ヒューマノイド量産の主役は「スマホ工場」だった。中国EMS大手、一斉にロボットに賭ける理由
電子機器受託製造サービス(EMS)大手「竜旗科技(ロンチー・テクノロジー)」が江西省南昌市に構えるスマート工場では、ロボットユニコーン「智元機器人(Agibot)」の車輪式人型ロボット(ヒューマノイド)「精霊G2」2台がタブレットの生産ラインに導入され、検査工程での製品の搬入・搬出作業を担っている。検査済みのタブレットを正確につかみ上げ、仕分けボックスに入れていく。処理速度は1時間あたり最大316台、8時間連続作業の成功率は99.5%を上回る。
これは1回限りのデモンストレーションではなく、中国のスマホサプライチェーン大手各社が進める大胆な戦略転換の一環だ。スマホなど消費者向け電子機器の製造でロボットによる作業が増えつつある現在、受託製造大手各社はロボット部品事業へのシフトを進めている。
2026年に入り、富士康科技集団(フォックスコン)や華勤技術(ホアチン・テクノロジー)、立訊精密工業(ラックスシェア)、藍思科技(レンズ・テクノロジー)など、かつて中国を「世界の工場」へと押し上げた企業が、続々と人型ロボット業界への参入に踏み切った。人型ロボットの量産化という歴史的チャンスをとらえ、利益の薄い受託製造業のバリューチェーンを再構築しようとする試みだ。
人海戦術の限界、薄利の受託製造から脱却へ
中国のスマホサプライチェーンは過去30年にわたり、厳しいコスト管理と人口ボーナスによって奇跡的な「高効率・低価格」を実現してきた。しかし今、人口構造の変化がその根幹を揺るがし始めている。
従来の検査工程は昼夜2交代制で、スタッフの1日の労働時間は10時間、総歩数は3万歩に及ぶ。しかも取り扱う部品の単価が高いため、彼らは「軍隊的」ともいえる厳しく閉鎖的な環境で管理される。このストレスフルな環境が若者に敬遠され、離職率は1か月で15%に達し、ただでさえ薄い利益をさらに侵食し続けている。しかも、消費者向け電子機器の世代交代は加速しており、用途が限定された従来の自動化設備では生産ラインのニーズに柔軟に対応するのが難しくなっている。
人型ロボットはこれらの課題を柔軟に解決するソリューションだ。人が働くことを前提に設計された工場の環境に適応できるうえ、AIモデルを微調整することで異なる工程にも対応できる。従来からあるロボットアームと相互補完させることで、よりフレキシブルな生産が可能になる。
さらに重要なのは、受託製造企業が人型ロボットに利益確保と生き残りを賭けていることだ。受託製造大手のラックスシェアやホアチンなどの粗利率は長く10〜13%程度を維持しているが、ロボット関節に使用されるハーモニック減速機大手の緑的諧波(リーダードライブ)は2025年の粗利率が37%にのぼった。スマホ出荷台数が伸び悩み、ストレージ価格が高騰するなか、「薄利多売」を続けるのは難しくなっている。そこで新たな成長市場として期待を集めているのが人型ロボットだ。
ロボット産業が求める「世界最高の量産力」
大規模展開を進めているロボット産業も、成熟したサプライチェーンを喉から手が出るほど欲している。従来のサプライチェーンは未成熟だったため、ロボットを運用してしばらく経つと関節部から異音が聞こえたり、わずか数十時間で足裏の素材が摩耗するケースがあり、頻繁に回収・調整をする必要が生じていた。
そして今、コストや生産規模に敏感なラックスシェアなどの受託製造大手が、人型ロボットの製造に積極的に参画しようとしている。この事実は、人型ロボットが量産可能になったことを示すシグナルだと捉えられる。
英調査会社Interact Analysisによると、2025年の世界の人型ロボット生産台数は前年の約10倍に伸び、2万台を突破した。とくに中国勢の存在感は大きく、宇樹科技(Unitree Robotics)と智元機器人(Agibot)がそれぞれ5000台余りと2社の合計が全体の半数を占めたほか、中国メーカーの少なくとも10社が生産台数を数百台以上に伸ばし、1000台以上となったメーカーも現れた。業界関係者によると、1000台という数字は26年にメーカー各社が越えるべきハードルであり、人型ロボットをデモンストレーションの段階から産業化に進めるための分水嶺になるという。
スマホ産業と人型ロボット産業のサプライチェーンには共通する部分が多い。スマホのカメラモジュールやマイクアレイはロボットの「五感」を支えるセンサーに、マイクロモーターやリニアモーターはロボットの精密制御に、高密度電池と液冷技術はロボットの給電・放熱ソリューションに転用可能。チタン合金やカーボンファイバー、折りたたみディスプレーのヒンジは、ロボットの外骨格向けに応用できる。
フォックスコンからラックスシェアまで——出資で築く「ロボット・チェーン」
受託製造大手各社はロボットメーカーに出資することで、すでに人型ロボットの開発・製造に取り組んでいる。
フォックスコン:思霊機器人(Agile Robots)などに出資し、16自由度のダイレクトドライブ式ロボットハンドや産業ロボットなどを独自開発。今後5年以内に人型ロボット2000台以上を自動車生産ラインに配備する計画で、優必選科技(UBTECH Robotics)と長期かつ包括的な戦略提携を結んでいる。
ラックスシェア:衆擎機器人(EngineAI)に出資し、ハーモニックギアなどのコア部品を独自開発。2026年は人型ロボット3000台を出荷する計画で、50億元(約1200億円)を投じて江蘇省常熟市にロボティクス本部基地を建設している。
レンズ・テクノロジー:普渡科技(Pudu Robotics)と霊宝機器人(CASBOT)に出資し、ロボットのコア部品の独自開発と本体組み立てを手がける。そのスマートロボット産業パークの敷地面積は400ムー(約26.7ヘクタール)、中核生産ラインの年産能力は最大50万台にのぼる。Agibotとの共同出資でロボットメーカーを設立している。
ホアチン・テクノロジー:豪成智能を買収し、完全子会社として翌人智能を設立。二足歩行式と車輪式の人型ロボットを開発している。
ロンチー・テクノロジー:Agibotに出資し、開発、生産ラインおよびサプライチェーンの各分野で協力。数億元(数十億円)の調達契約を締結し、自社工場に人型ロボット約1000台の導入を計画している。
人型ロボットの量産が現実のものになりつつある現在、市場は大規模・低コスト・高品質な供給体制を切望している。スマホ受託製造大手が最も得意とする分野だ。そして今、その生産能力がスマホから人型ロボットへと静かに移り始めている。
*1元=約24円で計算しています。
(編集・36Kr Japan編集部、翻訳・田村広子)