人間の脳を模した超高速の演算システムを開発、テック新興「SynSense」がサムスンなどから資金調達

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人間の脳の仕組みを模倣したコンピューティング技術「ニューロモーフィック・コンピューティング」を開発する中国企業「時識科技(SynSense)」がこのほど、数億元(数十億円超)の戦略投資を受けた。寧波通商基金(Ningbo Tongshang Fund)が出資を主導し、サムスン電子などの大手企業も加わった。

時識科技のコアチームは2017年、スイス・チューリッヒの神経情報学研究所(INI)の支援を受けて結成された。現在はチューリッヒのほか福建省寧波市、上海市、四川省成都市などに高度研究開発センターや共同研究室を設置している。

ニューロモーフィック・コンピューティングとは人間の脳を模倣した神経形態学的コンピューティングのことで、電力消費量を節約しながら高い情報処理能力を発揮する。これまでのAIコンピューティングと比べ、省エネ性能や演算能力が桁違いに向上するという。

時識科技は、神経情報学研究所の20年以上にわたる研究をもとに、高性能センサーやチップと組み合わせた複数のソリューションを開発してきた。主な製品にはイベントベースのビジョンSoC「Speck」シリーズ、高精度イベントカメラ「Aeveon」、ニューロモーフィックプロセッサの「DYNAP-CNN」シリーズや「Xylo」シリーズがある。

時識科技の製品の一部

なかでも、ダイナミックビジョンセンサー(DVS)とニューロモーフィックプロセッサを搭載した世界初のイベントベース型ビジョンSoC「Speck」は、顔検出やジェスチャーコントロール、高速障害物回避、物体追跡など、あらゆる種類のIoTビジョンに対応しており、すでに量産を実現している。SpeckはsCNN(スパイキング畳み込みニューラルネットワーク)を採用し、最大32万のニューロンを設定することができる。チップに内蔵されたDVSが超低消費電力で効率的に画像情報を取得するため、即時性は100倍に向上、遅延も0.001秒に抑えられ、システム全体の大幅なコストダウンにつながった。

例えばロボットの場合は、視覚や聴覚、触覚などの情報を多くのセンサーを通じて取得し、それをAIが処理することで、物理世界を認識して適切な行動を取れるようになる。アルゴリズムを使ったこれまでの手法では、ロボット側に高い処理能力が求められ、大量の電力を消費するうえ、遅延の問題も深刻だった。Speckを搭載すれば、消費電力やコストパフォーマンスだけでなく、処理能力も大幅に改善される。

イベントカメラ「Aeveon」も主力だ。同社は少し前に、ニューロモーフィック・ビジョンセンサーを開発するスイスのiniVationを子会社化し、技術力を強化した。一般的なカメラは、一定のサンプリングレートで情報を収集して画像の「フレーム」を生成するが、イベントカメラは人間の網膜に着想を得て開発された全く新しい仕組みのもので、フレームレートの限界を打ち破る高速性を実現した。

フレームベースのカメラとイベントカメラの画像の比較

人間の網膜を模したイベントカメラに、人間の脳を模したニューロモーフィック・コンピューティングを組み合わせることで、高ダイナミックレンジ、低遅延、低消費電力のカメラシステムが実現した。状況の変化を瞬時に検出できるため、速い動きを捉えるのに特に適している。

例えば電力業界では、時識科技が開発したDVSベースの監視ソリューションが現場に導入されており、太陽光発電で電力をまかないながら24時間体制で不正侵入や破壊行為の監視を行っている。イベントカメラは10000fpsクラスの超高速撮影が可能なため、瞬間的な動きも逃さない。

創業者の喬寧告CEOは、現時点ではイベントカメラの実用化が工業と消費者向け電子機器の分野に集中していることに触れ、「できる限り早くDVSの量産を実現し、ニューロモーフィックチップと組み合わせて、電力網をはじめとする工業分野への大規模導入を果たしたい。また、スマートフォンや車載機器、ロボット、XR(クロスリアリティ)デバイスなど電子機器向けの次世代イベントカメラAeveonにも注力している」と語った。

同社はすでに、複数の企業からの受注を獲得し、モバイルデバイスへの応用に関する戦略提携を結んでいる。

*1元=約20円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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