中国、保険会社に「AIアシスタント」 契約査定3分で完了

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世界の人工知能(AI)市場は爆発的に拡大している。米IBMが発表した「2023年世界のAI導入状況」によると、調査対象の中国企業のうち85%が過去24カ月間でAIの導入を加速し、63%が生成AIの活用を積極的に進めていると回答した。

企業向けのAIネイティブアプリを手がける「司普科技(Sipu Technology)」は2021年に設立され、主に金融・保険、電力・エネルギー、医療・製薬、教育・研修の4分野向けのAIアプリを開発している。各分野の業界大手と共同で開発したAIアプリは、契約査定や取引向けのほか、AI文書作成やAIデータベース管理、AI資産管理など多岐にわたる。

Chat GPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)の登場で、AIの操作性と正確性が高まった。AIを活用することで、企業は業務プロセスを最適化してコストを節約できるだけでなく、創造性を高めることも可能になる。

製薬大手と共同開発した逸脱管理用のAIアプリについて、司普科技の張振広・最高経営責任者(CEO)は「製薬会社の品質管理は極めて厳しく、少しの逸脱も許されない。逸脱が発生した場合、その薬品は廃棄することになる。当社のアプリは、AIを利用して品質管理をサポートする」と説明した。

司普科技は、保険会社向けに契約査定用のAIアシスタントを、貴金属などの大口取引を行う企業向けに取引用のAIアシスタントを開発した。再保険世界大手とAIアシスタントの共同開発を進めるなかで、保険申込者が提出した健康診断結果や告知書などを分析・判断するスキルがなければ正確な契約査定ができないことが分かったという。医学的知識の習得に5年以上、保険の知識の習得に3年以上かけた専門のスタッフでも、通常は契約査定に90分かかるが、同社が開発したAIアシスタントならば3分で契約査定が完了する。

張CEOによると、企業向けのAIネイティブアプリを開発するには3つの課題を解決する必要があるという。1つ目の課題は正確性で、大規模言語モデルのトレーニングで実現できる正確性は90%前後にとどまる。司普科技は、独自のAIチューニング技術で正確性を95%まで上げ、さらにAIセルフトレーニング・モジュールを用いて98%に引き上げた。

2つ目の課題は、サンプルデータが少ないことだ。企業の重要データや顧客のプライバシーに関わるデータは使えない。張CEOは「再保険会社の場合、保険契約者の健康診断結果や告知内容が漏洩すると大問題になるため、企業側がデータを提供することはまずない」と語る。司普科技は、独自のAI技術を用いて少量のデータと学習量のバランスをとり、わずか100程度の初期データでAIのトレーニングを完了させられる。

3つ目の課題は、企業が自社専用のプライベート環境で運用できるようにすることだ。多くのAIアプリは企業のデータをクラウドに送り、クラウド上でデータを処理してから結果を出力するが、セキュリティー面で懸念を抱く企業は多い。プライベート環境で動作するAIアプリなら、安全かつ安定的な運用が保障できる。これまで、医療・製薬業界の品質の逸脱データは企業秘密に属するため、データをアップロードして分析することは不可能だった。司普科技は、業界向けの大規模言語モデルにファインチューニングと強化学習を施し、プライベート環境で実行できるようにした。

司普科技は、プロジェクトエンジニアリング、ソフトウエアサービスおよびSaaSのサブスクリプションで収益を得ている。2023年の売上高は500万元(約1億円)だったが、24年は4倍の2000万元(約4億円)を目標とし、海外展開の第一歩として東南アジア・南アジア市場に参入する計画だという。同社は現在、製品開発とプロモーション、組織拡充に用いるため、3000万元(約6億円)の調達計画を進めている。

*1元=約22円で計算しています。

(翻訳・田村広子)

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