱を波長8~13マイクロメートルの中赤外線に変えて放射することで、自身の身体を冷却している。放射された中赤外線は、地面などからの放射熱に対して大気中の気体による吸収が比較的少ない「大気の窓」を通って宇宙空間に届く。

「大気の窓」とは、大気による赤外線の吸収が少なく、透過率の高い波長帯域のこと

同社のiPaintは特殊な材料設計によって、可視光線と紫外線を反射させるだけでなく、中赤外線の放射率を95%以上に高め、サハラギンアリのように熱を宇宙空間へと送って、室温低下の冷却効果をもたらす。

電気不要の放射冷却技術

また、製品開発の初期段階で使われていた高価な金属材料に比べ、同社は手頃な価格の材料の物理構造を改良することで、コストパフォーマンスを高めると共に、より優れた光学性能を持たせた。iPaintは標準的な材料よりも量産コストが低いため、事業化しやすいという。

同社は香港の旺角(モンコック)にある商業施設・家楽坊(Gala Place)で、放射冷却塗料のiPaintを使って室温低下の効果と省エネの効率に関する比較実験を行った。その結果、塗料を塗らない屋根の表面温度が午後に62.1度に達した時にも、塗料を塗った屋根の表面温度は31.8度にとどまり、その差は30度を超えた。また6~7月に空調の消費電力を42%減らす省エネ効果も確認できた。

実験現場

製品は現在、iPaintの他にガラスカーテンウォールなどに使える放射冷却フィルム「iFilm」を展開し、冷却セラミックなどの製品も技術開発を終えたという。製品は20以上の国と地域で100件余りのプロジェクトに導入され、建築、化学、電力通信、新エネルギー、物流、食品貯蔵、太陽光発電などの分野で活用されている。

さらに同社は電気不要の放射冷却材料エコシステムを構築し、冷却セラミック、温度制御繊維、自動車用塗料などに製品ラインを拡大している。現在は自動車といった特定分野の顧客と提携を進め、自動車用塗料などの開発を支援している。

将来的には放射冷却技術と人工知能(AI)を組み合わせ、環境に優しい省エネ技術をスマートビルやスマート工場などに導入する計画だ。また中国の広域経済圏構想「一帯一路」を後ろ盾に、政策の追い風を生かして中東や東南アジアなどの暑い国で、省エネ・環境保護技術の普及を進めている。

*1元=約21円で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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